第26話 分け火
ミゾレの火を診て、カヤは村長に告げた。
「もって、ひと月です。それと──分け火をするなら、早いほうがいい。株に力が残っているうちでないと、継げません」
村長は、囲炉裏の前で長いこと黙っていた。
「ミゾレの火を、ユキに」
「はい」
「……分け火をすれば、ミゾレは早く逝くのか」
「少し、早くなります」カヤは正直に言った。「株を分ければ、残りの火は細ります。何日か、縮むと思います」
「なら、わしには決められん」村長は首を振った。「カヤ。おまえが決めろ。竜医だろう」
「あたしにも決められません」
カヤは、去年、王都で老いた御番医に言われた言葉を、そのまま使った。
「ミゾレに訊きます」
翌朝、カヤは竜舎にユキを連れて入った。
仔竜は、老竜の大きさに怯えて、カヤの後ろに隠れた。ミゾレは寝藁から頭だけ起こして、白い仔をしばらく見ていた。
それから、老竜は、ゆっくりと体を起こした。
骨の浮いた長い体で、寝藁を割って、仔竜の前まで這った。ユキは逃げなかった。逃げる代わりに、きゅう、と小さく鳴いた。
ミゾレは、仔竜の鼻先に自分の鼻先を合わせ──それから、口を開けた。
カヤは、息を止めて見ていた。
小さな火の玉が、老竜の喉の奥から、そっと吹き込まれた。百五十三年、楢峡の岩盤を温め続けた火が、生まれてひと月半の白い喉に移っていく。ユキは咳き込み、きゅうと鳴いて、それから、喉の奥がほんのりと熱を持った。
村中が、竜舎の外で見ていた。誰も、何も言わなかった。
ミゾレは、それから九日、生きた。
最後の朝、老竜は自分から竜舎を出て、村の下の岩盤──百五十三年温め続けた温泉の源の上まで歩き、そこに長い体を横たえて、目を閉じた。
カヤは、最期まで喉に手を当てていた。
熱が消えたのは、昼だった。痛みの気配はなかった。火株の群れが、最後のひと群れまで燃え終わって、静かに冷えていく──それだけだった。
夜、カヤは手控えに書いた。
〈ミゾレ。百五十三年。楢峡の岩盤の上にて。
火は、ユキの喉と、王都の十九頭の喉で、燃えている。
覚え:竜は死ぬ。火は続く。それを続けさせるのが、竜医の仕事〉
書き終えて、初めて泣いた。




