表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
216/581

216 本当に心臓に悪い

 寝室に移動して、着替える服を取り出していたら、ネロも寝室に入ってきた。そして、俺の真後ろにピタッとくっついて、後ろから腕を回して軽く抱き締めてくる。ふわっと爽やかな甘い香りに包まれて落ち着く。


 どうしたのかな、ってネロを見上げると、金色の目が優しく細められたのが見える。目を合わせていたら、どうしたの?って感じで、ネロが可愛く小首を傾げてきた。いや、その感情は俺のモノだから。なんで急に後ろから抱き締めたの。


 一瞬突っ込みかけたけど、やめておく。まぁいい。きっと着替えるつもりなんでしょう。レオさんの過剰なスキンシップのおかげで、多少の事は気にならない耐性が付いちゃってるからね。それに、こうやって触れ合ってくるのは、愛情の表れだって分かってるから普通に嬉しい。


「ネロも着替えるの?」


 一応、確認の為に聞いてみると、ネロはコクっと頷いて答えてくれた。じゃあ、ネロの着替えも一緒にっと。背伸びしてネロの服を引っ張り出して、俺の服と一緒に抱えたら、ネロが腕を開放してくれた。


 ベッドに移動する間に、ネロは開けっ放しだったクローゼットを閉めてくれている。そして、足早に俺の傍まで移動してきて、また背中から抱き締めてきた。


 今日は一体どうしたんだろ。ガトな俺の抱き心地が気に入っちゃった系かな。まぁ、この着ぐるみの質感は滑らかでふんわりモフモフ、癖になる柔らかさだし、分かる気がする。


 でも、このままじゃ着替えられない。ちょっと困って、ネロに頭を摺り寄せちゃう。ネロはキュッと抱き締めた後で、髪にキスをして腕を開放してくれた。


 髪にキス、ネロだとチャラくないんだけど。なんでだろう。レオさんがすると、ヤバってなるのに。やっぱり、レオさんは存在が卑猥だからチャラく感じるのかな。それともキスの仕方の違いなのかな。


「帰ってきて直ぐに寝落ちしちゃったの?」


「〈浄化〉と〈乾燥〉はした。」


 着替える態勢が整ったから、ネロの服をベッドに置いて、着ぐるみパジャマのボタンを外しながら質問をしてみる。ネロは上着を脱ぎながら答えてくれたんだけど、服を脱いだ時に猫耳の毛が乱れちゃったのが超可愛い。ネロの耳の毛は、毛が乱れる程に毛足が長くてモフモフって事だよね。


「成る程~、そのまま、パタン?」


「それに近い。」


 もうね、ある意味ネロの猫耳に釘付けになりながら、ネロとの会話を続ける。ネロは俺の視線に気付いているっぽいけど、スルーしてササっと服を着こみながら答えてくれた。そして、無造作に髪を掻き上げるついでに耳の毛の乱れも直しちゃった。悲しい。


 でも、そっか。そりゃそうだよね。一晩中戦ってきたんだもん。疲れて早く寝たくなっちゃうよね。頭の中でネロの行動を補完して納得していたら、ネロが手を伸ばしてきた。


 どうやら、着ぐるみのボタンを外してくれるらしい。うん。ネロの耳に釘付けになって、外し途中で指を止めちゃっていた。しかも、その一部始終をネロにばっちり見られていたらしい。超恥ずかしい。


 ってか、ネロが小さな子供の面倒を見るイケメンお父さんっぽいんだけど。お着替えのボタンを外してくれるとか、確実に小さな子供のお父さんだよね。レオさんだけじゃなくて、ネロまで小さな子供のお父さんになっちゃったらしい。


 そして、ネロの着替えがいつの間にか終わっている件について。俺が着ぐるみを脱ぐどころか、ボタンすら2個しか外してない状況なのに、ネロはばっちり着替えが終了してる。ネロは凄いな、流石ネロだよな。


 お着替えもササッと熟して、尚且つ、子供の面倒まで見ちゃう。パーフェクト過ぎてヤバいですね。うん、俺がダメダメなんじゃなくて、ネロが超スゴイ。きっとそう。


 ネロの手によってボタンの解除が無事完了。という事で、サクッと着ぐるみを脱いで、急いでズボンを履き替える。そして、アンダーシャツの上に、ラフなシャツを羽織ってネロを見上げちゃった。


