257 可愛くオネダリ、か
お茶を飲んでレオさんとまったりしている間に、ネロは武器の手入れを始めていたらしい。全然気が付かなかった。身を乗り出して武器を扱うネロの手元を斜め後ろから眺める。
油分を含ませた布で刀身を軽く撫でた後で拭きとる。白くて綺麗な指先が丁寧に短刀の上を行き来する。真剣だけど優しい眼差しが武器に注がれている。
武器を扱う動作の全てにネロの愛情が見て取れる。最後に短刀を持ち上げて刀身を目視で確認するネロの姿は凄く綺麗。スッと伸びた背筋も、鋭い眼差しも、真剣な表情も凛としている。
「レオさんも武器のお手入れをするの?」
「使った後だけする。」
「使用後にするのは当然。普段から手入れを怠るな。」
ネロの武器のお手入れに見入っていたけど、ふと、気になってレオさんに質問をしてみた。レオさんはネロに目を向けたままで穏やかに答えてくれて、即行でネロにダメ出しをされている。
レオさんがヤバって顔になっているのがちょっと可愛い。武器を雑に扱うような事を口に出したら、ネロに注意されても当然かもしれない。だって、ネロは武器には厳しいから。
武器のお手入れは短刀一本で終わりらしく、武器を片付けて、ネロが俺の肩を抱き寄せてきた。髪にキスをされたのを感じてネロに顔を向ける。そうしたら、今度はネロの唇が頬に押し当てられた。俺の脚を抱き締めているレオさんの腕に一瞬力が込められた感じがする。
「じゃぁ、本番開始な感じかな。」
チョットだけ不穏な空気を感じて、そろそろ見せてって意味で号令をかけてみた。頬を緩めて優しく頷いてくれたネロに凭れて、レオさんに目を向けると、レオさんはネロを見つめていた。
ネロの承諾は得られたけど、レオさんはネロに見惚れていて答えてくれない。でも、こんな風に真っ直ぐにネロを見つめるレオさんを邪魔したくない。というか、全然不穏な空気じゃなかった。寧ろ、レオさんの視線は熱い気がする。
「レオ、ベッドを片付けられるか?」
「あ~、どうやるの?」
「〈シール〉を変形させる。」
「成る程。全く分からねぇ。」
「〈シール〉の部分解除は?」
「できる。」
「それの応用。やってみろ。」
どうしたものかと考えていたら、ネロとレオさんの会話が始まった。短い言葉の応酬だけど、会話がどんどん進行していく。甘さや和やかさはない、業務連絡の如き淡々とした口調だ。ぼんやりと見守っている間に会話が終わって、即行でレオさんがこっちをに顔を向けた。
「琥珀。これが誘導してドン引き案件。仮にできなかった場合、恐ろしい程冷めた目で見てくるんだぞ?怖いだろ。」
ちょっとだけ疲れの混じる眼差しで、レオさんがこれが例のアレですよ的に訴えてくる。ただ、前に聞いた時みたいに怯えは全く見えないから、きっと楽しんでいるんだと思う。
「でも、その目がゾクってするほど嬉しいんでしょ?」
要するに、今の状況はネロとレオさんのイチャつきの一環。そう判断して、にっこり笑顔でレオさんの内心を言い当ててみた。レオさんが驚いた顔になったのが見える。そして、レオさんは無言で静かに体の向きを変えてしまった。
直ぐにレオさんの詠唱の声が聞こえてきた。耳に心地いい声を聞きながらベッドに目を向けると、ベッドが変形をしていくのが見えた。外側の風の膜の一部がホースの様になって入り口に伸びていく。
ホースの端っこが入り口から外に飛び出た時点で詠唱が止まった。そして、次の詠唱でベッドの内部の風の膜が消え去った。水が勢いよく動いてベッドがプルンって揺れたのが見える。
レオさんが聞き馴染みのない詠唱を始めたら、ベッドの片側が沈み込んだ。押された事で圧が掛かったらしく、ベッドに充填されている水がホース状の風の筒を伝って勢いよく外に流れだしていく。
ドン引き案件と言っていた割に、普通にネロの要求通りの事ができているレオさんは凄い。尊敬の念を抱いている間にも、水の排出は押す力で加速して、あっという間に水がなくなった。最後に詠唱を一回して、外側の風の膜がなくなって終わり。
「ちゃんとベッドの片付けができたね。あっという間に終わったよ?レオさんはホントスゴイ。カッコいいね。」
