第31話 逆さの継ぎ火
シラスは、話を最後まで聞いて、まず、一言だけ言った。
「軍火の株を継ぎ替える。つまり、強すぎる先住を、並の株で入れ替える、と」
「はい」
「小娘。継ぎ火の手順を言うてみよ」
「先住の株を七日飢えさせて弱らせ、新しい株を植え、三日餌を絞る」
「では軍火の竜で、それをやったらどうなる」
カヤは、ゴウタの診立てを思い出しながら、考えた。
「……軍火は火力も殖えも三倍。飢えさせても、先住は宿主の体を食って燃え続けます。七日飢えさせたら、株より先に、竜が死にます」
「左様。継ぎ火は『弱った火を強い火で継ぐ』術だ。おぬしがやろうとしとるのは逆──『強すぎる火を、並の火で継ぐ』。わしの手帖には、無い」老人は、そこで少しだけ身を乗り出した。「無いが──考える道は、ある。小娘、去年、ミゾレの株をどうやって殖やした」
「王家の灰を、湯気で吸わせて……」
言いながら、カヤは自分で気づいた。
「……餌だ」
「言うてみよ」
「株は、上等の餌を食うと、速く、強く燃える。軍火の株に、わざと上等の餌を浴びせれば──燃え尽きるのも、速くなる」カヤの声が速くなった。「飢えさせるんじゃない。逆です。食わせて、燃やし切らせる。株の群れの寿命を、先に使い切らせる。燃え尽きて弱ったところに、並の株を継ぐ──」
「理屈は、通っとる」シラスは頷いた。「だが、加減を誤れば、燃やし切る前に竜が焼け死ぬ。火を強くして竜を救うなど、正気の沙汰ではない。……その加減を見切る目が、おぬしにあるか」
「分かりません」カヤは言った。「でも、ゴウタの残りは一年ありません。他の道も、ありません」
シラスは、長いこと黙っていた。
それから、自分の手帖を開き、白い頁に何かを書き付け、カヤに向けた。
〈逆継ぎ火・第一例 立ち会い:御番医シラス〉
「疫時の特例は、まだ生きとる」老人は言った。「灰咳の後遺の治療、と書けば、嘘にはならん。──やるぞ、小娘。わしの手帖の、新しい頁だ」




