第35話 二等竜医
二等の昇格試験は、秋の初めにあった。
実技の試験場に入ったカヤは、試験官の席を見て、少しだけ姿勢を正した。三人の真ん中に、あの痩せた試験官が座っていた。
名を、イサギといった。三等の免状に判を押し、「ガマの真似だけはするな」と言った男だ。
患竜は、老いた力竜だった。主訴は「食が細い」。カヤは目、喉、立ち方を診て、口の中を検め、それから飼い主役の職員に、飼料の中身と、竜の寝場所と、この夏の暑さの凌ぎ方を訊いた。
「歯です」カヤは所見を述べた。「左の奥の臼歯が割れて、膿んでいます。飼料を替える必要はありません。歯の処置と、治るまでの間、飼料を湯でふやかすこと。それだけです」
「……付け加えることは」イサギが言った。
「あります。この竜は、痛みを二月は我慢しています。竜は痛みを隠します。群れで弱みを見せた竜から狙われた、野生のころの名残です」カヤは竜の顎を、そっと支えた。「だから、竜が『痛い』と言い出したときは、もう遅い。言い出す前に見つけるのが、竜医の仕事です」
イサギは、長いことカヤを見ていた。
十日後、合格の報せと一緒に、短い書き付けが届いた。イサギの字だった。
〈二等竜医カヤ殿
貴殿が北へ行くという噜を聞いた。
余計な世話を一つ書く。軍とやり合うつもりなら、決まりを破るな。破った者の言葉は、どれほど正しくても、決まりの前で消される。あの男が、そうだった。
貴殿は、決まりの内側で戦え。内側で勝った言葉だけが、決まりを書き換える。
──貴殿の師の真似だけは、するな。そして、貴殿の師を、軽んずるな。あれは、決まりの外で竜を守ろうとして、一人で二十年、代価を払い続けている男だ〉
出立の朝、窯裏の路地には、見送りが並んだ。
パン屋の女房が固パンを一袋、炭屋が炭を一俵、水売りが──ゴウタを牽いてきた。
「北まで、荷はこいつに牽かせてくだせえ」水売りは言った。「軍から帰ってきて、軍に借りを返しに行く竜なんて、こいつくらいのもんでさ」
カヤと、セイと、ゴウタの牽く荷車が、北門を出た。
北へ、十二日の道だった。