「そうだな。」
全てを見届けた後で、ネロを見つめてテンション高くレオさんが凄かったって感想を伝えてみる。ネロは柔らかな微笑みを浮かべながら、静かに同意してくれた。
俺の髪を撫でてくれるネロの手は優しくて嬉しいけど、ネロの言葉はちょっと不満。むぅっと眉を寄せると、ネロは片眉を上げて疑問を伝えてきた。
「レオさんは褒めて伸びる子なんだから、ちゃんと褒めてあげて。」
「成る程。」
不満顔は解除して、言い聞かせるように助言をしてみたら、ネロはちょっとだけ戸惑った感じになっちゃった。少しの間を置いて、ネロが相槌なのか、納得なのか分からない言葉を返してくれた。
そして、ネロの手がレオさんの頭に向かって伸ばされていく。その手を目で追いかけていたら、綺麗な手がレオさんの頭に置かれた。次の瞬間、ネロの手が雑にガシガシとレオさんの頭を撫で始めた。
レオさんの猫耳がネロの手の動きで折れたり、変形したりしていて、メチャクチャ可愛い。ただ、超乱暴な撫で方。でも、レオさんは満更でもない顔をしているから、きっと満足しているんだと思う。
「準備もできたトコロでオタノシミの時間がやってまいりました。可愛いオネダリからのスタートだよ。」
ネロの手が離れた段階で、レオさんの首に抱き着いて耳元で囁いてみた。レオさんは迷わずに俺の背中に手を添えて抱き寄せようとしてくる。でも、ソファの上と下にいるという位置関係のおかげで、レオさんの思惑は失敗。
「ノリノリだな、失敗しても知らんぞ。」
レオさんは諦めた感じで、俺の頭を撫でて溜息交じりに呟いてきた。でもね、失敗してもいいんです。レオさんの首から腕を離して、深い緑の猫目をじーっと見つめる。
「結果は問題ではないのだよ。レオさんが頑張る姿が見たいんだ。」
「マジでドSだな。どうしてこうなった。」
レオさんと目を合わせて、ハッキリと意見表明をしてみたら、レオさんが何故か嘆いてしまった。どこをどう取ったらドSという発想になるのか。まぁ、いい。俺的には二人の仲睦まじい姿を見られたらそれで満足。
「それでは始まり、始まり。はい、どうぞ。」
レオさんと会話を続けているといつまで経っても始まらなそうだから、開始の合図をしてみた。レオさんは苦笑交じりに立ち上がって、ネロの手を掴んだ。そして、ネロを無理遣りソファから立たせて、広いスペースに引っ張っていく。
レオさんが積極的に動く姿が見られて嬉しい。それに、レオさんとネロが手を繋ぐ、というか、レオさんがネロの手首を掴んでいる姿もいい。そして、レオさんの手だけを見ていると、ネロの白くて綺麗な手がエロく見える不思議。ホント、レオさんはイヤらしい。
ネロはちらっと俺と目を合わせたけど、無言でレオさんに従っている。何故か真顔になっているけど、きっと、内心ではレオさんに手を引かれて嬉しい筈。
ベッドが撤去された広いスペースで、デカい黒猫と、デカいこげ茶猫が見つめ合う光景。片や超絶美麗な黒猫、片やイケメンでカッコいいこげ茶猫。見た目のインパクトはばっちりな素晴らしい画角である。
「あのな、琥珀の要望がもう一つ追加されてしまった訳で。だから、何も言わず付き合って。」
「成る程。」
ワクワクしながら見守っていたら、レオさんがチラッとこっちに視線を飛ばした後で、ネロに断りを入れるのが聞こえた。ネロは冷めた態度を崩す事もなく、納得したらしい。
「頼む。片腕で俺を抱き上げてくれ。」
レオさんがネロに向き合った。そして、照れ臭そうに顔を逸らしてオネダリ的な言葉を発したのが聞こえた。確かに態度はちょっと可愛かった。でも、首に腕を絡めて見つめ合う、みたいな恋人のオネダリを期待していた身としては不満しかない。
「可愛くオネダリじゃなから、失格です。」
「外野は黙ってろ。大人しく観客になっとけ。」
ブーイング的に失格を言い渡してみたら、レオさんがぐわっとこっちに顔を向けた。そして、ネロに対する可愛い態度は何だったのかという程に、低い声で威嚇するように文句を言ってきた。そんなレオさんがちょっと可愛く見えちゃう。だって、恥じらいがピークに達しているのが分かるんだもん。
