第48話 手帖を継ぐ
初雪の晩、シラスが窯裏に来た。
老いた御番医は、火鉢の前に座ると、白絹の包みを卓に置いた。去年、王家の灰が入っていたのと、同じ絹だった。
今度の中身は、手帖だった。
焔嚢の襞の図。株の植え方。日数。分量。失敗例。あの夜、カヤが夜通し写した、御番医の手帖──その原本だった。
「シラス様、これは」
「わしの目は、もう細い」老人は言った。「先だっての検分で、竜の息の焦げを、おぬしより三日遅れて拾った。三日は、竜の生き死にの三日だ。……道具は、目のある者が持つべきだ」
「写しなら、持っています」
「写しには、余白がない」シラスは手帖を押した。「持って、書き足せ。逆継ぎ火の頁は、まだ白いままだ。おぬしが埋めよ。……わしの師も、そうやってわしに渡した。手帖というものは、そうやって継ぐ」
カヤは、両手で受け取った。継ぎ火の株と同じ重さの物を受け取った気がした。
「それと、一つ、耳に入れておく」シラスは声を落とした。「近いうちに、御城で分け火の儀がある。王家の火の、四百年目の代替わりだ。……軍務卿が、その儀の警備に、妙に熱心でな」
「妙に、というのは」
「四百年の火は、この国で一番古く、一番強い株だ」老人は、火鉢の火を見た。「軍火の研究が凍結された今、強い株を欲しがっとる者にとって、あれはどう見える──という話よ。まだ、何も起きてはおらん。起きてからでは遅いから、言うておく」
窓の外で、雪が音もなく降っていた。
カヤは手控えに、短く書いた。
〈御城で、分け火の儀がある。覚えておくこと〉




