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第17話 王家の灰

判定試験の日になった。


市中で出た疑いの出ている竜、合わせて二十頭。カヤが息で判定し、防疫局の立ち会いのもと、経過と、死んだ竜の解剖所見とを照合した。


二十頭中、二十頭、一致。


照合の記録には、竜捌きドドが処分の日に数えた六十三頭の検分──罹り十九、白四十四──も、傍証として添えられた。数えた者がいたから、使えた数字だった。


〈息の甘変による灰咳の早期判定を、仮検査法として採用す〉


布告が辻に貼られた日、窯裏の路地で、小さな祝いがあった。パン屋が売れ残りを配り、炭屋が火を焚いた。誰も大声では喜ばなかった。この判定の前には百十二頭の犠牲があったことを、全員が知っていた。


そして、判定が通っても、治療は別の問題として残っていた。


罹った竜は、いまも窯裏の裏房で、少しずつ火を細らせている。継ぎ火に使える百年株は、ゴズが死んだいまとなっては都には王家の火しか残っていない。そして王家の火が出てくることはない。


その夜、シラスが診療所に来た。


老人は、卓の上に、白絹の包みを置いた。


包みの中には、陶の小壺があった。


「王家の火は、出せん」シラスは言った。「これは、火ではない。灰だ」


「灰、ですか?」


「王家の竜の焔嚢は、代替わりのたびに検分される。四百年ぶんの検分で、嚢から掻き出された古い株の死骸──つまり灰が、御城の書庫に納めてある。株は死ねばただの灰。門外不出の定めは『火』に掛かる。灰には、掛からん」シラスは小壺の蓋を開けた。細かい、銀色がかった灰が入っていた。「屁理屈だと思うか」


「思います」


「わしもだ」老人は初めて、少しだけ笑った。「だが、四十年御城に勤めて覚えたことが一つある。定めを破らずに定めの隙を通るのは、破るより手間がかかるが、あとに道が残る」


「この灰で、何ができますか」


「灰から株は起きん。死んどるからな。だが」シラスは手帖を開いた。「株は、共食いをする。強い株は、死んだ株の灰を餌にして殖える。それも、並の餌の何倍も速く、強くだ。四百年の灰は、株の餌としては、この世で一番上等の餌だ」


「待ってください」カヤは、途中で口を挟んだ。「株が灰を食べるなら、竜の嚢に灰が残るのは、おかしくないですか。灰咳の嚢は、灰で塞がるのに」


「良い問いだ」シラスは、嫌がらなかった。「元気な群れはな、死んだ仲間の灰を食うて、嚢を自分で掃除しとる。だから並の竜の嚢に、灰は溜まらん」


「じゃあ、なんで王家の検分では、灰を掻き出すんですか」


「群れが老いると、食う力より、死ぬ数が勝つ。掻き出すのは、その食い残しだ。……王家の火は、昔から食い残しの多い火でな」老人は、それ以上は言わなかった。


「灰咳は」


「病んで死んだ株の灰を、株は決して口にせん。だから食われずに積もって、嚢を塞ぐ。同じ灰でも、健やかに燃え尽きた灰と、病んで果てた灰は、別物だ」シラスは小壺を指した。「これは、前のほうだ。四百年ぶんのな」


カヤは、理解した。


「……ミゾレだ」


「おぬしの村の竜の株は百五十二年。質は申し分ない。足りんのは、老いて殖える力が細っとることだけだ」シラスは小壺の蓋を閉め、カヤのほうへ押した。「おぬしが都へ来たのは、そもそも、あの竜を治すためだったはずだ。この灰なら、それが叶う。持って帰って、殖やしてやれ。ミゾレの火は強くなり、冬を越える」


カヤは、小壺を両手で受け取った。


「殖えた株を、株分けすれば──」


「その先は、わしの言うことではない」シラスは、立ち上がりながらカヤの言葉を止めた。「殖えた株を分けて、罹った竜たちに継ぐ道も、たしかにある。だが、株を分けるというのは、竜の寿命を分けるということだ。分けたぶん、ミゾレの残りの火は短くなる。治しに帰って、削るかどうか──それはおぬしが決めることでもない。」


「では、誰が」


「竜だ」老人は言った。「竜自身が決める。だから、よく目を見て意思を読み取れ。お前はそれが得意だろう」

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