第129話 三日
待つ三日は、長かった。
餌を絞り、熱を測り、記録を書く。カヤは堂に泊まり込んだ。ユキは夜ごと床石を温め、ハギは記録を取り、スバルは事後審査の書類を──反対意見の欄まで、几帳面に埋めながら──整えた。
都には、何も公表されていない。それでも、何かが起きていることは、漏れ伝わっていた。御城の一角の灯りが三晩消えないこと。北から歩いてきた白い竜が、御城に上がったきりであること。窯裏の竜医が、三日、診療所に戻らないこと。
窯裏の路地では、夜、竜飼いたちが、なんとなく診療所の前に集まった。
「……祈るってのは、どうやるんだったかね」パン屋の女房が言った。
「さあな。俺は竜捌きだ。祈りより、看取りのほうが本職でな」ドドが言った。「だが、まあ──あの先生が三日徹夜してるなら、こっちも三日、夜更かしくらいはしてやるさ」
路地の竜たちの青白い火が、その三晩、いつもより遅くまで灯っていた。
三日目の朝。
カヤは、アサヒの喉に、手を当てた。
掌に──熱が、あった。
覚えのある熱だった。強すぎず、細すぎない。灰の餌に支えられた借り物の熱ではない。株が自分で餌を食い、自分で殖え、自分で燃える、生きた火の熱。
この五年間、村で、下町で、北の砦で、何十回も確かめてきた、あの熱だった。
「……ついた」
カヤの声は、掠れた。
「ついた!」ハギが叫んだ。
アサヒが、頭を上げた。若い御竜は、自分の喉に自分で驚くように、二度、三度、息を吸い──それから、堂の高い天井へ向けて、細く、青白い火を、ひと筋吐いた。
二歳半の御竜の、生まれて初めての、自分の力だけの火だった。
路地のほうでは、その朝、診療所の前に集まっていた竜飼いたちが、丘の上の細い火をたしかに見た、と後々まで言い張った。御城の堂の中の火が路地から見えるはずはない。それでも、見た、と全員が言った。見えるはずのないものが見えた朝の話は、どこの土地でも、いちばん長く残る。




