256 甘美な味だった
まだレオさんとお喋りをしたくて、ベッドに下ろされるのがイヤで。レオさんの首にギュッとしがみ付いちゃう。レオさんはベッドの手前で優しく抱き返してくれた。
「ネロは甘いのは全部駄目なのかな。」
「全部と言われると微妙だけど、あの顔を見る限り苦手そうだよね。」
話題は別に何でも良かった。思い浮かんだネロの話をしてみたら、レオさんは優しく答えてくれる。恋人の顔というより、パパさんの顔で。
「酸っぱいのは大好きだよね。後、辛いの。」
「猫の大人は辛いのを好む傾向にあるから、ネロも好きなんだと思う。酸っぱいのはネロの嗜好だろうね。」
更にネロの話題を話し続けると、レオさんは頬にキスをしてくれた。そして、優しいパパさんが子供の質問に答えるように、優しく答えてくれる。
「ネロは辛いのが好きなのに、ほぼ注文しない。いつも俺が食べられるのだけ。」
思いがぽつりと口から零れちゃう。ネロは辛いのが好きなのに、食卓に辛い物が並んだ記憶はカレーとお魚の蒸し物の時だけ。俺を優先して、自分の好みは二の次。
「琥珀と一緒の料理を楽しみたいんじゃない?琥珀が喜ぶ味をネロも味わいたい。俺がそう考えてるから、ネロも多分そう。」
「って事は、俺が辛さをマスターしたらネロもレオさんも喜ぶ?」
レオさんはフフッて笑って、当たり前でしょって感じで言葉を返してくれた。食事を楽しんでいるだけで、優先している訳じゃないって言ってくれる。嬉しくって、俺も二人の好みの味を楽しみたいって思いを伝えてみた。
レオさんは嬉しそうに目を細めて頬にキスをしてくれた。答えてくれないけど、表情がそうなったらいいねって語り掛けてくる。俺も二人が喜ぶ味を味わいたい。辛いモノは嫌いではない。ただ、舌が限界を迎えてしまうだけ。きっと、何度も食べれば慣れていく筈。
お喋りに満足したと判断したのか、レオさんがベッドに下ろしてくれた。そして、額に優しくキスをしながら、俺が抱えていた枕を持ち去ってしまう。枕を設置して寝かそうとしてくるレオさんに手を伸ばす。
レオさんのシャツのボタンは全開で、引き締まったお腹も胸元も惜しげなく見せつけているスタイルだ。でも、露出狂は良くない。という事で、横になる前に、レオさんのボタンを留めてあげる事にした。
一番上のボタンを留めると、レオさんが俺の首にキスをしてきた。1つ下のボタンを留めたら、レオさんのキスの位置も下がった。ハイネックだから布越しのキスになったけど、レオさんの唇の熱は肌に伝わってくる。
また1つ下のボタンを留めたら、鎖骨にキスをされた。ぞくっとする感覚に耐えながら、この先はどこにする気なのかという好奇心が湧いてくる。更に下のボタンを留めようとしたら、レオさんが圧し掛かってきた。
押し倒される形で枕に頭を乗せると、レオさんがブランケットをかけてくれた。額にキスをしてくれるレオさんをじーっと見つめちゃう。そうしたら、目尻にもキスをして、レオさんは離れていっちゃった。
「今のは色々な事で培ったテクニック?」
「そう、色々な色事で培ったテクニック。」
食器を片付けるレオさんを眺めながらこそっと問い掛けてみる。詠唱に入る前に、レオさんが少し言葉を付け足して俺の言葉をソックリそのまま引用して答えてきた。穏やかな微笑みと、優しい声でえっちぃ事と言い切っている。レオさんらしくてクスってなっちゃう。
レオさんが言葉を紡ぎ始めて、耳に心地のいい声を聞いていたら、うとうとしてきた。今日は動き回ったし、覚える事も沢山だったし、色々な経験をした。貧弱な体力が限界を迎えていても仕方ないのかもしれない。
