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継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
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107/138

第107話 窯裏の春

窯裏の路地は、変わらずにあった。


パン屋の窯には火が入り、井戸竜は車輪を回し、クロは炭を、ゴウタは水を運んでいた。診療所の木札は四枚のまま、朝の患竜の列も、いつも通りだった。


変わったものも、あった。


土間の定位置に、竜が二頭になった。ゲンの隣に、ソラの寝床が増えたのだ。灰色の仔竜は窯裏の子どもらの人気者になり、「じゅうななごう」という出自を知る者は、路地では誰も口にしなかった。


ツグミは十八になっていた。留守の一年で、単独の往診は四十件を超え、丘の上から引き抜きの声がかかって、断ったという。


「なんで断ったの」カヤが訊くと、ツグミは心外そうな顔をした。


「先生、それ、自分が御番医を断ったときと同じ質問ですよ」


言われて、カヤは返す言葉を探し、見つからなかった。弟子は師の背中から、いいところも悪いところも同じ精度で写し取る。写し取られた悪いところが、悪いところに見えないのが、少し悔しかった。


ガマは、少し老けた。薬研を挽く手は変わらないが、夕方に一度、居眠りをするようになった。誰もそれを指摘せず、居眠りの間の患竜は、自然にツグミとカヤで割り振られた。


夜、カヤは手控えに書いた。


〈帰還。窯裏、変わらず。変わらないために、みんなが少しずつ変わっている。


覚え:これを守るために、北で一年使った。安い買い物だった〉

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