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258 頼まれたら他の人にもするの?

 俺を挟んでのキスの応酬は二人が張り合った結果な気がする。多分、ネロが煽るようにレオさんにキスを見せつけたから、レオさんが受けて立った。俺の反応でレオさんが何かをしていると判断したネロも張り合った。


 二人の可愛いじゃれ合いの結果、免疫のない俺は翻弄されてしまった。そして、酸欠状態に陥った。二人に悪気があった訳じゃないし、凄く心配をされている。正直、酸欠になったとか超恥ずかしいし、忘れる事に決めた。


 ネロに凭れていた体を起こそうとしたけど、肩に回されたネロの腕は緩まない。それどころか、ネロは俺の髪に優しくキスをして覗き込んできた。心配で仕方ないって顔になっているネロが見えて、離してとは言いづらくなってしまう。


「レオさん、くっきり手形がついてるけど平気?」


「ちょっと痛い。琥珀の癒しが欲しい。」


 ネロから離れるのは諦めて、話を元に戻してレオさんの首を心配してみたら、レオさんが膝立ちになって伸びあがってきた。慰めてって感じで耳を倒したレオさんが可愛い。言葉の方も慰めて欲しい気配が満載で可愛い。


 こういう風に素直に感情表現を出してくるレオさんはかなり可愛い。要望を叶えてあげたいって思わせる感じを出すのが上手いから、レオさんは甘え上手なんだなって思ってしまう。


「いいけど、どうやったら癒されるの?撫でたら癒されるかな。」


「ネロがしたみたいにキスで癒して欲しい。」


 レオさんの首に手を伸ばして、承諾の言葉を返しながら手形の付いている部分を撫でてみる。そうしたら、レオさんはネロの真似を要求してきたでゴザル。あれはネロの反省なのかと思っていたけど、実は癒しの行為だったらしい。


「ネロのキスで癒して欲しいんだって。さっきのじゃ癒し足りなかったみたい。」


「ネロはもういい。今は琥珀の癒しが欲しい。」


 レオさんの言葉の裏の意味が理解できて、ネロを見上げてレオさんの要望を伝えてみた。即行で、レオさんが俺の手を握って言い直してくる。


 レオさんの言葉を受けて、ネロの眉がぴくっとなったのが見えた。どうやら、ネロはレオさんの完全拒否の言葉でショックを受けてしまったらしい。微笑みを浮かべているネロだけど、悲しさを隠して精一杯笑顔をキープしているのかもしれない。


「ネロ、俺の希望を叶えてくれてありがと。いい雰囲気の二人が見られて嬉しかった。お礼に後で、ネロのお願いも聞いてあげるね。」


 レオさんの発言は完全にスルーして、ネロの悲しさをなくすべく、話を逸らす作戦に出てみた。お礼を伝えたらネロは嬉しそうに頷いてくれたから、多分、ショックは軽減できた筈。


 ただ、今度は俺の手を握っているレオさんの手がぴくっと反応したのが伝わってきた。無視された事がショックだったのかもしれない。慌ててレオさんに顔を向けると、しょぼんとなっているレオさんが見えた。猫耳がペタンって伏せられているのがメッチャ可愛い。


「レオさんも頑張ってくれてありがと。何かして欲しい事はある?」


「仕事終わりの帰宅時に約束の履行。」


 慌ててレオさんにもお礼を伝えて気を逸らしてみる。レオさんは即行でしょぼん顔を解除して、嬉しそうにニコニコしながら答えてくれた。


「それは確定の権利。それ以外にも、頑張ったで賞をあげる。俺にできる範囲でだけど。」


 勝負に勝ったレオさんの当然の権利だと伝えて、他にも希望を言ってごらんって伝えてみた。少しの間を置いて、レオさんが目を輝かせた。ついでに紺色宝石ちゃんもきらっきらに煌めいている。


 不意にレオさんが立ち上がった。無言で俺の肩に置かれているネロの腕を掴んで外した、と思ったら、屈んで俺の頬にキスをしてくる。優しいキスに気を取られた瞬間に、背中と太腿の下に熱い手のひらの温度が伝わった。


 ふわっと抱き上げられた感覚の直後に、今度はレオさんの唇が喉元に押しあてられたのを感じた。噛みつかれた時の事を思い出して、思わず目を閉じてしまう。


 一瞬の間を置いて、すとんっと座らされた。しかも、跨って座らされている。目を閉じたままでも、この時点で今の状況が理解できた。レオさんの行動が手馴れ過ぎていてコワイ。