レオさんの詠唱の声を子守唄代わりに瞼が落ちていく。でも、傍にレオさんがいないのが不安で目が開いちゃった。離れたトコロで優しく光る緑の目が見守っていてくれるのが見える。安心感からうとうとってなって、傍に温かい体温が感じられない不安で目を開けちゃう。
睡魔との熾烈な戦いを繰り広げていたら、体に腕が回された感覚があった。熱い体温を傍に感じて、レオさんが寄り添ってくれた事に気が付いた。近くにいてくれる事が嬉しくて擦り寄ると、レオさんがギュって抱き締めてくれた。
「俺も魔法を使ってみたい。」
「〈根性〉が使えるでしょ。」
「もっとド派手なヤツがいい。レオさんのあのぼわって燃やすのがカッコ良くて使ってみたい。」
温かい体温に包まれてヌクヌクしながら、ぼんやりと呟いちゃう。夢見心地の中でレオさんの優しい声が響いてきて、違うのって首を振りながら理想を話してみる。優しいキスが頬にされた感覚で薄目を開けると、深い緑の猫目が見えた。
「ド派手って、〈焼却〉でいいの?」
ぼんやりと緑の目を見つめていたら、優しい声がまた問い掛けてきた。コクって頷くと、フフッて笑われちゃった。緑の目が細められて柔らかで優しい眼差しが心地いい。
「俺も〈根性〉が欲しい。琥珀はスゴイ魔法を覚えてる。俺も琥珀が魔法を使うトコロが見たい。見せてくれる?」
レオさんが褒めてくれる声が聞こえる。レオさんも望む程に俺の魔法は凄いって言ってくれている。〈焼却〉を使ってみたい俺の気持ちと同じで、レオさんも〈根性〉が欲しい。欲しい気持ちは同じって共感してくれたのが嬉しい。
魔法が使いたいって希望も、レオさんに披露するって名目で使う方向に持っていってくれる。レオさんに求められるのが嬉しくて、俺にもできる魔法を見て貰いたくてコクっと頷いちゃう。
優しく見守ってくれる深い緑の猫目をぼんやりと眺めながら意識を集中する。ゲットしたモノの、まだ数回しか使ってない〈根性〉。発動させるイメージを思い描くと、淡い光の膜が現れた。
自分の周囲を包み込む淡い光の膜が見えて、ちゃんと魔法が発動してほっとしちゃった。光の膜がきゅぅって縮まって俺の中に浸透する感じで消えていく。眠くてうとうと状態だったけど、緑の猫目を見ていたら集中できた。
なんとか発動が完了して、コクっと頷いてみた。でも、レオさんは無言を保ったままでじっと見つめてくる。穏やかな微笑みだけど、少しだけ驚いた感じに見えなくもない。
「終わり。地味でしょ。」
何も言ってくれないレオさんの反応が気になって、言葉で発動完了をお知らせしてみる。そうしたら、レオさんは優しく目を細めて頷いてくれた。そして、ありがとって感じで髪を撫でてくれる。優しくゆったり動く指の感触が気持ち良くて、睡魔の力が増した気がした。
「琥珀は魔法を使えないけど、〈根性〉だけはMしてるの?」
目が閉じかけたトコロで、穏やかなレオさんの声が聞こえて目をクワって開けちゃう。寝てませんよアピールだったんだけど、クスって笑われてしまった。
質問に答える意味で微かに首を横に振ったら、レオさんは分かったって感じで目を細めてくれた。折角目が開いたのに、優しい眼差しの緑の目を見ていたら目が閉じてくる。
「ベッド。モチモチじゃない。パリってしてる。冷たくない。」
「ネロが内側に〈シール〉をしたら圧の関係で張りが出た感じがあるよね。水を包み込んでるから、直接触れない分、冷たさも弱まってるんだと思う。強度の補強の意味もあるけど、琥珀の為に冷たさ軽減の意味で水の周りに〈シール〉をするとか。サラッとそんな事ができるネロは凄いよね。」
眠過ぎて言葉が単語になっちゃう程の拙さだけど、お話を続けてみる。ふふって笑った声が聞こえた。髪を撫でていた手がいなくなって、代わりに体に熱い腕の感覚が伝わってきた。枕の下にレオさんの腕が差し入れられたのも分かる。
