第126話 ちゃんと揉める
施術の前夜、スバルとカヤは、御竜の間の控えで向き合った。
「反対だ」スバルは言った。「最後に、もう一度だけ言っておく。私は、この施術に反対だ。四百年の火は、この国が四百年、守り抜いた唯一のものだ。それを守るのが私の誓いで、私は明日、自分の誓いが破られるのを見る」
「はい」
「……その上で、立ち会いを務める」御番医は、続けた。「見届けるのも、番人の仕事だからだ。そして万一、術の途中で判断が割れたら、私は君と揉める。竜の安全のためなら、術の中断も要求する。事後審査でも、書くべきことは全部書く」
「それでお願いします」カヤは、頭を下げた。「反対のまま立ち会ってくれる人が隣にいるのが、一番安全な手術です。賛成だけの部屋は、間違いに気づけないので」
スバルは、少し黙って、それから、ふ、と息を吐いた。
「……シラス様が、なぜ最後にあんたを呼んだのか、この頃ようやく分かってきた」
「なぜですか」
「あの人は、四十年、賛成だけの部屋にいたんだ」スバルは言った。「部屋の外から戸を叩く者を、ずっと待っていたんだと思う」
二人は、朝まで手順を詰めた。飢えさせの要らない継ぎ火。灰の餌を止め、四百年の群れが自然に尽きていくのを見極め、尽き切る寸前──空きかけて、しかしまだ冷え切らない嚢に、採りたての株を植える。
見切りどきが、全てだった。
早ければ、残った四百年の群れが新入りを焼く。遅ければ、嚢が冷え、アサヒの体力が尽きる。
その見極めは、術ではなく、目だった。
夜明け前、手順書の最後の行を書き終えて、スバルが筆を置いた。「……訊いておきたい。あんたは、怖くないのか」
「怖いです」カヤは即答した。「怖くなくなったら、この仕事は辞めます」
「そうか」御番医は、少しだけ肩の力を抜いた。「なら、隣にいられる」




