第39話 火の夜
最初に暴走したのは、ドウという十歳の軍竜だった。
夜半、竜舎の自分の房で、突然、火を吐き始めた。命令もなく、標的もなく、ただ喉の奥の株が燃える端から、火が漏れ出た。寝藁に移り、梁に移り、竜舎の北半分が燃え上がった。
兵たちは竜を外に出そうとした。だが、燃えながら暴れる十歳の軍竜に、近づける者はいなかった。
そして、竜舎の火と悲鳴は、他の竜を怯えさせた。
怯えは、火株を煍る。
焦げた息の竜が、あと八頭、同じ屋根の下にいた。
「二頭目が来るぞ!」誰かが叫んだ。ハチの房から、火が漏れ始めていた。
バン司令は、燃える竜舎の前で、二十年前の防疫局と同じ場所に立たされた。
選択肢は、一つしか見えなかった。
「──焦げ息の九頭を、房から出して、崖側に並べろ」司令は言った。「処分する。竜舎ごと燃えるよりましだ」
「司令!」
声を上げたのは、ハギだった。少年兵は、ゲンの房の前に立ち塞がっていた。
「ゲンはまだ燃えてません! 九頭のうち七頭は、まだ燃えてない! 治せる人が、いるじゃないですか! 営倉に!」
「ならん。あれは機密に触れた──」
「機密って、なんですか!」ハギは叫んだ。燃える竜舎の照り返しで、少年の顔は赤かった。「燃えてる竜の、どこが機密なんですか! 対岸からだって見えてる! ガルデの物見が今、全部見てますよ! 隠すものなんか、もう、どこにも──」
司令は、対岸を見た。
川向こうの砦の物見台に、火を映して、人影が並んでいた。
バン司令は、二十を数えるあいだ、黙っていた。
それから、言った。
「営倉の竜医を、連れてこい」




