第134話 それぞれの春
春は、それぞれの場所に来た。
ハギは三等試験に受かった。実技の患竜の跛行を、脚を触らずに言い当てた。試験官席のイサギは、何も言わなかったが、合格発表の書き付けの端に、小さく〈立ち方を見る目、師譲り〉と書いたという。
ツグミは二等に上がり、丘の上からの三度目の引き抜きを、三度目に断った。
ソラは一歳半になり、ゲンの背中に乗って昼寝をする癖が抜けず、窯裏の子どもらに「にいちゃんのせなかのやつ」と呼ばれていた。
カジからの手紙には、カルナ砦の竜舎が「国境竜医療所」に改組されたとあった。軍竜医と民間竜医が同じ帳場を使う、国で最初の施設だった。所長はカジ。副所長の欄は空白で、〈いずれ、峠の少年が育ったら〉と書き添えてあった。
アサヒは、月に一度の検分のたび、火が太くなっていた。ミゾレ系の火は、御城の広い堂でも勢いを落とさず、若い御竜は近ごろ、朝の日課に、堂の床石を自分の火で温めることを覚えた。
誰も教えていない。強いて言えば、ひと冬、隣で寝ていた白い竜が、先生だった。
そして、その白い竜は──
「帰るんだね」
御城の庭で、カヤはユキの首に手を当てた。株分けと長旅で、ユキの火は診立て通り、少し細くなっていた。それでも、まだ十分に強く、若かった。
白い竜は、北の空を見ていた。峠の雪は、もう緩み始めているころだった。
楢峡の岩盤が、主を待っていた。
出立の日取りを聞いた夜、カヤは手帖の楢峡の頁に、小さく書いた。〈ユキ、帰郷。株分けの削り、診立て一年で戻る見込み〉。数字の下に、数字でないものをひと言だけ足した。〈よく、やった〉。手帖に私情を書くなとガマは言う。これは私情ではなく、所見である。そういうことにした。




