第109話 春の検分
「外の目」の検分は、戦争のあいだ、止まっていた。
再開の登城日、カヤは久しぶりに御城の石段を上った。陪席はスバル。御番医は今も五人のまま──六人目の推挙は、あれきり凍っている。
ミカゲ、八十三歳。
老御竜は、眠っている時間が長くなっていた。火は、静かに、細く、燃え続けている。カヤは喉に手を当て、長く数え、所見を書いた。
〈ミカゲ様。火は保つも、殖えはほぼ止まる。余命、火の上で一年から二年。
安らかに。処置は一切、不要〉
アサヒ、二歳。
若い御竜は、体は立派に育っていた。銀の鱗は美しく、立ち方は素直で、カヤの顔を見ると、儀の日を覚えているのか、自分から首を差し出した。
喉の熱は──細かった。二年前と、同じ細さだった。良くなっていない。悪くなってもいない。灰の餌という松葉杖で、細い火が、細いまま立ち続けている。
カヤは、所見を書いた。正直に。
〈アサヒ様。現状維持。ただし、これは回復ではない。
灰の餌への依存が年々深まっている。餌なしでは、火は立たない。
根治の道は、現行の定めの内には、ない──二年前の所見に、変更なし〉
帰りの石段で、スバルが言った。
「ミカゲ様が逝かれたら、四百年の火は、アサヒ様の喉にしか残らない」
「はい」
「あの細い火に、四百年が、ぶら下がる」御番医は、丘の下を見た。「……カヤ殿。前に言った『いつか』が、近づいている気がする」
「あたしも、そう思います」カヤは言った。「だから、揉める準備を、ちゃんとしておきましょう。お互いに」
石段の下で二人は別れた。振り返ると、御番医の白い背中が、ゆっくりと石段を上っていくところだった。四百年を背負って上る背中は、出会った頃より、心なしか薄くなっていた。背負う側の人間の背中を、カヤはこの数年で、何人ぶんも見送ってきた。




