第121話 出所
部屋の空気が、割れた。
「証拠が要る、とおっしゃるなら」カヤは、鞄から綴りを出した。「二年前の採り分けの記録。三壺で定めの量に満たず、実質二壺半──あたしの検分の控えです。儀の前夜の、錠の傷の記録。当夜の警備名簿にあった、技官ムベの名。軍務局の倉庫に儀の三日後に搬入された〈陶壺一〉の受け入れ記録。カルナ砦の実験棟の飼料発注記録と、灰漏れ事故の防疫記録。実験棟に置き去りにされた仔竜の、二重の火の診療録──」
一枚ずつ、卓に置いた。セイの二年、カジの記録、そしてカヤ自身の手控え。ばらばらに数えられてきた数字が、卓の上で、一本の線に繋がった。
「この壺は、献上品ではありません。盗品の、返品です」
軍務卿は、脂汗を浮かべて、それでも言った。
「わしは……回収した、と言うたはずだ。心なき者の手から」
「では、その者の名を」スバルが言った。「回収の経緯と共に、この場で」
沈黙が、答えだった。
三日後、技官ムベが、南の港で捕縛された。国外へ渡る船を待っていた。所持品の中に、実験の記録と、軍務卿の署名入りの指示書が三通あった。二十二年、一度も表に出なかった署名が、逃げる男の荷物の中から出た。保身のために持ち歩いていたのだ──主が自分を切り捨てたときの、切り札として。
切り札は、切られる前に、全部を切った。
報せを聞いた夜、窯裏の帳場は静かだった。祝う者はいなかった。ツグミが飴色の鱗を磨き、セイが眼鏡を拭き、ガマが酒を一口だけ舐めた。二十二年かかった。祝いというより、長い長い検算が、ようやく合った夜だった。
軍務卿の失脚は、冬の初めの布告で公にされた。罪状は、王家の株の窃盗教唆、軍火研究の違法継続、戦時大権の濫用。二十二年前まで遡って、灰咳の三百頭も、二年前の三百八頭も、初めて公式に「出どころ」と結ばれた。
辻の貼り紙の前で、都の人々は長いこと動かなかった。
ツグミは、その貼り紙を写して帰り、診療所の帳場の、飴色の鱗の横に貼った。