「ほぅ?可愛くオネダリ、か。」
レオさんが恥じらいを見せる横で、ネロが呟いたのが聞こえた。低くて威圧するような迫力の声だ。ぞくっとなる程の色気も感じる気がする。
こっちに向いていたレオさんが、気圧された感じでびくっと耳を伏せたのが見えた。レオさんの左耳で紺色宝石ちゃんも揺れて怯えたような淡い光を散らしている。
「どうした。可愛く、じゃないのか?」
ネロが追撃のように静かに迫力のある低い声で囁いた。微かに甘さというか、色気のようなモノも感じる艶のある声だった。レオさんがゆっくりとネロに視線を戻していく。ネロと目が合った瞬間に、レオさんは雰囲気に飲まれたのか一歩後退った。
ネロがレオさんの手首を掴んだ。そして、強引に引き寄せて、至近距離でレオさんを覗き込んだ。真顔のネロだけど、現状を楽しんでいるのは目を見れば分かる。どうやら、ネロのドSスイッチが入ってしまった模様。
ただ、鼻が触れる程の距離で見つめ合っているというのに、二人の間に甘い空気は一切なくて緊張感が漲っている気がする。金色の猫目は楽しそうで少しの色気が見て取れるけど、深い緑の猫目には怯えはないけど緊張感しかない。
レオさんの猫耳は少しだけ倒されて、尻尾はピンと真っ直ぐに伸びて止まっている。対するネロの猫耳は真っ直ぐにレオさんに向けられて、尻尾はゆったりと揺れている。
どう見ても、ネロがレオさんを弄んでいる風に見える。ネロのドSな姿を引き出すレオさんは中々に凄い。普段は優しくて甘々なネロだけど、こんな顔を見られるとかドキドキしてきた。俺にもドSを発動して欲しい、と思う程にネロがカッコ良く見えてしまう。
「抱き上げた後は可愛く、できるんだろうな。」
ネロがレオさんに言葉を掛けながら、片腕でひょいっとレオさんの体を持ち上げた。どうやら、黙ってしまったレオさんがこれ以上何も言えないと踏んで、折れてあげたらしい。ドSだけどネロは優しかった。
ネロの片腕にレオさんが座っている。ネロは背中を支えてないし、レオさんはネロの肩に手を置いていない。それなのに全然グラグラしないレオさんは凄い。それと、デカいレオさんをメチャクチャ余裕で抱っこできているネロも凄い。
レオさんは体がデカいから、かなり上からネロを見下ろす体勢になっている。ネロはレオさんを見上げているから、見つめ合い第二弾だ。今回はちょっとだけ甘い空気かもしれない。
レオさんは緊張が解れたらしく、甘い眼差しをネロに向けているのが見えた。こげ茶色の猫耳が真っ直ぐにネロに向いている。対するネロはレオさんの表情に戸惑っているのか、ちょっとだけ耳を倒している。形成が逆転した感がある。
レオさんが手を持ち上げてネロの頬をサラッと撫でた。擽ったかったらしくネロが一瞬目を細めたのが見える。レオさんの指がネロの頭に移動して、髪を優しく撫で始めた。
「昨日、二人で過ごした時間の中で。琥珀は俺の腕に抱かれて何度も可愛い顔を見せてくれた。無邪気な可愛い顔。可愛い笑顔。後は、切なそうな可愛くてエロい顔。ホント、可愛かった。」
ネロの耳に顔を寄せてレオさんが何かを囁いている。全く聞き取れないけど、金色の瞳が熱を持ったのが見えた。どうやら、レオさんは愛を囁いた模様。大人な雰囲気が満載で見ているだけでドキドキな風景。
レオさんは囁き終わったら顔を離して、何故か優越感に満ちた顔でネロを見下ろしている。そして、ネロの髪を撫でていた手をゆっくりと動かして、ネロの耳の縁をなぞった。超エロく見える仕草。
ネロは熱の籠る眼差しでレオさんをじっと見つめながら、片耳を伏せちゃった。レオさんのエロい撫で方がお気に召さなかった模様。レオさんのテクニックは通用しなかったらしい。残念。
そこでネロの抱っこパートは終了らしい。ネロがレオさんなんていないかのように無造作に腕を下ろした。なんて雑なんだって思ったけど、レオさんは心得ているらしく、気にする様子もなく普通に着地している。
そして、いよいよ本番のレオさんがネロを抱っこするパートの始まりだ。ワクワク、ドキドキで見守っていたけど、二人は会話もなくレオさんは片腕でネロをサクッと抱っこしちゃった。
