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第18話 帰郷

以前は十日だった楢峡の村までの道のりを、カヤは九日で歩いた。


峠を越えて村が見えたとき、最初に確かめたのは、竜舎の煙出しだった。細いが、湯気が上がっていた。ミゾレは、まだ火を保っていた。


村は、カヤの免状を回し読みして、それから、カヤの話を聞いた。


王都の疫のこと。百十二頭のこと。継ぎ火のこと。王家の灰のこと。


そして──ミゾレの株を分ければ、ミゾレの残りの火が短くなること。


「どのくらい、短くなる」村長が訊いた。


「分かりません」カヤは正直に言った。「灰で殖やしてから採れば、削りは浅くて済みます。それでも、ただでは済みません。ミゾレはこの冬を越せても、次の冬か、その次には──」


「治しに帰ってきたんじゃなかったのか」誰かが言った。「王都の竜のために、うちの竜を削りに帰ってきたのか」


囲炉裏が鳴った。


カヤは、その言葉を受け止めた。半分は、その通りだったからだ。


「……あたしは、両方やりに帰ってきました」カヤは言った。「灰でミゾレの株を殖やします。殖えれば、ミゾレの火は今より強くなります。この冬は、確実に越せます。そこから株を分けるかどうかは──」


カヤは、シラスの言葉を、そのまま使った。


「ミゾレに訊きます」


翌朝、カヤは竜舎で処置を始めた。


王家の灰を、熱い湯に溶いて、立ちのぼる湯気をミゾレに吸わせる。焔嚢は気道の脇にある。息と一緒に入った灰が嚢に届くように、吸わせたあとは火を短く吐かせて、喉の奥の気流を回す。手帖の分量を、ミゾレの歳と弱りに合わせて三分の一に薄めた。ここは術ではなく、目だ。


三日目、ミゾレの咳が減った。


五日目、朝の火が、黄色から白に戻った。


七日目、ミゾレは自分から竜舎を出て、村の子どもらの前で、二十年ぶりに空に向かって火を吐いた。青みがかった白い火だった。村中が見に出た。


十日目の朝、カヤは竜舎で、採取の器具を並べた。


並べただけで、手を止めた。喉から管を入れられるのは、竜にとって楽なことではない。強いるつもりは、なかった。


「ミゾレ」カヤは言った。「王都に、火が消えかけてる竜が、二十六頭いる。あんたの株なら、継げる。継いだら、あんたの火は短くなる」


ミゾレは、寝藁の上で、長いことカヤを見ていた。


それから、ゆっくりと首を伸ばして、並べられた器具の横に、顎を載せた。


喉を、カヤのほうに向けて。


竜は口が利けない。だから、立ち方と、目と、首の向きが、口の代わりだった。

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