ゆっくり、ゆったり話しているレオさんの穏やかな声を聞きながら瞼が持ち上がらない。眠気のせいで返事もできなくなってきた。温かいレオさんの腕の中で安心感に包まれて、睡魔の力に逆らえない。
「お疲れ、今日は早かったな。」
「集中できた。」
「出がけの琥珀のおかげか。」
「そうだ。」
「アレは俺が言われてもぐっとくる。独占したいなんて言われたらテンションが上って当然か。」
「というか、昨日のあの暴走は何なんだ。俺が耐えているというのに、お前ときたら。」
「煽られたから、受けて立った。」
「お前はそんなキャラじゃないだろ?煽られても冷めた目で一瞥して無視するタイプな筈。」
「琥珀に関してはその限りではない。」
「そんな熱いネロが見られて光栄です。じゃねぇよ。俺も琥珀を舐めたかった。ズルいだろ。」
「甘美な味だった。」
「極上の笑顔でその台詞。ド変態かよ。と突っ込みたいけど、羨ましさしかないのが悔しい。」
「飯の時のアレもなんなの。」
「まさか真似をするとは思わなかった。」
「そうだよね。ホント、この子は読めない。しかも、俺に向けて悪戯を仕掛ける顔だぞ、可愛過ぎてヤバいっての。」
「お前に向けて、というトコロに嫉妬が芽生える。」
「お前の嫉妬はこの際どうでもいいんだよ。アレのせいで、飯の間どれだけきつかったか分かるか?」
「お前の苦悩も甘美だった。」
「お前はド変態で間違いない。ってか、よりによってトロミのある白いスープと、ホワイトソースのグラタンとか。白いトロトロを口に含んで蕩けるような笑みだぞ?しかも、それを唇に付けるし、可愛い舌で舐め取るし。経験なしのガキに戻ってしまった気分を味わえた。」
「初心に立ち返れて良かったな。」
「まぁ、お前が絡んできたおかげで何とか平静を保てた。とはいえ、お前は普通に琥珀のドエロい顔が見たかっただけだよな。」
「まさか腕を取られるとは思わなかった。瞬間的な反射速度は俺より上なのか?」
「否定はしないのかよ。そんな綺麗な顔してむっつりとか。というか、お前は琥珀にデレデレし過ぎて気を抜いてただけだろ?通常の状態で、俺がお前に勝てる訳がない。」
「そうか。」
「ってか、なんで何度も戯れ付いてきたの?」
「偶には恋人らしく仲睦まじい姿を琥珀に見せようかと。」
「へぇ、そうですか。」
「生殺し状態は楽しめたか?」
「お前はマジでドMか?本気で俺が琥珀を奪ってたらどうするの。」
「嫉妬の感情も甘美だと気付いた。」
「えっ、コワ。言葉と表情の乖離が怖いですよ?琥珀が喜んじゃう感じになってるから。甘美な嫉妬なら、そんな殺気は良くないと思うんですけど。というか、琥珀が魘されてるからやめなさい。」
「お前は父親が板についたな。」
「何それ、まだ数日なのに板につく父親とか全然嬉しくないんだけど。でも、琥珀がパパって甘えてくるとパパになっちゃう自分がコワイ。」
「そういえば、あの恋人風のオネダリは俺のイメージだったらしいよ。その結果、お前は琥珀の中の俺に興奮して、情熱的なキスに発展したらしい。」
「成る程。」
「0から10を作り出す琥珀は天才なのかな。」
「間違いなく天才。」
「ヤバい程の可愛さと、驚く程の発想力の凄さと、恐ろしいまでの小悪魔さは何だろうね。」
「琥珀。」
「お前も何気に面白いよね。」
「琥珀は何故か俺の『勘』に気付いている。そして、琥珀の中で俺の『勘』は限定発動的な扱いになっているっぽい。でも、お前の『勘』に関しては普通の勘だと思ってる。」
「そうか。」
「常時発動してますよって言ってあげた方がいいのかな。」
「聞かれる迄は言わない。」
「お前は何気にイヤらしい性格してるんだね。琥珀には包み隠さず話すのかと思ってた。」
「直球で問われたら、包み隠さず答える。曖昧に問われたら、嘘以外で答える。」