レオさんの細く見える腕でもネロを普通に抱っこできる事は分かったけど、超事務的だ。もっと甘いムードが必要だと思うのに。何故レオさんはテクニックを発揮しなかったのか。
不満に思っていたら、ネロがレオさんの行動を真似するように、レオさんの頬を撫でたのが見えた。レオさんが目を細めたのまで、さっきと同じ構図だ。
という事は、次は髪か。その予想通りに、ネロの綺麗な指がレオさんの髪に触れた。そして、ネロも内緒話みたいにレオさんの耳に顔を寄せていく。
「色気のある琥珀を夢想しながらの発散は楽しめたか?」
見る限りでは、ネロもレオさんに愛を囁いたように見えた。でも、レオさんの耳がキュッと伏せられちゃった。多分だけど、ネロがドSな発言でもして、レオさんがドキドキしちゃったのかもしれない。
内緒話で愛を囁き合うとか、大人な感じで大変楽しめた。満足感に満たされていたら、ネロがレオさんの伏せられた耳に指を滑らせるのが見えた。そして、綺麗な指先が愛し気に紺色宝石ちゃんを撫でた。
ネロの行動をぼんやり見ていたら、ネロが顔を寄せて紺色宝石ちゃんに唇を付けた。それだけじゃなくて、舌を出して口内に引き入れたネロが見えて、驚いて目が丸くなってしまう。ネロが横目で俺を見て、紺色宝石ちゃんを口から出した。
ネロの詠唱の声を聞きながら、びっくりが継続して固まったままで思考だけが活性化していく。滅茶苦茶エロいモノを見てしまった気がする。レオさんが見せるエロさとは別枠のヤバいエロさだった。
レオさんの周りに水が集結するのを見ながら、急にドキドキしてきちゃった。宝石を咥えるネロの姿からは壮絶な色気が漂っていた。レオさんに煽られた後の色気とは別枠の色気。
超絶綺麗なネロがそんな色気を出すと、ヤバい程に壮絶な事になるらしい。レオさんはネロと二人きりの時には、ネロのあんな色気に曝され続けるって理解できた。どんなに綺麗なお姉さんが甘えてきても、ピクリとも反応しない精神が鍛えられるのは必然だった。
「お前な、琥珀が固まっちゃっただろ。自重しろ。」
「お前が煽るから、琥珀を食いたくなった。」
「マジで、普段の冷静で何事にも動じないお前はどこに行ってしまったのか。というか、俺の方が煽られたんだけど、それはどこで発散すればいいの。」
「相手は複数いる、だろ?」
「ホント、お前は的確に痛いトコロを突いてくる。腑抜けていても流石ネロ、って事か。」
「そうか?」
色々と思考を巡らせている間に、二人は顔を寄せて内緒話を始めていた。一瞬とはいえ、ネロが壮絶な色気を出したにも関わらず、二人はトテモ落ち着いている。でも、楽し気に頬を緩めて和気藹々と話す様子から、愛を語らっている事は分かった。
不意にネロがこっちに向いた。何かを訴えるようなネロの視線を受けても、俺にはその意味は分からなかった。という事で、小首を傾げて、なぁにって思いを届けてみる。
「抱き上げられた状態で口付けが条件なのか?」
冷静で淡々としたネロの質問を聞いて、一瞬戸惑ってしまった。そして、今のこの状況は俺とレオさんの勝負の際中だった事を思い出した。余りにも二人が普通にイチャついていたから、勝負の為の行動なのを忘れていた。
「ラブラブ過ぎて本気のイチャつきを見てる気分になってた。」
「成る程。で、どうなんだ。」
「お礼のキスだから、抱っこ中じゃなくても大丈夫。」
思ったままの感想を口に出してみたけど、ネロにとってはどうでもいい話だったらしい。あくまでも答えを求めてくるネロのクールさは凄いと思いながらも、答えを提供してみた。
「分かった。下ろせ。」
淡々としたネロの言葉に従って、レオさんが屈んで丁寧にネロを下ろしている。床に足がついた途端に、ネロが屈んだレオさんの首を掴んだ。そして、レオさんを無理遣り立たせるように、掴んだ首を引き上げていく。
凄く乱暴に見えるけど、平気なのだろうか。というか、ネロはレオさんに対しては基本的に雑な気がしてきた。対するレオさんはネロに対してもスゴク丁寧だった。普段の二人の態度とは真逆な感じが見られるのがちょっと新鮮。でも、今のネロの行動は流石にちょっと荒っぽい感じが否めない。
