第65話 葬送
葬列は、御城から丘を下った。白い棺を先頭に、御番医たち、白装束の従者、香炉を捧げ持つ列が石段を埋め、先頭が坂の中ほどに達しても、最後尾はまだ城門を出ていなかった。丘の下から見上げると、白い帯が一本、御城から垂れて下りてくるようだった。
御番医の葬儀は本来、御城の内で完結する。外に出たのは、四百年で初めてだという。遺言状に、行き先が書いてあったからだ。
窯裏の路地に、棺が入った。
路地の両側に、竜飼いたちが並んだ。パン屋の女房が、水売りが、炭屋が、井戸端の女が。そして竜たちが──ミゾレの子ら十九頭が、路地の軒下に伏せて、棺を迎えた。
夜だった。
竜たちの喉が、青白く灯っていた。
誰かが号令をかけたわけではない。棺が路地に入ると、軒下の竜たちが順に頭を上げ、喉の奥の火を、灯りのように点していったのだ。青白い火は、ひとつ、またひとつと増えて、狭い路地の両側に、火の道ができた。御番医の白い棺は、その真ん中を通っていった。
継ぎ火で救われた十九の火。老御番医が、規と誇りの隙間を縫って、灰の小壺ひとつで救った火だった。
棺は、路地をゆっくりと一往復して、丘へ戻っていった。御番医たちは終始無言で、ただスバルだけが、路地の出口で一度振り返り、灯る火の数を数えるように、長く立っていた。
ドドが、酒を提げて診療所に来たのは、その晩だ。
「御番医の爺さんに、俺は会ったこともねえけどよ」竜捱きは言った。「あの百十二頭のとき、防疫局に竜捱きの検分を『傍証』にさせたのは、あの爺さんの筋だって聞いた。……数を数える人間の味方だったんだろ、要するに」
「はい」カヤは言った。「そういう人でした」
「なら、献杯だ」
その夜、窯裏の診療所の灯りは、遅くまで消えなかった。
酒を飲まないカヤは、皆の湯呑みに酒を注いで回り、注ぎながら、シラスの言葉をひとつずつ思い出していた。見せたいものがある。目のある者を、間に合わせる。よう見る者だけが、竜の代わりに答えを聞ける。
言葉は全部、宿題の形をしていた。




