第19話 継ぎ火
カヤが王都に戻ったのは、出立から二十八日目だった。
背負い籠の中に、湯を張った桶で保温した株壺が三つ。ミゾレの株を、灰で殖やして株分けしたものだ。道中、毎晩湯を替え、朝晩、餌の糖蜜を差した。株は生き物だ。運ぶのも、飼うのと同じだった。
窯裏の裏房には、火の細った竜が二十六頭、待っていた。
最初の一頭は、水売りの荷竜──窯裏の一例目の竜になった。飢えさせ七日目。カヤが管を入れ、ガマが頭を押さえ、シラスが横で分量を見た。免状のあるのはカヤ一人だから、判はすべてカヤの名で押された。
三日、餌を薄くして待つ。
四日目の朝、竜の喉に手を当てたカヤは、掌に、熱を感じた。
新しい熱だった。細くなっていた株の熱ではない。若く殖える株の、強い熱。
七日目、竜は小さく火を吐いた。青白い、百五十年の色の火だった。
「ついたな」ガマが言った。
水売りは、土間に座り込んで、しばらく立てなかった。
二頭目、三頭目。失敗もあった。五頭目の老竜は、飢えの七日に耐えられず、六日目に継いだ。先住の株が残りすぎて、新しい株は焼かれ、竜は十日後に火を落とした。カヤはその日、手控えに長い記録を書き、最後に一行足した。
〈六日で継いではならない、のではない。六日しか保たない竜には、別の道がまだない。探すこと〉
ひと月で、二十六頭中、十九頭に火がついた。
四頭は継ぎが失敗し、三頭は継ぎを待たずに逝った。
十九頭の火は、どれも青白かった。窯裏の路地に、夜、竜たちの喉の熱がぽつぽつと灯って、パン屋の女房はそれを「ミゾレの子」と呼んだ。百五十二年の株が、二十六年しか生きていない荷竜の喉で燃えている。株は竜より古く、竜より長く続いていく。
継ぎ火の記録は、カヤの名で師会に提出された。
防疫局は、受理までに二十日かけた。受理の通知には、こう書かれていた。
〈継ぎ火の術、禁を解かず。ただし疫時の特例として、御番医立ち会いの下でのみ、これを允す〉
「お堅い決まりごとに、また一つ隙間が開いたな」ガマは通知を読んで言った。「定めってのは、そうやって少しずつ変わっていく。……お前みたいな変えるやつが現れたときにな」