「へぇ、意外。まぁ、俺もその方針でいこうかな。琥珀が本気で困った顔をするのは見たくないし、その方が色々と都合がいい。」
「いつから複合魔法を使いこなしていた?」
「えっと、昔から。」
「ほぅ?」
「ガキの頃に〈照明〉と〈送風〉で遊んでたらできた。当時は部屋の中で星見感覚で、散らした〈照明〉の細かい光に〈送風〉で動きを付ける程度。」
「成る程。」
「その後、魔法を覚えるに従って使い勝手のいい感じを模索して、今に至る。因みに知っているのは、現状、お前と琥珀。それに、エンクのシュクユウ。親は遊び程度に使いこなすって理解だと思う。」
「仕事では単独の時のみ、扱いを変える。それでいいか?」
「できれば隠しておきたい事だし、そうしてくれると助かる。ってか、シュクユウって聞いても顔色一つ変えないか。凄いな。」
「お前の交友関係に興味はない。気になるのは琥珀への対応のみ。」
「イヤ、そういう意味じゃねぇよ。」
「あ、琥珀に少しだけ短剣を握らせた。どうしてもって強請られて断り切れなくなった。マジで、あの技はヤバい。何でも許してしまいそうになる。」
「そうか。」
「お前の動きを少しだけ真似してた。筋は良かった。」
「そこまで武器に興味があるのか。」
「その武器なんだけど。本気でくれるの?」
「使わないのであれば売ればいい。少しは足しになるだろ。」
「そっか、見たら分るよね。ギリ買える価格で良かった。でも、買うしかなかった。」
「俺でも買っていた。いい耳飾りだな。」
「あの短剣。価値が段違いだよね。」
「俺は使わないから渡した。」
「成る程。それが俺への礼って事か。あの晩、琥珀を止めた事に対する対価、か。」
「あくまで礼の品。対価とするなら全く足りない。対価が欲しければ、あの中に入っている好きな武器を持っていけ。上部に置いてある紅い二振り以外は全てくれてやる。」
「礼の品だけでいい。」
「一つ気になったんだけど。琥珀って何。」
「何とは?」
「色々と気になる事だらけではあるんだけど、極めつけは魔法。Mしている感じもないのに、無詠唱・無モーションで発動とか。お前は何かを知っているって『勘』が告げてるから、教えて欲しいなって。」
「何の魔法?」
「〈根性〉。アレを無詠唱・無モーション、しかも、一瞬で発動させるってあり得ないだろ。確か、集中してかなり長い詠唱が必要な筈。それを寝惚けた状態で寝転がって、一瞬でやってのけた。」
「問いの答えは、琥珀は琥珀。それ以外の回答はない。俺が何を知っていても言うつもりはない。聞きたいのであれば、本人から直接聞け。」
「琥珀は琥珀、か。確かにそれで間違いない。まぁ、ゆっくり情報を引き出すしかないか。」
「で?」
「だから、威圧はやめなさい。琥珀が眉を寄せちゃったでしょ。」
「何故琥珀が〈根性〉を発動させた。手を出したか?」
「違う。寝落ち状態で、淋しそうに魔法を使いたいって呟いて。ぽやぽやな状態がヤバい程可愛くて。だから、琥珀の魔法を見せてって言っただけ。」
「成る程。」
「なんで魔法の種類を聞いたの。琥珀が使える魔法は〈根性〉だけな筈でしょ。魔法は使えないって話だけど、他にも使えるの?」
「中々洞察力がある。」
「そうなんですよ。そんなにしみじみと言わなくても、洞察力が凄いんです。はい、教えて。」
「恐らく、〈照明〉は使える。」
「恐らく?」
「琥珀自身は故意に隠している。ただ、一度、夜間の護衛に出た時に部屋の〈照明〉が消えていた。」
「成る程ね、完全に使えない訳じゃないのか。なんで隠すんだろ。」
「稀有な能力は隠せと忠告した。その言葉を守っている。琥珀は何が稀有かを理解していない。だから、全て隠そうとしている。」
