↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継ぎ火の竜医  作者: 川中アキラ
分け火と御番医
PR
103/138

第103話 ソラ

名前は、ハギが付けた。


「ソラ、です」少年は言った。「檻から出て、最初に見たのが空だったから」


ソラは、湯気班の天幕で育つことになった。書類の上では「保護竜・所有者なし」。戦時の帳簿の隅の、誰も気に留めない一行だった。その一行の下で、灰色の仔竜は毎日餌を食い、ゲンの尻尾にじゃれ、ハギの寝床に潜り込んだ。


カヤは、経過を手控えに書き続けた。


〈ソラ(元・十七号)。火、安定。ミゾレの株。


体の育ちは遅れ気味なれど、追いつく見込み。


喉の襞に、二重処置の癒痕。生涯消えず。ただし、痛みはない〉


書き終えて、カヤは筆を止め、土間で眠る灰色の仔を見た。ゲンの尻尾を枕に、腹を出して眠っている。番号だった生き物が、名前のある生き物の寝方をするようになるまで、ひと月かかった。ひと月で済んだ、と言うべきかもしれない。


それから、最後に一行、誰にも見せない行を足した。


〈一号から十六号のことを、忘れないこと。


ムベは株と共に逃亡。王家の株の残りは、まだあの男の手の中にある。


覚え:この戦争が終わっても、あたしの戦は、一つ残る〉


冬の初め、戦線は完全に膠着した。


両軍とも、渡河の力を失っていた。人が足りないのではない。竜が、足りないのだった。橋は焼け落ち、再建の土工竜はどちらの陣にもおらず、川は、ただの川に戻りつつあった。


そしてどちらの陣にも、竜の数を正確に知る者たちがいた。


王国側に、カヤたちの三百頭の診療録と、カジの帳面と、亡きバン司令の三百十一頭。


ガルデ側に、イェルダの三十年。


数字は、揃っていた。あとは、それを卓に載せる席が要るだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。