第27話 北の竜舎
王国の北の端、カルナ砦。
ハギは十四歳で、竜兵見習いだった。
竜兵というのは、軍竜の世話をし、戦になれば竜と一緒に前に出る兵のことだ。ハギの相棒は、ゲンという名の八歳の荷竜あがりで、二年前の徴用で南の農村から来た。
ゲンは、いい竜だった。力が強く、辛抱強く、ハギが寝坊すると鼻先で頭を押して起こした。
そして、ゲンの火は、異様に強かった。
軍竜の火は、みんな強い。砦に来た徴用竜は、最初にみんな「処置」を受ける。喉に管を入れられて、三日高熱を出して、それから、火が変わる。並の荷竜だったゲンの火は、処置のあと、岩を割るようになった。
「軍火ってんだ」古参の竜兵が教えてくれた。「軍のお偉い技官様が作った、強い火株よ。並の株を焼き出して、植え替える。これで竜は三倍働く」
「すごいですね」
「ああ、すごい」古参は、それきり黙った。
すごい、の続きを、ハギは半年かけて自分で知った。
軍火の竜は、二年で「引退」する。
引退の竜は、瘦せている。若いのに、鱗の艶が消えて、目が濁って、老竜のような体になる。引退竜は夜のうちに砦の裏から運び出され、どこへ行くのかは、誰も教えてくれない。訊いた竜兵は、殴られた。
ゲンが砦に来て、もうすぐ二年になる。
このごろ、ゲンの火は、ますます強い。強すぎる。夜、竜舎で、ゲンの喉が内側からぼう、と鳴るのを、ハギは聞くことがある。眠っている竜の喉で、火が、勝手に燃えている音だった。
そして先週から、ゲンの息は、少し焦げ臭い。
ハギは軍医に言った。軍医の答えは決まっていた。
「軍火は軍の財産だ。不具合は軍が直す。──騒ぐな」
直された竜を、ハギは一頭も見たことがなかった。




