第55話 診立て比べ
翌日、スバルはカヤを御竜の間に呼び、診立て比べを仕掛けてきた。
「ミカゲ様の火の、殖えの速さを述べよ。当てられたら、陪席と認めてやる」
株の殖えは、外からは見えない。餌の量と、火の強さと、熱の戻りの速さから割り出すしかない。カヤは一日、ミカゲの傍らに座った。餌の刻限、量、火入れのあとの熱の立ち、戻り。全部を手控えに取った。
老御竜は、座り込んだカヤを嫌がらなかった。時々、片目だけ開けて、手控えを走る筆の音を聞いていた。ミゾレも、歳を取ってからはこうだった。歳を取った竜は、あまり動かない。動かないぶん、目がよく喋る。ミカゲの目は──何も、喋らなかった。喋り方を、忘れてしまったような目だった。
夕方、答えた。
「並の竜の、三分の一です。餌の量と、火入れのあとの熱の立ちと、戻り。三つから逆算しました。歴代の記録と、突き合わせてください」
スバルは奥から検分の綴りを出し、頁を繰って、長く黙った。それから綴りを閉じ、口調を立て直して言った。
「……合っている。歴代の検分の数字と、寸分違わずだ。陪席は認める。──だが、当てたところでな。四百年の火は、元来静かなものだ。歴代の記録でも、殖えは遅い。それが王家の火の格というものだ」
「歴代の記録、見せてもらえますか」
「陪席にその権限はない」
押し問答を、戸口で聞いていた者がいた。
「見せてやれ」
シラスだった。久しぶりに会う老御番医は、杖をついていた。歩みは遅く、目は白く濁りかけていた。それでも、声は変わらなかった。
「スバル。おぬしは『元来』と言うたな。元来とは、いつからだ」
「それは──記録の、初めから」
「記録の初めを、おぬしは読んだか。わしは読んだ。四十年前に読んで、それから、読み返すのが恐ろしゅうて、読んでおらん」老人は、カヤに向き直った。「小娘。よう来た。……見せたいものがある」
スバルが、何か言いかけて、やめた。若い御番医の顔には、不服より先に、別のものが浮かんでいた。四十年、誓いの番人をやってきた老人が「恐ろしい」と言った。その言葉をこの堂の中で聞いたのは、たぶん初めてなのだった。




