第108話 湯の便り
楢峡からの手紙は、溜まっていた。
戦中は行商の便も細り、村長の手紙は三通まとめて届いた。カヤは、順に読んだ。
一通目。〈ユキ、四歳。体は先代の七分まで来た。湯は熱い〉
二通目。〈冬、大雪。だが湯が熱いので、誰も難儀しておらん。ユキが雪の日に岩盤の上から動かんのは、ミゾレとまったく同じだ。血は繋がっとらんのに、不思議なものだ〉
三通目。〈戦が終わったと聞いた。おまえが無事なことも、ジジさんから聞いた。
春に、顔を見せろ。ユキがおまえを覚えとるか、賭けをしとる。わしは覚えとるほうに銅五十文賭けた〉
カヤは、三通を読み終えて、しばらく笑った。
それから手帖を開き、楢峡の頁に数字を足した。ユキ、四歳。火は青白、殖え良好、雪の日に岩盤を離れず。
隣の頁が、王家の頁だった。
アサヒ、二歳。灰の餌で支えて、殖えは並の三分の一のまま。スバル経由の報せでは、この一年、良くも悪くもなっていない。支えている限りは保つ。支えている限りは。
二つの頁を、カヤはまた、長いこと見比べた。
戦争の間も、この二つの数字は、それぞれの場所で静かに進んでいたのだ。
〈覚え:戦争は終わった。時計は、止まっていない〉
筆を置いて、カヤは二つの頁の間に指を挟んだまま、灯りの油が減っていくのをしばらく見ていた。北で一年、命の順番ばかり決めてきた。次に順番を決める日は、たぶん、この二つの頁のどちらかのために来る。