「そっか。まぁ、でも、ネロが正しい。この子と触れ合って分かった。琥珀を得たい連中は多い筈。容姿でも、能力でも、それ以外でも。それに、猫の族長の『予言の子』。」
「だから、外に出したくない。ずっとこの家で俺の傍にいてくれたら、と願ってしまう。この手で守れる範囲以外には出したくない。」
「完全に同意できる。でも、いつかフイっていなくなっちゃいそう。というか、『勘』がそうなるって告げてるんだよ。外れる事を願うばかり。」
「あのさ、聞いていい?」
「なんだ。」
「こうやって俺の腕の中にいる琥珀の頭を撫でながら、そんなに優しい顔ができる心境。」
「琥珀の寝顔が幸せそうだから。」
「俺が抱いていても?」
「手段は選ばない、と言っただろ。」
「成る程ね。という事で、ちょっと出てくる。琥珀が起きるまでには戻る。」
「分かった。着替えてくる、少し待て。」
「琥珀。ネロが来たよ、あっちに行こうね。あぁ、マジで可愛い。今日はやめとこうかな、どうしようかな。悩ましい事態で困っちゃう。」
「一つ言っておく。琥珀の言葉、覚えているな。」
「ホント、お前はヤバい。なんで分かるのって言ってしまう琥珀の気分が味わえる。心配には及ばず、ばれないように努力するよ。」
「それならいい。」
「あ、悪いんだけど。コレをちょっとの間、預かってくれない?」
「何故?」
「お前の証が見てる前でこんな事をしちゃ駄目。琥珀の言葉なんだけど、そんな風に言われたら持っていけないなって。」
「そう言われる事をした、という訳か?」
「まぁ、遊びで。」
「遊び?」
「う、半分本気。」
「まぁいい。琥珀を泣かせる真似だけはするな。」
「お前丸くなったな。」
「そうか?預かったまま返さないかもしれない。」
「その時は琥珀とラブラブデートの回数が増える。毎日琥珀と宝飾の店に籠って、もっといいのを見付けるよ。」
「成る程。」
「お前の〈使い魔〉、正確な情報過ぎて、自分が嫌になってくる。俺の家での一幕とか、生殺し状態の飯の時とか、夜の興奮するシチュエーションとか。本気で、ちょっと、無理な訳で。」
「琥珀に手を出す事以外は、お前の自由。」
「その言い回しが心に刺さる。俺もお前みたいに適度に枯れたいと思ってしまう訳ですよ。まぁ、行ってくる。」
「気を付けて行ってこい。」
「その言葉は嫌みにしか聞こえない、けど言い返せない。」
暖かく包み込んでくれる体温に加わった、頬を撫でる熱い手の感触で目が覚めた。視線の先で、ベッドに腰かけて俺の頬を撫でているレオさんが見える。という事は、ネロに抱っこされてヌクヌクだったらしい。
ぼんやりしながらレオさんを見上げる。なんとなく違和感があるんだけど何だろう。ぼんやりレオさんを見つめていて、気が付いた。レオさんは寝転がってない。完璧に覚醒しているし、微かにしていたネロの香りがしない。どっかに行ってきたのかな。
「おはよ。俺も早起きができた系かな。」
「うん、ちょっとだけ早起き。ネロはまだ寝てるよ。」
「じゃあ、俺ももうちょっと寝る。」
寝起きの低いテンションで語りかけると、レオさんもまったりな口調で答えてくれる。働かない思考でちょっと考えて、ネロがまだ寝ているなら二度寝がいい、という結論に達した。という事で、レオさんに声を掛けつつ、モゾモゾとブランケットを引き寄せる。
「俺も寝ようかな。琥珀、抱っこしてくれる?」
「イヤです。勝手に寝てください。」
目を閉じて二度寝の心地よさを味わっていたら、レオさんの声が聞こえた。寝るのはいいけど、なんで俺が抱っこなの。眠気も手伝って、相手をする気力もなくてツンと冷たい態度で言い返しちゃう。
「淋しい事を言うなよ。ちょっとだけ抱っこして?琥珀に癒されたい。」
「ネロは寝てるんだから、起きちゃうでしょ。静かにして。」
