第38話 焦げた息
調査の三日目の夜、カヤは賭けに出た。
カジの手引きで夜の竜舎に入り、三十頭全頭の息を、順に確かめたのだ。焦げの強さで並べ、手控えに一覧を作った。
〈カルナ砦軍竜三十頭・息の検分
焦げ強:二頭(ドウ、ハチ)──暴走まで十日と見る
焦げ中:三頭(ゲン、クワ、タツ)──ひと月
焦げ弱:四頭──二、三月
無臭:二十一頭
覚え:軍火の暴走は、灰咳と同じで、息が先に教える。
誰の帳面にも載らない竜の順番を、ここに載せる〉
書き終えたとき、竜舎の灯りが、一斉に増えた。
「そこまでだ」
バン司令が、兵を六人連れて、通路に立っていた。
「防疫局の調査は、見学までと言ったはずだ。夜間、無断で竜舎に立ち入り、軍事機密たる軍火の状態を記録した。──その帳面を渡せ」
カヤは、手控えを胸に抱えた。
「渡せません。これは、あたしの診療記録です」
「軍の竜の記録は、軍の機密だ」
「竜の息は、軍の機密ですか」カヤは言った。「司令。この帳面には、焦げた息の竜が九頭載っています。九頭は、放っておけば順に焔嚢が暴走して、燃えます。最初の二頭は、十日以内です。あたしはそれを、治しに──」
「連れていけ」
兵が、カヤの腕を取った。手控えは取り上げられ、セイは調査権限の逸脱を難詰され、カジは「案内の不手際」の名目で謹慎を命じられた。
カヤは、砦の営倉に入れられた。
石の壁の、狭い部屋だった。灯りはなく、窓の格子から、対岸の物見の火だけが見えた。
十日以内、と自分で書いた数字を、カヤは暗闇の中で数え直していた。
三日目の夜、それは数字より早く来た。
遠くで、竜の悲鳴が聞こえた。
それから、警鐘。
格子の向こうの夜空が、じわりと、橙色に染まった。




