第119話 献上
ユキの到着の三日前、御城では、別の株が卓に載っていた。
軍務卿が、合議の場に白絹の包みを持ち込んだのだ。
「王家の火の危難、伏せられてはおるが、わしの耳にも届いておる」老練な政治家は、沈痛の面持ちで言った。「ついては──これを、献上したい」
包みの中は、陶の壺だった。
「さる筋より、わしが私財を投じて回収した、正統の王家の株である。出所は問うてくれるな。乱世ゆえ、心なき者の手に渡っておったものよ。……アサヒ様の危難に、外の株を入れるなどという暴論も聞こえてくるが、王家の火は、王家の株でのみ継がれるべきであろう」
合議が、ざわめいた。
門外不出派の御番医たちの顔に、隠しようのない安堵が浮かんだ。外の株という禁忌を犯さずに済む道が、目の前に現れたのだ。出所の怪しさは、その安堵の前では小さな染みだった。
スバルだけが、即座に言った。
「検分を求める。株の状態を確かめずに、御竜の喉には入れられない」
「疑うのか、御番医どの」
「疑うのが、職分です」スバルは引かなかった。「検分には、外の目の陪席を求める。定めの通りに」
軍務卿の目が、初めて細くなった。
「……あの下町の娘か」
口調は静かだったが、老練な政治家の目から、初めて余裕の色が消えていた。帳面と検分。この娘の武器を、男はよく知っていた。知っていて、それでも壺を持ち込んだのは、他に手が残っていなかったからだ。




