第28話 返された竜
カヤが王都に戻ってひと月経った、初夏の朝だった。
診療所の戸口に、水売りが立っていた。顔色がなかった。
「先生、ゴウタが──ゴウタが、帰ってきたんでさ」
ゴウタは、徴用で北へ行った五頭のうちの一頭だ。軍務が、半年で終わるはずがなかった。
カヤは器具の鞄をつかんで、水売りの家へ走った。
ゴウタは、水売りの庭先に、立っていた。
立ってはいた。だが、カヤは十歩手前で足が止まった。
半年前、徴用の検査場を胸を張って歩いた四歳の若竜が、そこにいなかった。代わりにいたのは、骨の浮いた、鱗の艶の消えた、目の濁った──老竜だった。四歳の、老竜だった。
なのに、火だけが、強かった。
ゴウタの喉は、立っているだけで、内側からぼう、ぼう、と鳴っていた。息を吐くたび、陽炎が立った。夏だというのに、竜の周りだけ、真冬の焚き火のそばのように空気が歪んでいた。
「軍から、書きつけ一枚で返されたんでさ」水売りが震える声で言った。「『軍務不適につき返却』って。あんなに元気だった竜が、半年で……先生、こりゃ何なんです」
カヤは、診た。
目。立ち方。そして喉。
喉に手を当てた瞬間、熱さに手を引いた。火株の熱ではない。火傷をする熱だった。耳を当てると、焔嚢の奥で、株が燃える音がした。並の株は、餌を食って、静かに燃える。これは──暴れて、燃えている。
息を嗅いだ。甘くはない。
焦げ臭かった。
「ガマ先生」カヤは診療所に走り戻った。「二十年前に診た、軍帰りの竜。『火が妙に強くて、若いのに老竜みたいな体』──いま、うちの庭先にいます」
ガマは薬研を置いて、立ち上がった。
「二十年ぶりだな」老竜医は言った。「今度は、焔嚢を開けさせてもらうぞ」




