第57話 警備名簿
儀の警備は、軍務局の管轄だった。
式典警備の名簿が防疫局にも回ってきたのは、儀の二十日前である。竜の集まる式典には防疫の確認が要る──疫のあとにセイたちが作った決まりのおかげだった。
セイは、名簿を三度読んだ。
一度目は上から。二度目は下から。三度目は、名簿に載っていないものを探して読んだ。十二年の検疫官暮らしで身についた読み方だった。帳簿の嘘は、書いてある行より、書いてない行に多い。
警備兵百二十名。指揮官の名。従卒の名。そして、名簿の末尾、「技術検分」の枠に、ひとつの名があった。
〈軍務局技官 ムベ〉
セイは、その名を知っていた。二十二年前の「竜火改良研究」の発足名簿にあった名だ。軍火計画の、最初からの技官。凍結された研究の、生き残り。
式典警備に、火株の技官が要る理由は、ない。
セイは上申書を書いた。〈技術検分枠の任用理由の開示を求める〉。回答は三日後に来た。〈式典設備の火気確認のため〉。紙切れ一枚だった。
セイは、その足で窯裏に行った。
「カヤ先生。儀の日、壇の周りに立つ人間の顔を、覚えておいてください」元検疫官は言った。「私は式典には入れません。防疫の権限は、門の外で止まる。──また、門の外で」
「中は、あたしが見ます」カヤは言った。「三年前と、逆ですね」
「ええ」セイは、少しだけ笑った。「今度は、あなたが中にいる」
セイが帰ったあと、カヤは手控えに、ムベ、と一つだけ名を書いた。名前の横に何を書くべきか、まだ分からなかった。分からないものは、分からないまま書いておく。埋まる日が来るとしたら、それはたぶん、良くない日だ。




