↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
PR
59/138

第59話 夜の講義

儀の七日前の夜、シラスはカヤを自室に呼んだ。


卓の上に、古い綴りが積んであった。歴代の御番医の検分録。四百年ぶん。


紙の色が、地層のように変わっていた。上の綴りは白く、下へいくほど飴色に沈み、いちばん底の一冊は、触れれば崩れそうな鴼色をしていた。四百年という時間を、カヤは初めて、目方で見た。


「王家の火の決まりを、言うてみよ」


「門外不出。外に出さず、外の火を入れず」


「なぜだと思う」


「……守るため、です」


「そうだ。四百年前、この国は火の奪い合いで割れかけた。強い火は奪われ、混ぜられ、潰された。だから王家は誓った。この火だけは、誰にも渡さず、何も混ぜず、そのままの形で継いでいく、と」シラスは綴りを撫でた。「その誓いが、国の柱になった。王家の火が変わらぬ限り、国は変わらぬ。……わしは四十年、その誓いの番人をやってきた」


老人は、そこで長く黙った。


「シラス様」


「ガマの言葉を、覚えとるか。百年生き延びた株は、百年ぶんの病をくぐった株だ、と」


「はい」


「では、四百年守られた株は、どうだ」


カヤは、答えに詰まった。


答えの代わりに、ミカゲの静かすぎる喉を思い出した。百年生き延びた株は、百年ぶんの病をくぐり、そのたびに生き残った群れだけで立て直してきた。強さは、くぐった数だけ身につく。なら、門の内で守られて、病のひとつにも触れずにきた株は──強くなる機会そのものを、四百年、一度も与えられていない。


「……守られただけで、何ひとつ、くぐっていません」


「わしはな、小娘」シラスは、初めて老人らしい声で言った。「この頃、夜中に目が覚めるたび、同じことを考える。わしらが四百年守ってきたのは、火なのか。それとも──火の形をした、誓いのほうなのか」


答えは、出なかった。その夜は。


宿舎への廊下で、カヤは一度だけ振り返った。老人の部屋の灯りは、まだ点いていた。四十年番人をやってきた人が、夜中に目を覚まして考え続けている問いを、自分はたった数日で預けられ始めている。手帖より、よほど重いものを渡され始めている気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。