第49話 冬の帳場
冬の窯裏は、去年と同じように回った。
雪の朝は竜の趾が割れ、夜明け前から荷竜が並ぶ。湯気の桶。軟膏。銅五十文。夕方には往診、夜には急患。
違うのは、帳場に三人いることだった。
ツグミは十三歳になり、竜の押さえを一人で任されるようになった。年明けには、初めて診立てを口にした。パン屋の窯竜の食欲不振を、カヤより先に「歯です」と言い当てたのだ。得意げな顔が三日続いたので、ガマが「診立ての礼は竜に言え」と釘を刺した。
クロは元気に炭を運び、ゴウタは北への旅ですっかり逮しくなって、水売りの看板竜になった。窯裏の夜には、あいかわらず青白い火が灯る。ミゾレの子らは、十九頭とも、今年の冬も無事だった。
カジからは月に一度、北の報せが届いた。管理下の四頭は安定。軍火の実態調査は遅々として進まないが、検疫官の立入は、事前通告付きながら三度実施された。セイは初回の立入で、二十年間誰も書けなかった帳面の一行目を書いたという。
〈カルナ砦軍竜舎。実在の竜、二十九頭。帳簿と一致〉
たったそれだけの一行に、二十年かかったのだ、とセイの手紙にはあった。
夜、カヤはシラスの手帖を開いて、白い頁に、少しずつ書き足していく。逆継ぎ火、八例。息の焦げの三段階。灰の湯気の分量表。
筆を置いて、ふと、帳場を見る。
ガマが薬研を挽いている。ツグミが器具を数えて仕舞っている。火鉢で薬缶が鳴っている。
カヤは手控えの隅に、誰にも見せない一行を書いた。
〈当たり前は、いいものだ〉