「ネロ、レオさんへのお礼だから優しくしてあげて。キスも優しくね。」
思わずネロに注意をしてみたら、ネロがチラッとこっちを見てレオさんの首から手を離した。そして、ごめんなさいって思いを伝えるように、レオさんの首にキスを始めた。見ているだけでも分かる程に、優しくて、ちょっとだけエロい感じ。
一回では終わらない繰り返されるネロのキスを受けて、レオさんがちょっと困った顔になっている。ネロがいつまで経ってもキスをやめないからか、レオさんがこっちを見た。
レオさんの困った顔がメチャクチャ可愛い。自分で何とかしようねって思いを込めてコクっと頷いてみたら、レオさんは諦めたようにネロの髪にキスをした。
ネロは反省の心を伝え終わったらしく、顔を上げてレオさんと視線を合わせた。ドキドキしながら見守っていたら、ネロがレオさんの首に腕を絡めていく。それに呼応する形で、レオさんはネロの腰に腕を回して抱き寄せている。
絡み合う視線は緑の瞳も、金色の瞳も、熱くて甘い。二人を取り巻く色っぽい雰囲気が凄くて、このまま見ていても平気なのだろうかと思うレベルになっている。少なくとも、朝から見る光景じゃないかもしれない。
ネロの指先がレオさんの左耳で揺れる紺色宝石ちゃんを撫でるのが見えた。自分を感じる証をレオさんが身に付けてくれているのが嬉しいらしい。ネロの指が愛し気に宝石を撫でる度に、レオさんの耳がぴくっと反応していて可愛い。
かなり長い間見つめ合っていた二人だったけど、ネロが静かにレオさんに顔を寄せて頬にキスをした。その後はあっさりと手を離して終了らしい。
ネロはレオさんを置いて、真顔でスタスタとこっちに戻ってきた。対する、置いてけぼりを食らったレオさんは俺と目を合わせて、やり切ったぞって顔をしながら戻ってくる。
どうやら、レオさん的には大満足な結果らしい。まぁ、確かに、レオさんの勝利条件は達成しているし、プラスでネロとも大人なイチャつきがでたから、分からなくもない。
「ちょっと、朝から見るには刺激が強かったけど、合格。そして、勝負は俺の完敗、レオさんの完全勝利でした。でも、エッチくてドキドキだった。大人な恋人同士の交流ってこんな感じなんだね。」
「琥珀の負けか。」
隣に座ったネロは即行で俺の肩に手を回して引き寄せてくる。その力に逆らわずに、ネロに凭れてどちらに語り掛けるともなく、感想を伝えてみた。即行で、ネロが悲しそうに呟く声が聞こえた。
「大人な交流はしてない。そんなものを見せたら、お前は顔を赤くするどころじゃすまないだろ。」
レオさんは俺の足元の床に座り込んで、楽しそうに言葉を返してきた。揶揄うような口調と、悪戯っぽい眼差しがイヤらしい。アレを大人な交流に含めないとか、レオさんは普段、どんな爛れた事をしているのか。ホント、レオさんはイヤらしい。
ぼんやりとレオさんを見ていて気が付いた。思わず、ネロの腕から抜け出して身を乗り出してしまう。そして、レオさんの顎に手を添えて上向かせてみた。
「琥珀から積極的に行動とか、感動がヤバい。」
瞳を潤ませて嬉しそうに独り言を呟くレオさんだけど、それはスルーしちゃう。というか、レオさんの軽口に反応できなかった。だって、レオさんの首には薄いけどしっかりと手形が付いていたから。
レオさんの首に手を伸ばして撫でてみる。痛かったらしく、レオさんが片眉を上げたのが見えた瞬間に、この手形はネロの付けたモノって認識に変わった。
レオさんを無理遣り立たせた時に、ネロはレオさんの首を掴んでいた。乱暴に見えたけど何気ない動作だったし、レオさんも普通だったから平気だと思ったのに。手形がつく程に強く握っていたなんて。ぶわっとネロに顔を向けて、睨んじゃう。
「レオさんの首が凄い事になってる。なんでこんな乱暴な事をしたの。」
「乱暴ではない。普通に立たせただけ。」
勢いよく文句を言いながら詰め寄ると、ネロが静かに反論をしてきた。普通に立たせて首に手形が付くとかおかしいでしょ。手形が付くって事は、それだけ力を込めて握った証拠。
