第123話 二頭の御対面
ユキが御城に上がった日、雪が降っていた。
白い竜は、御竜の間の入口で立ち止まり、堂の中の匂いを長いこと確かめた。香の匂い。石の匂い。そして、弱った竜の匂い。
アサヒは、床に伏せたまま、頭だけを起こした。
二頭の御対面に、儀式はなかった。カヤとスバル、ハギだけが立ち会った。ユキはゆっくりと堂を横切り、若い御竜の前で足を止め──それから、鼻先を、そっと合わせた。
ミゾレがユキにした作法を、ユキはアサヒにした。
アサヒが、小さく、きゅうと鳴いた。二歳半の御竜が、仔竜の声で鳴くのを、カヤは初めて聞いた。
二頭は、その日から同じ堂で過ごした。ユキは頼まれもしないのに、アサヒの隣の床を選んで伏せ、夜の間、自分の火で床石を温めた。楢峡の岩盤にしてきたことを、御城の石にした。温められた石の上で、アサヒは久しぶりに、深く眠った。
「……付き添いの竜がいるだけで、熱の乱れが減っている」翌朝、スバルが記録を見て、呟いた。「こんな療法は、どの手帖にもない」
「窯裏では、いつもやってます」ハギが言った。「ゲンの隣だと、どの竜もよく眠るんです」
スバルは、しばらく黙って、それから手帖に書いた。生真面目な字で。
〈付添竜による保温と鎮静。下町の療法。有効〉
書き終えて、スバルは少し笑った。「四百年の検分録に『下町の療法』と書く日が来るとはな」
「効くものは効くので」
「ああ。……効くものは、効く」
御番医の筆は、もう迷わなかった。




