第13話 クビの値打ち
地図の上で考えるのは簡単だった。
東竜舎の長老竜ゴズ。百二十年株。都の中にいる。歩いても半刻。
楢峡のミゾレ。百五十二年株。歩いて十日。往復二十日。しかも当のミゾレ自身が、火株の老衰で弱っている。
「ゴズだ」ガマは言った。「ゴズの株を分けてもらう。東竜舎の管理は師会だ。防疫局に株の提供を申請する。シラス様の口添えがあれば、通る」
申請は、二日で戻ってきた。
通らなかった。
理由は、申請書の余白に一行だけ書かれていた。
〈当該竜は処分対象につき、提供に適さず〉
「処分?」カヤは書類を二度読んだ。「ゴズは罹ってません。先週、検疫所に報告を届けたついでに、セイさんの立ち会いで房まで通してもらって、息を確かめました。白です」
ガマは書類を持ったまま、しばらく動かなかった。それから、上着を掴んだ。
「東竜舎へ行く」
東竜舎の封鎖柵の前で、二人は検疫官のセイに会った。セイは、窯裏の症例報告を防疫局に取り次いでくれていた男だ。彼は柵の内側から、声を落として言った。
「三日後です」セイは言った。「東竜舎の残存竜、百十二頭。封鎖前に飼い主が引き取った竜と、火が消えて死んだ竜を除いた数です。罹りも、疑いも、白も、まとめて処分と決まりました。防疫局の裁定です。『個体別の判定は時間を要し、その間に拡散の危険が上回る』──裁定文の写しです」
ガマは写しを読んだ。読み終えても、何も言わなかった。
「二十年前と、同じ文です」セイは言った。「文言まで、ほとんど同じだ。私は当時を知りませんが、記録は読みました。あのときも『時間を要し』でした」
「判定に時間はかからん」カヤは柵を掴んだ。「息の甘変なら、一頭あたり百数える間で分けられます。百十二頭でも、二日あれば──あたしと先生とで、全頭診れます」
「防疫局は、息の甘変を検査法と認めていません」セイは言った。「認めるには実証がいる。実証には症例の追跡がいる。追跡には時間がいる。──三日では、制度のほうが間に合わないんです」
「だから殺すんですか、百十二頭も」
セイは、答えなかった。答えの代わりに、彼は懐から自分の手帳を出して、柵越しにカヤに渡した。
「私が竜市の前に付けていた記録です。〈異常なし〉と書き続けた日々の、裏の帳面です」セイは言った。「防疫局への異議申し立てには、発生初期の記録が要る。私の正規の帳面は全部〈異常なし〉だ。だからこれは、私が検疫官を続ける限り、表に出せない帳面です」
カヤは、手帳を受け取った。
「あなたが出してください」セイは言った。「私の名前ごと、出して構わない」
「検疫官、クビになりますよ」
「クビ一つくらい、百十二頭よりは、安いもんです」