 目を開けると、理解した通りにレオさんの膝の上だった。しかも、レオさんの大好きな向かい合わせのお膝抱っこ。要するに、レオさんのして欲しい事は、お膝抱っこでも嫌がらずに待機しろ、らしい。


「要するに、お膝抱っこが希望って事かな?」


「全然違う。琥珀は俺の首を癒してくれるんでしょ?ネロは何回してたかな、15回くらいだったかな。」


 多分そうだろうな、とは思ったけど、一応確認を取ってみたら、即行で否定されてしまった。レオさんの希望とは、さっきスルーした癒しの行為だったらしい。即ち、手形の付いた首にキスをする事。レオさんは何故かネロのした回数の確認を取っている。


「覚えてない。」


「じゃあ、琥珀は30回。ゆっくりと優しく癒して。さっきのネロのお手本通りに、やってごらん。」


 ネロは冷たく突き放すように答えて、レオさんを軽く睨んだのが見えた。なんでレオさんは回数を聞いたのか。なんでネロはそんな態度になったのか。浮かんだ疑問は、レオさんの楽しそうに弾んだ声で理解できた。


 間近で見るレオさんの首には薄いけど手形の痕が見えて痛々しい。ネロの子供としては、父親ネロの暴挙を詫びる意味も込めて、レオさんの希望を叶えなきゃって気分になってきた。


 ちらっとネロに目を向けると、気まずそうに目を逸らされちゃった。レオさんの首に痕がつく程に強く握った事を反省している模様。ホントは自分でレオさんを癒したいんだろうなって思う。でも、レオさんに拒否をされちゃったから、反省する事しかできないって感じっぽい。


 というか、ネロのお手本って、優しくてちょっとエロい感じだった。思いを巡らせている間に、レオさんが顔を傾けて、キスをしやすい体勢を作ってきた。むき出しになったレオさんの首に引き寄せられるように唇を付けてみる。


 何回かキスを繰り返した後で、一旦顔を上げてレオさんと目を合わせる。レオさんが嬉しそうに目を細めたのが見えて、まだ終わりじゃないって理解できた。


 ネロの手形の痕をなぞるようにキスを繰り返して、また顔を上げてみる。レオさんが俺の前髪を掻き上げて額にキスをしてくれた。


「あと、8回。」


 ギュッと抱き締めてくれたから、終わったと思ったのに。レオさんが耳元で甘く囁く声が聞こえて、ゾクゾクっと鳥肌が立ってしまった。慌てて、レオさんの胸に手を置いて突っ張って体を離す。


 変に思ってないか気になって、ネロに顔を向けてみた。ネロは真顔で俺達を見ていたけど、目が合ったら直ぐに顔を逸らしてしまった。どう見ても、変な風に思われている態度だった。


 ネロにどう言葉を掛けるか迷っていたら、レオさんに抱き寄せられた。髪に優しくキスをしてくるレオさんから距離を取ろうと腕を突っ張ってみるけど、レオさんの腕は緩まない。


「俺の望みを叶えてくれるんでしょ?終わるまでは離さない。」


 レオさんが低い声で甘く囁いてきて、心の中の何かが動いた感覚に陥ってしまう。レオさんの声色や口調が恋人ネロに向ける感じだからなのか、胸が高鳴る気がしてきた。


 レオさん的には、俺をネロに見立てた疑似的な甘い恋人ごっこのつもりなんだと思う。隣にネロがいる状況で、煽る事でネロの嫉妬を掻き立てる作戦だって分かっている。


 という事で、無駄にドキドキする状況を打開する必要がある。その為には、即行でレオさんの要望を終わらせて、一刻も早くレオさんの膝から下りるべき。


 一瞬だけ変な思考になりかけたのを軌道修正して、思考を高速でまとめ上げて結論を導き出した。意を決して、レオさんの肩に手を置くと、レオさんが腕を少しだけ緩めてくれた。


