第127話 火を止める
施術の一日目は、何もしない日だった。
正確には──灰の餌を、止める日だった。
二年半、細い火を支え続けてきた松葉杖を、外す。それだけのことに、御竜の間の全員が、呼吸を浅くした。餌を止めれば、四百年の群れは、支えを失って尽きていく。もう戻らない坂を、自分たちの手で下り始めるのだ。
カヤは、アサヒの喉に手を当て続けた。
熱が、ゆっくりと引いていく。
スバルが、刻を読み上げる。ハギが記録を取る。ユキは堂の隅で、床石を温めながら、静かに待っている。王は、朝と夕、堂に来て、柱の陰に立った。
二日目の夜、熱の引き方が変わった。
なだらかだった坂が、急になった。四百年の群れが、底を打ち始めたのだ。株の燃える音が、疎らに、さらに疎らになっていく。カヤは耳を当て、指を当て、時々目を閉じて、群れの数を読み続けた。
「……朝までは、もちません」夜半、カヤは言った。「夜明け前だと思います。全員、起きていてください」
堂に、灯りが増えた。
御番医五人が、それぞれの手帖を持って、堂の壁際に並んだ。四百年の火の最後を、記録する者たちだった。誰も命じていないのに、五人とも、正装だった。
灯りの下で、カヤはアサヒの喉から手を離さなかった。掌の下で、四百年が一刻ずつ減っていく。その減り方を、カヤは怖いと思い、同時に、静かだとも思った。ミゾレと同じだ。正しく燃え終わる火は、暴れない。暴れずに済むように、ここまでの全部があったのだ。




