第116話 ユキに訊く
翌朝、カヤは竜舎に、採取の器具を並べた。
五年前、ミゾレの前に並べたのと、同じ器具だった。並べ方も、同じにした。それから、白い竜の前に座って、全部を話した。
「王都の、御城に、火の消えかけてる竜がいる。アサヒっていう名前で、あんたより二つ下の女の子。四百年続いた火の、最後の一頭」
ユキは、伏せたまま、カヤを見ていた。
「あんたの株なら、継げる。継いだら、あんたの火は少し短くなる。それと──冬の峠を、王都まで歩いてもらうことになる。雪の峠。十日の道。壺じゃ駄目なの。あんたの喉ごと、来てもらうしかない」
カヤは、そこで言葉を切った。
「断っても、いいんだよ。あんたはこの村の竜で、この村の湯が、あんたの仕事だから」
ユキは、長いこと、カヤを見ていた。
それから、ゆっくりと立ち上がり、竜舎の戸口へ歩いて、外を見た。北の峠の方角だった。初霜の朝で、峠の上のほうは、もう白かった。
白い竜は、白い峠をしばらく見て、それから戻ってきて、並べられた器具の横に──顎を、載せた。
喉を、カヤのほうに向けて。
ミゾレと、同じだった。教えた者は、誰もいないのに。
「……分け火ってのは、そういうものまで継ぐのかもしれんな」
戸口で見ていた村長が、掠れた声で言った。
カヤは、ユキの喉に額を付けて、一度だけ、短く言った。
「ありがとう。──行こう」
竜舎の外で、村長が盛大に洟をかんだ。「……泣いとらんぞ。寒いだけじゃ」
「はい」
「ミゾレのときも、寒かった」
「はい」
初霜の朝の竜舎で、人と竜は、それぞれのやり方で同じことを決めた。




