第29話 軍の財産
ゴウタの診立ては、一晩かかった。
結論は、三行だった。カヤは手控えに書いた。
〈徴用竜ゴウタ・牡四歳。焔嚢に人為の株の入れ替え痕。植えられた株は火力が並の三倍、殖えも三倍。ただし嚢の襞が火傷で硬化、株は宿主の体力を食って燃え続けている。
このままなら、余命は一年ない。
覚え:これは病気ではない。設計だ〉
「株を抜いて、並の株に継ぎ替えれば、助かる見込みはあります」カヤは水売りに言った。「継ぎ火の応用です。ただ──」
「ただ?」
「軍に、届けが要ります」
継ぎ火は、疫時の特例として御番医立ち会いでのみ許される術だ。今は疫時ではない。それ以前に、もっと根本の壁があった。
翌日、カヤは丘の上の師会に問い合わせ、その足で軍務局の窓口に行き、夕方、答えを持って帰ってきた。
「ゴウタの体は、水売りさんのものです。でも、喉の中の株は──軍の財産だそうです」
診療所が静まった。
「軍火株は軍の機密品で、返却竜の体内にあっても所有権は軍にある。抜くこと、調べること、他人に見せることは、器物損壊と機密漏洩にあたる」カヤは窓口で書き写した条文を読み上げた。「治療するなら、軍に竜を再度引き渡せ、と」
「引き渡したら、どうなるんです」水売りが言った。
「軍で処置する、と言っていました。処置の中身は、機密だそうです」
「──引き渡した竜が、帰ってきた例は」
カヤは、答えられなかった。窓口の役人も、答えなかったのだ。
夜、ガマが酒を出した。珍しく、カヤの前にも湯呑みを置いた。
「竜の喉の中に、軍の財産がある」老竜医は言った。「大した時代になったもんだ」
「先生。あたし、抜きます」
「だろうな」ガマは酒を舐めた。「なら、抜く前にやることが二つある。一つ、シラス様に術の相談。軍火は並の株より強い。継ぎ火の手順が、そのままじゃ通らん」
「二つ目は」
「セイさんに、法の相談だ」ガマは湯呑みを置いた。「二十年前の俺は、決まりを黙って破って、竜を守り切れなかった。今度は──破る前に、破り方を設計する」




