第34話 二十年前の顔
「行くのか」
ガマの問いに、カヤはすぐには答えなかった。
行けば、軍の機密の真ん中に踏み込むことになる。逆継ぎ火は、王都でなら「灰咳後遺の治療」で通る。だが軍の竜舎で軍の株を抜けば、理屈はどうあれ、軍と正面からぶつかる。
「条件を、整えます」カヤは言った。「まず、二等を取ります」
「二等?」
「三等の往診権は王都の内だけです。二等なら、州域に出られます。北へ行くのに、免状の穴があったら、そこから潰される」カヤは指を折った。「それから、セイさんに同行を頼みます。防疫局の調査という名目が要る。それから、シラス様に立ち会いの一筆。それから、診療所はガマ先生とツグミに──」
「カヤ」
ガマが、遮った。
老竜医は、しばらくカヤの顔を見ていた。それから、ふ、と息を吐いた。
「二十年前の俺と、同じ顔をしとる」
「……止めますか」
「逆だ」ガマは首を振った。「二十年前の俺は、その顔のまま、一人で夜中に名簿を書き換えた。誰にも相談せず、破り方も設計せず、破ってから考えた。だから、竜も守り切れず、自分も落ちた」彼は、カヤの並べた指を顎で示した。「お前は、破る前に四つ数えた。……それだけが、俺とお前の違いだ。その違いを、最後まで手放すな」
「はい」
「それと、もう一つ」ガマは薬研の横から、布包みを取って、カヤの前に置いた。
開くと、使い込まれた竜医の器具が一式、油を差されて並んでいた。ガマが一等だったころの、丘の上の道具だった。
「餃別だ」老竜医は言った。「北は寒い。竜の喉も硬い。安物の管じゃ、通らんぞ」