レオさんがブランケットを捲って、話しながら俺の体にすり寄ってきた。可愛く甘える風のレオさんにピシッと注意をしてみたけど、レオさんは全く聞いていない。それどころか、寝る体勢を着々と作り上げていく。
レオさんが俺の体に回されているネロの腕を持ち上げた。何をする気なのかと見ていたら、レオさんは俺にくっついた後でネロの腕を自分の体の上に乗せている。そして、ブランケットを整えて、ニコって笑ってくれた。
レオさんの行動を見て理解した。どうやら、レオさんはネロに抱っこして欲しかったらしい。俺に抱っこ、という名目でネロに抱っこされて寝るつもりだったみたい。メッチャ可愛い行動で、頬が緩んじゃう。
思わずレオさんの頭を撫でてあげると、レオさんが嬉しそうに目を細めてくれた。そして、レオさんは俺の手を握って指を絡めてきた。二人に挟まれてヌクヌクなのと、レオさんの熱い手の熱さが心地好くて目が閉じてくる。
うとうとして二度寝は成功したんだと思う。ただ、眠気で瞼は重いのに、余りの暑さで起きてしまった。目を開けると緑の猫目が見える。メッチャ近い。レオさんがもう起きている事は分かった。
寝返りを打とうと体を少し動かしたら、ネロの腕が浮いてくれた。どうやら、ネロも起きているらしい。そして、レオさんの手が熱い。まだ握られたままのレオさんの手から自分の手を抜き取って、寝返りを打ち仰向けになる。
ネロに顔を向けると、柔らかな眼差しの金色の猫目が迎えてくれた。朝からキラキラが眩しいけど、もう起きているのは分かった。ネロの確認をしている間に、レオさんの腕が俺の腰に回されて引き寄せてくる。
レオさんの腕を両手で掴んで排除しようと試みたけど、レオさんが俺の脇腹を変な風に撫でて抵抗してくる。サワサワと触れる反撃にあって、レオさんの腕の排除は断念した。でも、ネロの眉がぴくっと反応したのがみえたから、ブランケットに隠れたレオさんの悪戯はばれている模様。
「起きる。熱い。」
ネロの腕に掴まりながら起きる宣言をしてみると、ネロは腕を持ち上げて起きるのを補助してくれた。そして、レオさんの腕を掴んで排除してくれた。レオさんが痛そうに眉を顰めて手を振っているから、荒っぽく排除したのかもしれない。
「寒くないのか?」
「二人に挟まれてメチャクチャ暑い。」
ネロも体を起こして心配そうに聞いてくれたけど、首を振って寧ろ逆だと答える。そうしたら、ネロは納得した感じで、髪を撫でてくれた。寝癖が付いていたのか、優しく整えてくれるネロの指が気持ちいい。
ベッドから離れようと腰を浮かせたら、一度排除されたレオさんの腕が絡み付いてきた。しかも、両手を俺の腰に巻き付けて、頭を膝枕状態で見上げてくる。耳を傾けるレオさんの表情が可愛く見えてしまうのが悔しい。
「琥珀はひんやりで気持ちいい。離れたくない。」
「俺は一刻も早く離れたい。この着ぐるみが俺の汗を吸ってヤバい事になってる。」
甘えたように話しながら、レオさんが俺の腰に回した手をキュッと締めてくる。離して欲しくて、現状の俺のヤバさを切々と語ってみたら、レオさんが俺のお腹に顔を押し当ててスーッと息を吸ったのが分かった。
何て事をするんだって拒否の心から、レオさんのおでこを押して離そうと試みる。レオさんは直ぐに顔を上げてくれたけど、それと同時に、ネロが俺の首に顔を埋めてきた。そして、俺の首をペロっと舐めた後でさっと離れて、レオさんの腕を無理遣り開いて引き剥がしてくれた。
えっと、レオさんが変態で匂いを嗅いできたのはいいとして。ネロが俺の首を舐めた気がするんだけど、気のせいだろうか。あのですね、二度寝して、暑くて、寝汗が凄くて。着ぐるみパジャマがもわってしていて。
