第15話 竜捌きのドド
ドドは、竜捌きだった。
死んだ竜を解体し、鱗と骨と革、そして肉に分ける。それが本業だ。竜捌きの仕事は、竜が死んだところから始まる。生きている竜に、手を出すことはない。
だが二十年に一度ほど、順序の狂った仕事が来る。仕事の始まりを、自分の手で作らされる仕事──生きている竜を、死んだ竜にするところから、やらされる仕事だ。
処分の朝、東竜舎には、ドドを頭に十六人の捌き手が集められた。
「手順を言う」ドドは若い衆に言った。「眉間の三寸下に、竜の急所がある。そこを一突きだ。ためらうな。ためらうと、浅く入る。浅く入ると、竜は苦しむ。俺たちにできるのは、苦しませねえことだけだ」
百十二頭は、房の順に牽き出された。
荷竜。井戸竜。窯竜。竜市で売れ残って、たまたまこの竜舎に戻された仔竜が四頭。
竜は、賢い。房から出された順に、何かを察して、鳴き交わした。竜の声は低くて、床から響く。百頭の声が重なると、地鳴りになった。
ドドは、朝から昼まで、黙って手を動かした。
昼過ぎに、長老竜のゴズの番が来た。
百二十年。ドドが子どもの頃から、東竜舎の主だった竜だ。ドドの親父も、爺さんも、この竜の牽いた荷で育った。
ゴズは、暴れなかった。牽かれた場所に立ち、集まった捌き手を順に見て、最後に、ドドを見た。
竜は口が利けない。だから立ち方が口の代わりだ──と、いつか窯裏の小さい竜医が言っていた。
ゴズの立ち方は、静かだった。
ドドは、一突きで終わらせた。
夕方、百十二頭が終わった。
柵の外に、朝からずっと、二人立っているのをドドは知っていた。白髪の竜医と、若い竜医。手続きの紙を全部使い果たして、それでも帰らなかった二人だ。
ドドは、柵まで歩いて、若いほうに言った。
「あんたか。息の匂いで罹りが分かるってのは」
「……はい」
「昼までに捌いたぶんで、焔嚢まで開けたのが六十三頭いた」ドドは言った。「罹りの嚢は、開けりゃ分かる。襞が灰で埋まってやがる。六十三のうち、灰が出たのは──十九頭だ」
カヤは、柵を握った。
「あとの四十四頭は」
「きれいなもんだった」ドドは言った。「あんたらの言う『白』ってやつだ。……数だけでも、持って帰んな。誰かが数えとかねえと、あの四十四頭は、最初から罹ってたことにされちまう」
その日の夜、ドドは一人で酒を飲んだ。
飲みながら、何度も自分の手を見た。今日いちばん綺麗に急所へ入った突きのいくつかは、開けてみれば白の嚢だった。腕がいいことが、こんなに嫌な晩は、初めてだった。
二十年前の処分のときも、親父が同じ役だった。親父は生涯、その話をしなかった。
なんで黙っていたのか、今夜、初めて分かった。話しても詫びにならず、話さなくても忘れられない。そういうものは、黙って抱えるしかないのだ。
ドドは、隅の帳面に、生まれて初めて仕事の数字以外のことを書いた。
〈百十二。うち、たしかに罹り十九。白四十四。開けなかった残りは、わからない。
あと十日早けりゃあ。……思っても、突いた手は戻らねえ〉