 レオさんの首に優しくキスを8回繰り返して、終了。顔を上げて離れようとした瞬間に、レオさんにギュッと抱き締められてしまった。


「今回は数えてたんだ。」


「数えてた。終わったら離してくれる約束でしょ、離して。」


 落ち着いて穏やかに呟くレオさんの声が聞こえた。その通りですって認めて、解放を要求してみたけど、レオさんの腕は緩まない。


「その前に一つだけ答えて。なんで大人しくキスしてくれたの?」


「レオさんが癒して欲しいって言ったから。」


 抱き締めて顔を合わせない状態で、静かに問い掛けてくるレオさんの声が聞こえる。なんでそんな真面目な口調なのか、と思いながらも、素直に答えてみた。


「頼まれたら他の人にもするの?」


 即行で変な質問が返ってきて驚いてしまった。レオさんは癒したいって思うけど、他の人に頼まれたとしてもこんな事できる訳がない。他の人に対しては、誠心誠意、言葉で謝る事しかできない。こんな風にキスをするなんて、考えるだけで嫌悪感が湧いてくる。


 家族ネロとその恋人レオさんだから、キスやハグをしても抵抗がないだけ。それに、レオさんはネロの恋人というだけじゃなくて、最早、俺にとってはネロと同じくらい家族って感覚になっている。


「する訳無いでしょ。レオさんとネロ限定。他の人に対してこんな風にキスするとか、絶対イヤ。確実に無理。」


「成る程。で、ホントの理由は?」


 むぅっとなりながら拗ねた声で抗議の心を伝えつつ、答えてみた。そうしたら、宥めるように俺の首にキスをしながら、レオさんが冷静に聞き返してくる。


 どうやら、さっきの質問の回答が不十分だったらしい。本命の質問をストレートに聞き返しても、俺は素直に答えない。だから、ワンクッション置いた上で聞き返したらしい。


 他の人にもするかどうか、っていうのは、多分、さして重要な質問じゃなかったみたいだ。ただの繋ぎの質問ってだけだったらしい。


「ネロがレオさんに乱暴したから、子供としての精一杯のお詫びの気持ちだった。」


「お前はホントに可愛い。でも、あれくらいの事はガトでは普通って言ったら琥珀は驚く?」


 質問を躱してもあの手この手で結論を引き出されると理解して、大人しく答えてみた。その途端に、レオさんが目を細めた。そして、ゆっくりと言い聞かせるように、言葉を出していくレオさんの声を耳が拾っていく。


「普通って、首を掴んで立たせるのが普通の事なの?首に手形が付いても普通?」


「うん、まぁ、よくある事。ガトは耐久力が高いから、丁寧に行動する事なんてほぼない。」


 レオさんが言いたいのは、俺が誤解しているって事。そう理解できて、思わず聞き返してしまうと、レオさんはコクっと頷いて改めてホントの事だって教えてくれた。


「いつも丁寧に接してくれるじゃん。」


「琥珀は可愛くて脆いし。あとは、華奢で、儚くて、可愛いから乱暴にはできない。それに、琥珀はガトじゃなくて人族でしょ。」


 真っ直ぐに見つめてくるレオさんの瞳を見ながら、信じられないって意味合いの言葉を続けてしまう。そうしたら、レオさんは俺の髪を掻き上げて、額に優しくキスをしてくれた。そして、至近距離で目を合わせながら、俺に対しての認識を説明してくれた。


 可愛いと人族って言葉以外は全て同じ意味合いなのがちょっと面白い。そして、何故、可愛いという単語を2回も織り交ぜてきたのか。レオさんっぽい言い回しが面白くてクスッとなっちゃう。そうしたら、レオさんが優しく頭を撫でてくれた。


 愛しいって感情が駄々洩れのレオさんの仕草が心地いい。深い緑の猫目から放たれる柔らかで優しい眼差しも、頬に触れる熱い唇も、穏やかな微笑みも、背中に添えられた熱い手も。


「ホントのホントで首に痕がつく程に強く握られても普通の事なの?」


「うん、死ぬような事じゃないし。寧ろネロは手加減してる感じだった。」


 レオさんの優しい仕草で嘘は言ってないって理解できた。一応、念押しでもう一回聞いてみたら、レオさんはコクっと頷いて、手加減してるとまで言い出した。


 ちらっとネロに目を向けると、ネロは無表情で頷いている。ネロの表情や態度から、レオさんの言っている事が真実だって理解できた。ただ、レオさんのいう事が正しいとしたら、疑問が湧いてきてしまう。


「じゃあ、なんで、レオさんの首にキスをする前にネロは目を逸らしたの。」


「俺のせいで琥珀が辱められた。」


 静かにネロに疑問を伝えてみると、ネロは躊躇う様子もなく静かに答えてくれた。ただ、ちょっとだけ恥ずかしそうに目を細めて、更には耳もちょっとだけ倒している。珍しいネロの表情が可愛くて頬が緩んでしまう。