軽く混乱をしていたら、ネロにひょいっと抱えられてベッドから移動していた。横抱きから片腕抱っこに切り替えて、ネロが目を合わせてくれる。金色の猫目は優しくて穏やかで温かい。安心感に満たされて心が落ち着いてくる。
落ち着いたら、状況が理解できた。自分の肌がしっとりしているから、軽くキスをされた時のネロの唇の感触が舌っぽく感じちゃっただけっぽい。それに、いつもであれば、舐めた後は即行で〈浄化〉をされるのに、今はまだされてない。
これは即ち、舐めてない証拠になる。そうだよね。レオさんじゃないんだし、ネロがイキナリ舐める訳がない。舐めるとか変な行動は基本的には、理由があるか、レオさんが煽って乗っちゃった時だけな筈。
「ネロ、俺が汗臭くなる前に〈浄化〉をお願いします。」
落ち着いて状況が理解できたから、一刻も早くさっぱりしたい。ネロにお願いをしてみたら、ネロが抱っこのままで詠唱を始めた。それに重なるように、レオさんの詠唱の声も聞こえてきた。完璧にハモっている綺麗な旋律。響きも調子も同じ。ただ、声の質が違うだけの2つの詠唱。
水が俺とネロを包み込んでいく。ネロがレオさんと目を合わせて詠唱を止めた。それと同時に、レオさんの詠唱も止まった。見つめ合った二人は同時に詠唱を始めて、水が霧散した直後に暖かな風が吹き荒れる。
少し強い風に煽られる感じがしてネロにギュってしがみ付いちゃう。詠唱が止まると風は直ぐに止んで、ネロがそっと下ろしてくれた。
「レオさんはなんで張り合ったの。」
「だって、俺もできるし。」
ベッドに近付いて、寝転がったままのレオさんの隣に腰を下ろす。そして、問い掛けてみたら、レオさんがプイっと顔を逸らしてボソッと答えてきた。その反応はですね。キュンってくる仕草の上位にくるから、俺じゃなくてネロに見せるべきだと思うんですよ。
「できるのは分かってるけど、ネロに頼んだんだからレオさんはしなくて良かったでしょ。」
「次は俺がしていい?」
レオさんの体に圧し掛かって覗き込みながら、優しい声を継続でレオさんの発言を認めながらも注意もしてみる。レオさんはこっちを向いてくれた上で希望を伝えてきた。
「うん、それでお願いします。」
真剣なレオさんの目に促されて、コクっと頷いて了承をしてみる。その途端に、緑の猫目が嬉しそうにキラキラッと輝いて、同時に紺色宝石ちゃんもキラキラって煌めいた。あれ、この子。
「じゃあ、交互だね、ネロもそれでいい?」
一瞬何かを思い出しかけたんだけど、レオさんがネロに向かって挑発的に聞き始めて思考が遮られてしまった。ネロは冷めた顔で静かに頷いて、流しに移動していってしまった。どうやら、お茶の支度をしてくれるらしい。
「朝はあんなに可愛かったのに。何でこんなにツンツンしだしたの。」
ふーっと溜息を吐きながら、レオさんの上から体を起こす。レオさんの目を見つめながら、悲しい顔で呟いてみると、レオさんがキョトンってしちゃった。レオさんのこの顔は非常に可愛い。
「二度寝の前。俺を挟んでいたんだけど、ネロの腕を持って体を寄せて自分の上に置いてたでしょ?俺に抱っこして欲しいって言ってたけど、ホントはネロに抱っこして欲しかったんだよね。あのレオさんは可愛かった。合格。」
「成る程。」
ゆっくり丁寧に説明をしてあげると、レオさんはふむふむって頷いて聞いてくれた。合格の言葉と一緒に、レオさんは体を起こして相槌を打ってくれる。
ネロがカップを持ってソファに移動していくのが見えて、お茶の支度が整った事が分かった。お茶に誘われるようにソファに移動してネロの隣に腰を下ろしたら、ネロがカップを渡してくれた。
ネロの腕が肩に回されてゆったりと髪を撫でられる。いつも通りのまったりな感覚の中で、お茶を口に含んでみると、微かないい香りと程よい甘みが口に広がった。寝起きのぼんやりの時間にはちょうどいい、さっぱりとした美味しいお茶。
