第130話 十一代目
記録を巡って、最後のひと揉めがあった。
御番医の公式の記録に、この施術をどう書くか。
「〈王家の火、継続〉と書くべきだ」年長の御番医が言った。「民には、四百年の火は続いていると──」
「それは、嘘です」スバルが遮った。「私は施術に反対した人間ですが、記録に嘘を書くことには、もっと反対です。四百年の火は、終わりました。私たちは五人とも、その刻を数えて、手帖に書いた。あれを無かったことにするなら、私たちの四百年の記録は、全部が信用を失う」
議論は王の前に持ち込まれ、王は、カヤに意見を求めた。
「記録は、正直に」カヤは言った。「そのうえで、こう書けばいいと思います」
カヤが口にした文を、書記が写し、王が認め、御番医五人が連署した。四百年の検分録の、新しい頁の一行目である。
〈王家の火、十代にて燃え尽く。その終わりは安らかにして、五名の番人これを看取る。
御竜アサヒ、楢峡ミゾレ系の火を継ぎ、健やかなり。
これを十一代目の火とす。
火は絶え、火は継がれ、竜は生きる〉
公表の布告は、意外なほど静かに受け止められた。
都の人々は、四百年の火の終わりを悼み、それから、雪を融かして歩いてきた白い竜の話をし、御城の上に立った細い火の話をした。国の柱は折れなかった。柱は、火ではなかったのだ。火を絶やすまいとしてきた人と竜の営みのほうが、柱だった。
布告の写しを、ツグミは帳場の壁に貼った。飴色の鱗と、軍務卿失脚の貼り紙の、隣だった。「並べると、うちの壁、すごいことになってますね」と弟子は言った。処分された竜の鱗と、罰された者の名と、継がれた火の記録。壁一枚に、この物語の帳尻が、だいたい揃っていた。