「ちょっと待て。お前も言葉を選べ。辱めてはないだろ。」


 ネロと見つめ合っていたら、レオさんの呆れた声が割って入ってきた。ソコで気が付いてしまった。普通の行動だったら、癒しもお詫びもいらなかった、と。思わずレオさんを睨んでしまうと、レオさんは悪びれた様子もなくニッコニコな笑顔を返してきた。


「いいえ。ネロの前でイヤらしい事をさせられて、辱められちゃった。」


 レオさんの余裕な態度を崩したくて、顔を覆って泣き真似をしながら、ネロの言葉を大いに肯定した上でちょっと誇張してみた。レオさんが慌てた様子で覗き込んできたから、指の間からチラ見してみた。


「ちょ、琥珀ちゃん。そんな興奮するような事を言ってはいけません。」


 目が合った途端に、レオさんがパパさんの言い聞かせ口調で、レオさんらしい発言をし出した。興奮するような事は何一つ言ってない。って思ったけど、そういえば、レオさんはネロの前で俺を辱めたい願望があったのを思い出した。


 レオさんの倒錯した願望を思い出して、溜息を吐いてしまったらネロが頭を撫でてくれた。もう、レオさんは駄目だ。この人はイヤらしさの塊だから、レオさんの膝から下りてネロの傍に行きたい。そんな思いに駆られて、ネロの手に顔を摺り寄せてしまう。


「可愛いオネダリ。琥珀にさせたのか?」


「あ~。成る程ね、だから、あの殺気に繋がったのか。報告が遅れて申し訳ありません。」


 ネロの低い声が聞こえた、と思ったらレオさんが即行で謝った。唐突な話題の変更が行われて戸惑ってしまう。何故急に可愛いオネダリの話になったのか。そして、レオさんは何故謝ったのか。更には、ネロの殺気ってなんだ。


 少し考えて理解できた。ネロがレオさんを抱っこした時の、俺とレオさんの短い会話のワードが可愛いオネダリだった、と。そして、そのワードから、昨晩、俺とレオさんが二人きりの状況で、俺がレオさんに可愛いオネダリをした事がばれてしまった、と。ネロの洞察力はやっぱりスゴイ。


 殺気というのは、レオさんは一瞬後退った時のネロの威圧的な言動の事だと思う。あれはドSなネロによる気迫じゃなくて、殺気だったらしい。でも、あの時のネロは色気もあった。という事は、本気の嫉妬で興奮、的な感じだったのかもしれない。


「レオさんは愛されてるんだね。」


「うん、まぁ。そうかな。そうとも言える。」


 今明らかになったネロの嫉妬が嬉しくてニッコニコになってしまう。思わずレオさんに喜びの言葉を届けてみたら、レオさんは戸惑った感じで歯切れ悪く答えてきた。どうやら、恥じらいが発動してしまった模様。


「琥珀。詳しく聞いてもいいか?」


 ニマニマとレオさんを眺めていたら、問い掛けるネロの声が聞こえた。何を聞きたいのかなって疑問から、ネロに視線を移して小首を傾げちゃう。ネロが頬を緩めたのが見えた。優しい微笑みだ。


「琥珀の可愛いオネダリ。」


「そんな悪趣味な真似をするなんて、レオさんがうつっちゃったの?」


 柔らかな微笑みを浮かべたネロの唇が動く。聞こえた言葉を理解して、思わず嘆いてしまった。まさか、ネロがそんな事を聞くなんて思わなかった。その場のテンションでやってのけた可愛いオネダリを、今更発掘されるとか恥ずかし過ぎる。 


「俺がうつるとか、お前は一々いう事が可愛い。見せてやればいいじゃねぇか。文句なく、滅茶苦茶可愛かったから、自信を持ってお勧めできる。」


 レオさんの揶揄いを含んだ声が聞こえてきた。どうやら、レオさんまでネロの味方になってしまった模様。レオさんがネロの側についたとなると、確実に言わされる結果になる。


 しかも、レオさんは見せてやれって言葉を出した。要するに、再現をして見せてやれって事だ。そんな恥ずかしい真似ができる訳がない。


 眉を寄せて打開策を高速で考えた結果、結論が導き出された。レオさんは強引だけど、ネロだけなら嫌がったらすぐに引いて無理強いはしてこない筈。レオさんがいない状況になれば逃げきれる筈。という事で、レオさんが仕事に行くまで耐えきる事に決めた。


