第25話 村からの文
春先、行商のジジさんが手紙を運んできた。
村長の字で、たった二行だった。
〈湯が、温くなってきた。
ミゾレは、まだ火を保っている。だが、来られるなら早いほうがいい〉
カヤは、その日のうちに支度をした。
「行ってこい」ガマは言った。「診療所は俺とツグミで回す。無免状でも、押さえと薬の調合はできる。診断の要る患竜は、丘の上に回す」
「先生」
「なんだ」
「……ミゾレの火は、あたしが株分けで削りました」カヤは、ずっと胸にあったことを口にした。「あのとき削らなければ、あと二年は──」
「カヤ」ガマは薬研を止めた。「その帳尻は、竜が自分で決めた。お前が横取りするな」
楢峡への十日を、七日で歩いた。去年と同じ道。峠の雪は、去年より早く緩んでいた。
村に着くと、竜舎の前に子どもらが集まっていた。
ミゾレは、寝藁の上にいた。
長い体は骨が浮いて、鱗の艶は失せていた。だが、カヤが戸口に立つと、老竜はゆっくりと頭を上げ、まばたきを一つした。
カヤは、駆け寄らなかった。竜医として、まず立ち方を見て、目を見て、それから喉に手を当てた。
熱は、細かった。去年、灰で殖やして強くした火が、株分けで削られ、そこからまた一年、燃え続けて──もう、燃やすものが残り少ない。
「ミゾレ」カヤは言った。「よく保たせたね」
老竜は、カヤの手のひらに、乾いた鼻先を押しつけた。
その鼻先は、人の肌より、もう少しだけ温かかった。まだ、温かかった。
竜舎の隅で、小さな影が動いた。
仔竜だった。真っ白な鱗の、生まれてひと月ほどの牝。この春、山向こうの村で生まれた仔を、譲り受けたばかりだという。
「名前は、ユキっていうんだ。生まれてすぐ、親竜を亡くした仔での」村長が言った。「まだ、火をもらっとらん。分け火の期限は、生まれてふた月。──それまでに、ミゾレの火を、と思うとった」




