第60話 前夜
儀の前夜、保管室で異変が起きた。
見回りの兵が、扉の錠に傷を見つけたのだ。錠は開いておらず、壺は三つとも棚にあった。未遂──として処理された。
カヤは、検分に呼ばれた。壺の中の株は無事か、確かめるためだ。
カヤは壺を一つずつ、両手で持ち上げた。目方を見るときは、器具より手のひらのほうが早い。一つ目、二つ目──手が覚えた重さと、記録の数字が、頭の中で並んでいく。
三つ目で、カヤは手を止めた。
「……この三つ目、株が軽い」
「軽い?」警備の指揮官が眉を寄せた。
「採り分けの日の記録では、三壺で定めの量に足りず、実質二壺半でした。それを差し引いても、軽い。三つ目の壺の株が、半分ほど──ありません」
騒ぎになった。帳簿が照合され、封蠟が検められ、結論は「採り分け時の記録の誤差」とされた。帳簿の上では、壺は三つ、封は無傷、株は定量。錠の傷は「経年」。
カヤの所見は、今度は握り潰されなかった。御番医連名の照会が、その日のうちに警備部へ飛んだ。返ってきた答えは〈調査中〉。十日経っても、ひと月経っても、〈調査中〉のままだった。所見は正式の綴りに残った。残したまま、時間のほうを盗まれた。
宿舎で、カヤは手控えに書いた。
〈三壺目、株が半分ない。帳簿は「誤差」と言う。
錠の傷。技官ムベ。百二十数える検分。
覚え:盗まれたものを「最初からなかった」ことにするのは、数を数えない者たちだ〉
窓の外、御城の塔の上で、警備の火が増えていた。
明日は、儀だった。