今朝は『イング』を淹れてくれたらしく、いつものいい香りがドンと来るお茶ではなかった。昨日の食事の時は流し気味で飲んだから、改めて淹れてくれたのかもしれない。
「朝飲むにはいいお茶かも。あんまり主張しなくてさっぱりしてる。」
「一口いいか?」
ネロに凭れ掛かって、カップに目を向けながらお茶の率直な感想を口に出してみる。ネロは俺の髪をゆったりと撫でる手を止める事もなく、穏やかに声を掛けながらカップに手を伸ばしてきた。
綺麗な指先がカップを掴んで、優雅な仕草で上品にお茶を飲むネロを眺める。お茶を飲む、それだけの仕草なのにメッチャ綺麗。金色の猫目は俺を捉えていて、光り輝くエフェクトが見えるような気もしてくる。金色の猫目がキラキラ綺麗だからかもしれない。
「そうだな、朝にはいいかもしれない。いつもの茶より、こちらの方がいいか?」
「お試し用がなくなるまで、朝はコレがいいかも。あ、でも、いつものお茶は高級茶だった。『貴賓の誉れ』を飲み終わったら、こっちに切り替える?」
ゆっくりと味わった後で、ネロが口を開いた。同意見だった事にほっとしつつ答えてみたけど、いつものお茶は高価な事を思い出してしまった。という事で、提案の形で要望を伝えてみる。
ネロと話している間にレオさんもお茶に誘われたらしく、こっちに移動してきた。俺の足元に座って、レオさんは片腕で俺の脚を抱えて甘えてくる。
有無を言わせない態度で強引に俺の脚を抱えて、見上げてくるレオさんが可愛く見えちゃうのが悔しい。そして、あざとい可愛さを見せつけて、文句を言う隙を与えてくれないレオさんは流石です。
「ネロが飲む茶でもあるんだから、琥珀の一存で決められないんだよ。因みに多数決で、俺とネロの票は『貴賓の誉れ』に入ってる。従って、お前の票は無効になった。俺にもちょっと飲ませて。」
俺の口が閉じた途端に、レオさんが口を開いた。強引な論法で説き伏せられた感がある上に、一応断りはいれているけど、ネロの手からカップを奪ってぐびっと飲んでいる。上品なネロの飲み方と違って粗暴な感じだけど、レオさんっぽくて好感が持てる飲み方。
レオさん的にも美味しかったのが、表情から伝わってきて満足。暫しの間、お茶の時間を楽しむ。ネロに凭れてネロの優しい指を頭に感じながら、レオさんと目を合わせる。深い緑の猫目がキラキラ煌めいて、紺色宝石ちゃんも嬉しそうに煌めいている。
「一息吐いたところで。レオさんはやる事があるよね。」
「そんな直ぐに求めてくるとか、お前は何気にせっかちだよね。こういうモノはムードを大切にしないとダメなんだぞ、分かるか?」
三人で回し飲みしていたお茶がなくなったトコロで、ネロの腕の中から抜け出る。レオさんにグイっと顔を寄せて要求を突き付けてみたら、レオさんが尤もらしい事を言い出した。確かに、ネロとのラブシーンにはムードが大切かもしれない。レオさんが正しい。
「分かる。でも、直ぐして欲しい。」
「素直な琥珀は可愛いな。お前がそんなに求めるなら、直ぐにしてあげたいとこなんだけどな、ネロが刀の手入れを始めたから、ちょっとお預け。」
正しいのは分かるけど待ちきれないんです、って思いを伝えると、レオさんが俺の手を握ってきた。そして、俺の手を引き寄せて、目を合わせながら手の甲にキスをしてくる。キスの合間に囁く声は甘くて優しい。
仕草と声と台詞回しから、一瞬、口説かれているのかと錯覚してしまうチャラさだった。ネロとのラブシーンをの開始を示唆している内容なのに、おかしい。ネロの見てる横でなんでそんなチャラい感じを出したんだ。文句を言おうと思ったけど、台詞の最後を聞いて、慌ててネロに顔を向けてみた。




