↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
PR
58/138

第58話 控えの壺

儀の十日前、控えの株の採り分けが行われた。


ミカゲの喉に管を入れ、株を三つの小壺に分ける。執刀は筆頭、シラスが検分、カヤは末席で記録を取った。


八十二歳の老竜は、長い管を嫌がりもせず、されるがままに首を伸ばしていた。躊けられた我慢強さは見事で、見事なぶんだけ、少し寂しかった。楢峡の竜も窯裏の竜も、管が嫌なら嫌だと全身で言う。言える相手が、いるからだ。


採り分けは、成功した。ただ、カヤの手控えには、こう残った。


〈採り分け、定めの量に満たず。三壺のところ、実質二壺半。


筆頭の判断で「三壺」と記録された。


覚え:帳簿と株は、もう合っていない〉


壺は白絹に包まれ、堂の奥の保管室に納められた。鍵は筆頭が持ち、警備は軍務局が立てる。


その夜、カヤは宿舎に戻る廊下で、保管室の前に立つ警備兵の交代を見た。交代の兵に、白衣の男が付き添っていた。技官の徽章。中年の、目の細い男。


男は保管室の錠を検め、何かを帳面に付け、去った。


カヤは、セイの言葉を思い出した。壇の周りに立つ人間の顔を、覚えておいてください。


覚えた。


手控えに、書いた。


〈技官ムベ。保管室の錠を検分。所要、百二十数える間。長い〉


錠を検めるだけなら、二十数えれば済む。


百二十は、錠を検める時間ではない。錠を、覚える時間だ。


カヤは筆を置いて、灯りを消した。廊下の足音が遠ざかるまで、暗がりの中で数を数えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。