「首を掴まなくても立たせられるでしょ。ネロは俺にも同じ事をするの?」
「琥珀は抱き上げる。」
むぅっと眉を寄せて更に言い募ってみたら、ネロは困った感じで俺の髪を撫でてきた。そして、優しく髪に指を滑らせながら、優しくて温かい眼差しと一緒に凄く甘い声で答えてくれた。なぜその態度をレオさんに向ける事ができないのか。
「だったら、レオさんも抱き上げて立たせてあげればいいでしょ。」
「レオは重い。暑苦しい。」
ネロの頬を撫でながら、レオさんにも優しくしてあげてって思いを込めて言い聞かせてみる。その途端に、ネロはプイっと顔を逸らしてボソッと呟いてきた。何その態度、メッチャ可愛いんだけど。ネロの照れはヤバい程可愛い。
「暑苦しいのは完全同意だけど、片腕で楽々持ち上げられたんだから重くないでしょ。」
「お前はサラッと毒を混ぜてくるよね。そこが堪らなく可愛い。」
ネロの頬を両手で挟んでこっちに向けて、睨みながらもう一度言い聞かせてみた。そうしたら、横からレオさんのほぅって吐息のような声が聞こえた。ネロがレオさんを横目で睨んだのが見える。その直後に、レオさんのウットリとした声が聞こえてきた。
思わずレオさんに目を向けると、レオさんはネロに目を向けて瞳を潤ませている。表情は恍惚としていて、興奮した様子を示すように緑の猫目が微かに光っている。
どうやら、ネロの言葉でメチャクチャ興奮してしまったらしい。直前の言葉が俺だったから、お前とは俺を差している言葉だと思ったけど、実際はネロを差した言葉だったみたいだ。
ネロの両頬に添えていた手を解放して、ぼんやりとレオさんを見つめてしまう。レオさんはネロに潤んだ熱い眼差しを向けていたけど、少ししてゆっくりと俺に視線を移してきた。
俺を見つめてくるレオさんの眼差しが熱いままで、脈が早まった気がする。艶めく緑の猫目が蠱惑的で鼓動が加速していく。慌ててレオさんから目を逸らして、ネロに顔を向けてみた。
ネロは俺を見ていた。柔らかな金色の瞳が少しだけ淋しそうに見えて、首を傾げちゃう。レオさんがこんなに情熱的になってくれたのに、なんでそんな目をしているんだろう。
疑問を口に出す前に、ネロが俺の前髪を掻き上げて額にキスをしてきた。優しいキスの後でネロが顔を離して目を合わせてくれた。もう、淋しさはどこにもなくて只管に優しい眼差しだ。
俺の頬を撫でた後で、ネロは首にもキスをしてきた。レオさんから俺を隠すように覆い被さって、ネロとは反対側の首筋に唇を押し付けている。勿論、俺の視界もネロで塞がれてレオさんが見えない。
ネロしか見えない状態で、熱くて大きな手が俺の手を握ってきた。しかも、指を絡めて繋いでくる。イキナリの熱い感触にびっくりして、びくっとなってしまったら、ネロの猫耳もぴくっと反応したのが見えた。
ネロの猫耳に気を取られたら、ネロに向いた意識を奪うように、熱い唇の感触が手の甲に押し付けられた。レオさんは唇を離す事なく滑らせながら、手の甲全体にキスをし続ける。レオさんの唇の刺激でゾクゾクッとなって、堪える事ができずにふっと息が漏れてしまう。
その途端に、ネロの優しいキスの質も変わった気がする。付けて離す優しいキスから、唇を滑らせるイヤらしさの感じるキスに。ネロの唇からの刺激も、ゾクゾクがヤバくて、息が乱れる。
どう反応していいか分からなくてただ、刺激に翻弄されて荒く息を吐き出す時間が続いた。そして、クラっとなってしまった。どうやら、吐き出すだけで、吸うのを忘れた結果、酸欠になったらしい。
ネロがびっくりした感じで顔を上げた。そして、肩を抱いて抱き寄せて、ふらふらになった俺を支えてくれる。その上で、落ち着かせるように俺の髪を撫でながら、ネロがレオさんの頭を押してキスをやめさせた。更には、レオさんの手首を掴んで俺の手から引き剥がした。
心配そうに見上げてくる深い緑の猫目をぼんやりと眺める間、ネロが優しく髪を撫でてくれる。ちょっとの間、心が落ち着く環境に置かれて酸欠も収まってきた。




