第47話 呼び名
名前の出どころは、北だった。
カルナ砦のハギから、手紙が届いた。歪んだ、力のこもった字だった。
〈カヤ先生へ
ゲンは元気です。火は並になりましたが、荷駄の仕事で誰より働くので、司令が「兵器じゃなくなったのに一番役に立っている」と変な顔をしています。
管理下の四頭も、カジ先生の帳面のおかげで、暴走なしです。
ところで、報告があります。砦の連中は、先生のことを「継ぎ火の竜医」と呼んでいます。言い出したのは自分です。自慢です。
火の夜に助かった竜と兵の数を、みんな覚えています。誰かが訊くたび、自分たちは話します。話すたび、名前が要るので、そう呼びました。
いつか、ゲンと芋を運んで、王都に行きます。
ハギ〉
名前は、北から街道を下って、竜飼いの口から口へ、王都に着いた。
継ぎ火の竜医。
最初にその名で患竜を連れてきたのは、隣町の粉屋だった。次は川向こうの水車小屋。次は、丘の上の屋敷の使用人が、こっそり。
「都で一番の竜医が下町にいるって、ほんとですか」
と訊かれるたび、カヤは同じことを答えた。
「うちは銅三十文の診療所です。診るのは、あたしとうちの先生と、弟子が一人。それだけです」
夜、帳場を締めながら、ガマが言った。
「呼び名ってのはな、免状と違って、師会も軍も取り上げられん」老竜医は、火鉢の火を掻いた。「精々、重くなりすぎんように、背負い方だけ覚えろ」
「重いですか、先生も。『窯裏のヤブ』って呼び名」
「あれはいい呼び名だ」ガマは真顔で言った。「安くて、腕のいいヤブほど、竜飼いに信用される看板はない」




