↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
PR
109/138

第109話 春の検分

「外の目」の検分は、戦争のあいだ、止まっていた。


再開の登城日、カヤは久しぶりに御城の石段を上った。陪席はスバル。御番医は今も五人のまま──六人目の推挙は、あれきり凍っている。


ミカゲ、八十三歳。


老御竜は、眠っている時間が長くなっていた。火は、静かに、細く、燃え続けている。カヤは喉に手を当て、長く数え、所見を書いた。


〈ミカゲ様。火は保つも、殖えはほぼ止まる。余命、火の上で一年から二年。


安らかに。処置は一切、不要〉


アサヒ、二歳。


若い御竜は、体は立派に育っていた。銀の鱗は美しく、立ち方は素直で、カヤの顔を見ると、儀の日を覚えているのか、自分から首を差し出した。


喉の熱は──細かった。二年前と、同じ細さだった。良くなっていない。悪くなってもいない。灰の餌という松葉杖で、細い火が、細いまま立ち続けている。


カヤは、所見を書いた。正直に。


〈アサヒ様。現状維持。ただし、これは回復ではない。


灰の餌への依存が年々深まっている。餌なしでは、火は立たない。


根治の道は、現行の定めの内には、ない──二年前の所見に、変更なし〉


帰りの石段で、スバルが言った。


「ミカゲ様が逝かれたら、四百年の火は、アサヒ様の喉にしか残らない」


「はい」


「あの細い火に、四百年が、ぶら下がる」御番医は、丘の下を見た。「……カヤ殿。前に言った『いつか』が、近づいている気がする」


「あたしも、そう思います」カヤは言った。「だから、揉める準備を、ちゃんとしておきましょう。お互いに」


石段の下で二人は別れた。振り返ると、御番医の白い背中が、ゆっくりと石段を上っていくところだった。四百年を背負って上る背中は、出会った頃より、心なしか薄くなっていた。背負う側の人間の背中を、カヤはこの数年で、何人ぶんも見送ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。