第132話 最後の株
一つだけ、処遇の決まらないものが残っていた。
押収された、盗まれた王家の株──ムベの手元で汚され、献上の茶番に使われた、四百年の火の最後の生き残りである。
合議は、カヤに意見を求めた。
「株は、もう戻せません。軍火と灰咳の癖が染みています。どの竜の喉にも、入れられない」カヤは言った。「ですから──看取ってあげてください。餌を止めて、静かに。燃え尽きたら、灰にして」
「灰にして、どうする」
「御城の書庫に、王家の灰の棚があります」カヤは言った。「四百年ぶんの、代々の株の灰が納められた棚です。五年前、あたしはあの棚の灰に、楢峡の竜を救ってもらいました。その灰が殖やした株が、いま、アサヒ様の喉で燃えています。……この株の灰も、あの棚に納めてください。いつか、どこかの竜の火が細ったとき──四百年の火は、灰になってもまだ、誰かの火を殖やせます」
合議は、満場一致だった。
株は御番医たちの手で静かに看取られ、灰になり、白絹に包まれて、書庫の棚に納められた。
棚の札に、スバルが筆を入れた。
〈十代目の灰。四百年、燃えたり。
この灰、乞われれば、いずれの竜の火のためにも用いるべし〉
門外不出の棚が、その一行で、開かれた棚になった。
書庫を出るとき、カヤは棚に向かって、小さく頭を下げた。五年前、この棚の灰に楢峡の竜を救われた。今日、この棚に、四百年の灰を返した。借りと返しの帳尻が合うまで、五年。竜医の帳簿としては、悪くない速さだった。




