第106話 戦後の裁定
王都に戻ると、裁定が待っていた。
戦時に動いたすべてが、戦後の帳簿の上で精算される。竜医団の活動。軍火の解禁と、その結果。実験棟の一件。
裁定は、例によって、勝ちと負けを几帳面に混ぜてきた。
〈一、軍火株の処置は、以後恒久にこれを禁ずる。既存の処置竜は、竜医団の手順により順次解除する。
一、実験棟の件は、技官ムベの独断専行と認定する。同人は追捕中。
一、軍務卿は戦時大権の行使につき、責を問わない。
一、戦時竜医団は解散し、その記録は師会に移管する〉
軍火の恒久禁止──二十年越しの、大きな勝ちだった。
そして、軍務卿は今回も、無傷だった。凍結を解いた判も、実験棟の予算も、すべて「ムベの独断」の影に消えた。王家の株の盗難に至っては、公式には「存在しない事件」のままだ。盗まれたと認めれば、儀の警備の失態を認めることになるからである。
「軍務卿は、また判の外か」帳場で、ガマが言った。「恒久禁止は大きいがな。もう二度と、合法には植えられん」
「ええ。……でも、今度は前と違います」カヤは、手控えの北の頁を開いた。「逃げたんじゃなくて、追い詰められて壁を背にしただけです。ムベと、盗まれた株。あの男の手足は、もうそれしか残ってない。次にどちらかが表に出た瞬間──こっちの帳簿のほうが、早い」
「忘れんための道具は、揃っとるな」
器具棚には、シラスの手帖と、バン司令の帳面の写しと、カヤの手控えが、並んで差してあった。
棚の一段が、いつのまにか、死んだ人の帳面で埋まり始めている。ガマはそれを「重くなったな」と言い、カヤは「重くしません」と答えた。帳面は、担ぐものではなく、使うものだ。使われている限り、書いた人は仕事を続けている。




