第58話 控えの壺
儀の十日前、控えの株の採り分けが行われた。
ミカゲの喉に管を入れ、株を三つの小壺に分ける。執刀は筆頭、シラスが検分、カヤは末席で記録を取った。
八十二歳の老竜は、長い管を嫌がりもせず、されるがままに首を伸ばしていた。躊けられた我慢強さは見事で、見事なぶんだけ、少し寂しかった。楢峡の竜も窯裏の竜も、管が嫌なら嫌だと全身で言う。言える相手が、いるからだ。
採り分けは、成功した。ただ、カヤの手控えには、こう残った。
〈採り分け、定めの量に満たず。三壺のところ、実質二壺半。
筆頭の判断で「三壺」と記録された。
覚え:帳簿と株は、もう合っていない〉
壺は白絹に包まれ、堂の奥の保管室に納められた。鍵は筆頭が持ち、警備は軍務局が立てる。
その夜、カヤは宿舎に戻る廊下で、保管室の前に立つ警備兵の交代を見た。交代の兵に、白衣の男が付き添っていた。技官の徽章。中年の、目の細い男。
男は保管室の錠を検め、何かを帳面に付け、去った。
カヤは、セイの言葉を思い出した。壇の周りに立つ人間の顔を、覚えておいてください。
覚えた。
手控えに、書いた。
〈技官ムベ。保管室の錠を検分。所要、百二十数える間。長い〉
錠を検めるだけなら、二十数えれば済む。
百二十は、錠を検める時間ではない。錠を、覚える時間だ。
カヤは筆を置いて、灯りを消した。廊下の足音が遠ざかるまで、暗がりの中で数を数えていた。




