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継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
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111/138

第111話 二つの火が揺れた夜

ミカゲは、夜半に逝った。


駆けつけたとき、御竜の間には香が焚かれ、五人の御番医が壁際に並んでいた。誰も泣いていなかった。番人たちは、泣く代わりに書く。五冊の手帖に、同じ刻限が書き取られていくのを、カヤは戸口で見ていた。


八十三年の生涯だった。痛みの気配はなかった。火株の群れが最後のひと群れまで燃え終わって、静かに冷えていく──カヤがこの手で看取った、何十という竜と同じ、静かな終わりだった。


問題は、その半刻後に倒れたアサヒだった。


若い御竜は、御竜の間の床に伏せ、浅く速い息をしていた。喉の熱は、前の検分の半分もない。灰の湯気を立てても、熱は立ち上がらなかった。


カヤは、一晩かけて手を尽くした。灰の濃度を変え、温めた布で喉を包み、餌を絞り、また緩めた。夜明け、ようやく熱は戻った。戻った、というより──踏みとどまった。


「原因は、ミカゲ様の死ではありません」後日、カヤは御番医たちに所見を述べた。「重なっただけです。アサヒ様の株の群れは、もともと殖えの底が尽きかけていた。灰の餌という支えで二年半、立っていただけです。その支えが、効かなくなり始めた」


「つまり、どうなる」筆頭が訊いた。


「このままなら」カヤは、数字を置いた。「アサヒ様の火は、冬を越えられません」


御竜の間が、静まった。


四百年の火の、最後の宿主の喉で、火は静かに細り続けていた。


帰りの石段で、カヤは一度だけ空を見た。夏の終わりの空は高く、鳶が一羽、御城の塔の上を回っていた。ミゾレを看取り、シラスを看取り、司令の帳面を写した。それでも、四百年の看取りの話は、手控えのどの頁にもない。誰の手帖にも、ないのだ。

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