第63話 手帖の数字
儀の夜、シラスが倒れた。
医者は「歳です」と言った。竜の医者ではなく、人の医者が。
病床で、老人はカヤを呼んだ。人払いをして、枕元の手帖──カヤが持つものと同じ型の、古い検分録を開かせた。
「読め。代替わりの頁だけでいい」
カヤは、読んだ。
四百年、九回の代替わり。各回に、同じ項目が記されていた。〈吹き込みより、仔の熱の立つまでの刻〉。
初代から四代目まで──四半刻。
五代目──半刻。
六代目、七代目──半刻あまり。
八代目──一刻近く。
九代目、ミカゲ──一刻と半。
「そして今日の十代目は」シラスは言った。「灰の餌を使うて、二刻だ」
数字は、まっすぐな坂を描いていた。四百年かけて、ゆっくりと、確実に、下っていく坂を。
「王家の火は、死にかけとる」老人は、静かに言った。「病ではない。老いでもない。……たぶん、あれは飢えだ。四百年、同じ嚢の中で、同じ株だけで殖え続けて、外の何もくぐらず、何とも混ざらず──株の群れの底が、擦り切れてきとる」
「御城は、知っているんですか」
「代々の御番医は、数字を知っとる。数字の意味を、考えんことにしてきただけだ」シラスは、手帖をカヤの手に押した。「わしも、四十年、考えんことにしてきた側だ」
病床の老人の手は、驚くほど軽かった。手帖を押す力も、もうほとんど残っていなかった。それでも、押した。カヤは両手で受け止めて、頷いた。頷く以外に、できることがなかった。