「あ、ガトから脱皮して人族に戻る。絶対にこっちを見ないでね。」


 差し当たって、着替えを理由に一人の時間を作って、二人から離れる事にする。そうしたら、レオさんがでれでれな顔になっちゃった。どうやら、レオさんの中のパパさん心を刺激する何かを発してしまったらしい。


「お前はホント一々可愛いから困る。ガトになるトコを見てるんだから、人に戻るトコロを見ても問題ないだろ?」


 でれでれで甘々なレオさんなのに、発言はとても理性的だった。正論を口に出すレオさんに飲まれかけて首を縦に振りそうになったけど耐えた。


「レオさん。見ちゃ駄目って約束を破って覗いちゃうと、どうなるか知ってる?」


「どうなるの?」


 レオさんをこっちの領域に引き込む為に声を潜めて雰囲気を作りながら、静かに問い掛けてみる。レオさんは思惑通りに興味津々な顔で静かに聞き返してきた。


 多分だけど、敢えて、俺の思惑に乗っかってくれた感はある。こういう、優しいレオさんが大好き。でも、この余裕な表情を崩してみたい欲求に駆られてしまう。


「綺麗な鳥が逃げちゃうんだよ?」


 鶴の恩返しを思い浮かべなから、詳細は語らずに結論だけを教えてあげたら、レオさんが素でポカンって呆気に取られた顔になっちゃった。レオさんの表情を崩す事ができて大満足。


「どういう事?『ゼンモンドウ』?」


 かなりの時間を空けて、レオさんが静かに問い掛けてきた。ここで禅問答かと問い掛けてくるレオさんにフフッてなっちゃう。確かに、意味不明に思える遣り取りは禅問答のような気もしてくる。


「そうだね、禅問答かもしれないね。」


「ゼンモンドウとは何だ。」


 そんな感じもするねって認めてみたら、レオさんの片眉が上っちゃった。他の意味があるのかって表情だ。このままでは追及されて洗いざらい吐かされてしまうって警戒したトコロで、ネロが口を挟んできた。


「意味の分からない問答を差す言葉らしいよ。」


「成る程。」


 レオさんが即行でネロに答えを提供して、ネロが理解を示した声も聞こえてきた。レオさんの意識を逸らしてくれた事はありがたかった。


 でも、この感じはネロまで禅問答をマスターして使いこなすパターンな気がする。しかも、ネロの禅問答は難解過ぎて俺が付いていけなくなる可能性しかない。まぁ、今はそこはどうでもいい。


 それより、レオさんの意識が逸れている今のうちに寝室に逃げ込んでしまおう。少なくとも、レオさんは追いかけてこれないから、寝室に籠っていれば俺の勝ちが確定する。


 二人にはリビングでラブラブの時間を堪能して貰う事にしよう。二人で熱い時間を過ごせば、俺の事は忘れてくれるでしょう。という事で、本を持って寝室に籠る事に決めた。もぞもぞとレオさんの膝から下りて、本棚の前に移動する。


「着替えるって言ってなかったか?」


「お着替えの前に本のチェックをしてるの。覗いちゃ駄目なんだよ?」


 本棚の扉に手を伸ばしたら、レオさんに即行で突っ込まれてしまった。レオさんは至極真っ当な事を言っているけど、屁理屈を言い返しながら、ちらっとレオさんに目を向けてみる。興味深そうにこっちを見ているレオさんの横で、ネロも楽しそうに頬を緩めて俺を眺めていた。


「覗きとかそういうエロいシチュエーションでお前を上から下まで眺めるのも楽しそうだけどな、今回に限っては視界の中にいるから見えるだけ。」


「着替えが終わり次第、迎えに行く。大人しく着替えを済ませろ。」


 レオさんがイヤらしく目を細めてレオさんらしい返しをしてきた。そんなレオさんを面白そうに眺めるネロが見える。レオさんの言葉が止まったら、ネロが言葉を繋いで着替えを促してきた。


 寝室で着替えるんだから、迎えなんかいらない距離だと思うんですけど。くそぉ、寝室に籠る作戦は始まる前から失敗に終わってしまった。でも、まぁいい。最悪、沈黙すればいいだけの事。できるだけゆっくり着替えをして、寝室から出た後は無言を貫くしかあるまい。


