第42話 残った数字
火の夜から十日後、王都から軍務局の査問使が来た。
査問の目的は、カヤの想像と逆だった。
「本件は『竜舎の失火』として処理する」査問使は、書類を読み上げた。「原因は寝藁の管理不備。竜一頭を焼失。以上が軍の公式の記録である。──ついては、関係者に確認する。異存はないか」
なかったことに、するのだ。
軍火の暴走も、九頭の焦げた息も、二十年の「引退」も。
「異存があります」
カヤより先に、声を上げた者がいた。
カジだった。軍竜医は、二十年ぶんの擦り切れた帳面を、査問使の前に置いた。
「カルナ砦軍竜医カジ。本件は失火ではなく、軍火株の暴走です。同種の予兆のある竜が、当砦だけで、なお四頭。他の砦にもいるはずです。……この帳面は、私が二十年つけてきた、軍火の竜の記録です。処置二百四十一頭。うち『引退』七十六。返却百六十五──返された竜で、五年生きた例はありません──」
「軍竜医。その帳面は、軍の機密の無断記録だ。今この場で軍規違反を自白していると分かっているのか」
「分かっています」カジは言った。「二十年、分かっていて、黙っていました。だから今日だけは、黙りません」
査問使は、帳面を押収した。カジは謹慎。セイは越権調査の廉で防疫局に報告される。カヤの手控えも、再び提出を求められた。
カヤは、手控えを差し出した。
抵抗しなかったことに、査問使のほうが訝しんだ。
「……ずいぶん、素直だな」
「写しは、もう王都にあります」カヤは言った。「あたしの手控えの写しと、カジ先生の帳面の写しと、セイさんの調査記録の写し。火の夜の前の日に、行商の便で送りました。宛先は、御番医シラス様です」
査問使の顔色が、変わった。
「御番医は、師会の外です。軍務局の外でもあります」カヤは続けた。「取り上げる決まりが、ないはずです」
決まりの内側で戦え──イサギの書き付けは、腹に巻いた布の中に、銀貨と一緒に入っていた。




