第11話 勅命
継ぎ火の記録は、師会の書庫にほとんど残っていなかった。
三等の閲覧証で入れる棚を、カヤは三日通って浚った。見つかったのは、百年前の医書の中の四頁だけ。しかもその四頁は、術の手順ではなく、術の禁止について書かれていた。
〈継ぎ火の術、濫用により禁ず。株の出所を巡り竜の盗掘・焔嚢の抜き取り横行せしため〉
つまり、昔はできた者がいた。できたからこそ、竜を殺して株を抜く者が出て、術ごと封じられた。手順は書き残されず、口伝は絶えかけている。
「先生が見た二例は、誰の術ですか」
「一例目は、俺の師匠だ。もう死んだ」ガマは言った。「二例目は──御番医だ」
「御番医」
「王家の竜だけを診る六人。師会の等級の、さらに上だ」ガマは天井を指した。「王家の火は四百年、一度も消えとらん。消さずに保ってきたのが御番医だ。株の扱いにかけて、あの六人に並ぶ者はおらん」
「会えますか」
「会えん。御番医は御城から出ん。俺たちが上がることもできん」
だが、疫病は、その常識を三日で覆した。
布告から十日、灰咳は東竜舎の外へ這い出した。西の水車竜舎で二頭、南の河岸で四頭。火の消えた竜は二十一頭になり、師会の防疫局だけでは手が回らなくなった。
十一日目、御城から勅命が下りた。
〈御番医六名のうち一名を市中の疫務に差し遣わす〉
差し遣わされた御番医は、シラスという老人だった。
カヤが初めてシラスを見たのは、東竜舎の検疫所だった。窯裏の症例報告を届けに行った先に、白い装束の小柄な老人がいて、防疫官たちが直立していた。
シラスは、カヤの報告書を、その場で最後まで読んだ。
「息の甘変で三日目から拾う、というのは」老人は顔を上げた。「誰の見立てだ」
「師匠の、ガマの所見です。あたしは教わっただけです」
「ガマ」シラスは、その名を舌の上で転がした。「……二十年前の、名簿の男か」
カヤは身構えた。
「あの男の抜いた十七頭の記録は、わしも読んだ」シラスは言った。「六頭の見立て違いの内訳を知っとるか。六頭とも、罹って二日以内の竜だった。三日目より前は、当時の誰にも拾えなんだ。あの男は、二十年かけて自分の見立て違いの二日間を潰したわけだ」
老人は報告書を畳んで、懐に入れた。
「小娘。窯裏では、罹った竜をどうしておる」
「房を分けて、餌を薄めて、火を吐かせずに株の力を温存させています。それで死ぬのを遅らせて──その間に、継ぎ火を探しています」
検疫所の防疫官たちが、ざわりとした。禁術の名を、師会の建物の中で口にしたからだ。
シラスだけが、動かなかった。
「継ぎ火を、誰がやる」
「師匠と、あたしです」
「術を知っとるのか」
「知りません」カヤは言った。「だから、教えてください」