「レオさんは後どれくらいでお仕事に行くの?」


「2時間くらいかな。」


 という事で、悪足掻きの本選びは断念して、一応、レオさんにタイムリミットを確認してみた。クスって笑った後で、レオさんがのんびりとした口調で答えてくれた。ネロもちょっとだけ楽しそうに目を細めているから、悪足掻きをしている事は二人にバレバレの模様。


「あ、お仕事前に腹ごしらえをしなきゃだから、ご飯を食べなきゃだね。」


「琥珀の話を聞いた後で注文に行く。」


 ちょっとだけ考えて、ご飯を食べようと提案してみた。ご飯で1時間はつぶれる筈だから、って計算をしてみたけど、ネロは提案を飲んでくれなかった。


 実際問題、ネロが期待するような可愛いオネダリなんてないんですよ。改めて思い出すと、その場のテンションで行動していただけの恥ずかしいオネダリなんです。


 ネロから言い逃れる手も、レオさんを言い負かす手も思い浮かばない。仕方ないから、一旦、寝室に移動する事にした。のろのろと移動を開始して、寝室に入り、ベッドに寝転がる。


 ベッドでゴロゴロしながら、どう誤魔化すかを考えてみたけど、レオさんを味方につけたネロの躱し方が思い浮かばない。逃げ道は少ないどころの話ではない。綻びはどこにもなく、逃げ道のない八方ふさがりな状況だ。


 ベッドでゴロゴロしながらうだうだと考えていたけど、着替えだけは済ませる事に決めた。箪笥に移動して、適当に服を選ぼうとして思い出した。今日はネロと一緒に宝飾の店に行く事になっていた、と。



「ホント、琥珀は可愛いよね。無邪気な琥珀と接していると、後ろめたさで心が苦しくなる。俺は普通に対応できてる?」

「問題無い。」

「少し遊んで発散してきただけでこんな気持ちになるのは初めてでヤバい。こんな気持ちになるとか、マジで本気みたい。」

「琥珀は何も気づいてない筈。お前の想いも多少は理解はできる。」

「優しい言葉をくれるとか、どうしたの。」

「突き離して欲しいのか?」

「それは止めて。ちょ、何するんだよ。離せ。」

「黙れ。琥珀が来る。大人しくしていろ。」



 ネロが買ってくれた、立て襟のピシッとした服を探してみたけど見付からない。服の探索は早々に諦めて、ネロに聞いてみる事にした。


「ねぇ、ネロ。あの服・・・。」


 ネロに声を掛けながら、リビングに顔を出してみる。そして、目に映る光景にびっくりして言葉を止めちゃった。だって、二人がラブラブだったし。まさか、ネロがレオさんの肩を抱き寄せて頭を撫でているとは思わなかったし。


 レオさんがびっくりした顔になってネロの腕から逃れようとしていて、ネロはお構いなしでラブラブモードを展開していた。ネロは力尽くでレオさんを押さえつけているようにも見えるけど、優しくレオさんの頭を撫でている。表情はスゴク優しい。


「お邪魔しました。ごゆっくりどうぞ。」


 ラブラブな二人を邪魔してしまった事に気が付いて、さっと声を掛けて、すすっと寝室に引っ込む。寝室に戻って、イキナリラブシーンを見ちゃったドキドキを抑えていたら、音もなく後ろから抱き締められた。


 ふわっといい香りに包まれる。爽やかで甘くて落ち着くネロの香りだ。どうやら、ネロはレオさんを放置して俺の所に来てくれたみたいだ。俺がいると、ネロはやっぱり恋人モードより親モードに優先してしまうらしい。


 ネロは俺の首にキスをした後で、腕を開放して箪笥に向かって行った。たった一言だけだったのに、ネロは俺が求めている服を理解できたっぽい。流石ネロである。


 ベッドに腰を下ろして、ネロを眺めながら待つ事にする。欲しかった立て襟の服はかなり上の方に収納してあった。余り着ない服って判断だったのかもしれない。


 服を取り出した後で、ネロはベッドまで移動してきて手渡してくれた。笑顔で受け取って、ついでにネロの手を引っ張ってみる。俺の髪にキスをしながら、ネロは隣に座ってくれた。レオさんとほぼ同じ行動なのに、ネロからチャラさは感じない。ネロが齎してくれるのは温かい親の愛情。

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