「この着合わせ、変じゃないよね?」


「問題無い。」


 一応、問題無いかを聞いてみたら、予想通りの返答が返ってきた。まぁ、きっと大丈夫でしょう。変だったら、今日は一緒に出歩く予定だし、レオさんが指摘してくれる筈。


 取り敢えず、シャツのボタンを1個だけ留めて、脱いだ服を畳んじゃう事にする。脱いだ服に手を伸ばしたら、ネロが阻止する感じで後ろから抱き留めてきた。


 何で邪魔するのって思いから、むっとなって見上げちゃう。ネロは俺の前に回した手で、器用にボタンを留めていってくれる。どうやら、だらしないですよ、的な親心だった模様。


 ボタンを留めながら髪にキスをしてくるネロの仕草から、愛しいって感情が伝わってくる。子供への愛が込められた優しいキスだ。やっぱり、髪にキスをされても、ネロからはチャラさの欠片すら感じ取れない。


 ネロのキスに込められているのは純粋な親心だからだろうな。って事は、チャラさを感じるレオさんは純粋な親心じゃないって事になる。あんなにパパさん風なのに、親心じゃないとか。悲しい。


 俺の服のボタンを留め終わったら、ネロは俺を解放して、テキパキと俺が脱いだズボンと着ぐるみを畳んでくれた。そして、自分の服に〈浄化〉と〈乾燥〉をして、ササっと畳み、着ぐるみ以外の服を箪笥に仕舞ってくれる。


 ネロが流れるように動く様を、ベッドに座って眺める。ホントにネロは凄いな。動きに一切の無駄がない上に、迅速かつ丁寧。ネロは有能主夫にもなれる可能性が出てきた。全ての家事を完璧にこなしちゃうカリスマ主夫って感じか。


 ただ、料理はしないって言っていたから。ん~、お料理だけはちょっと苦手な可愛い奥さんの方がいいかも。お肉を焼くのだけは完璧だけど、他のお料理は失敗してしょぼんってなっちゃうんだよね。めっちゃ可愛いじゃん。完璧じゃないトコロがヤバい程萌える。合格。


 あ、レオさんの前では可愛い奥さんなネロとか、いいね。フリフリの可愛いエプロン姿で、仕事帰りのレオさんを出迎える可愛いネロ。アリだと思います。こんな綺麗な人が待っていてくれるって考えると、仕事に張り合いがでそう。レオさんはホント幸せだよね。


 想像が妄想に派生していたら、ネロの片付ける作業が完了していた。着ぐるみを手にして、ネロが寝室から出て行こうとする後ろ姿を眺めちゃう。ネロが振り返って小首を傾げたのが見えた。こっちに来ないのって問い掛けてくる感じの金色の瞳をぼんやり見つめる。


 ここで寝転がったら、ネロは抱っこで連れていってくれるのかな。唐突にそんな事を考えちゃった。何故か急にネロに甘えたくなっちゃったらしい。昨日レオさんに甘え捲った余波がまだ残っているのかもしれない。思いのままに、ベッドにパタン、と倒れてみた。


 言葉には出してない。完全に無言で、あくまで頭の中での願望だったのに、ネロは頬を緩めて俺の傍に歩み寄ってきた。と思ったら、ひょいっと抱き上げられていた。


 あっさりとした行動過ぎて、ネロの腕の中でポカンとなっちゃった。えっと、普通に思いが届いちゃった感があるんだけど。これは、レオさん並みに読んでくるって事なのかな。


「ネロはレオさんと同じでヤバい程、『勘』がいい、のかな。」


「普通。」


 ネロをじっと見つめて、浮かんだ疑問を口に出してみる。ネロは移動を開始しながら、実にシンプルな返しをしてくれた。実にネロっぽい返答で、フフッてなっちゃう。


 まぁ、一応、質問の意図的には特性に裏付けられた『勘』だったのかを知りたかったんだけどね。普通だったか。これ以上は流石に突っ込んでは聞けない。だから、普通って事にしておくか。


 でもね、ネロの普通は、普通じゃない可能性しかないんだよ。それに、ネロは勘以外にも超絶な能力を有してそう。だから、『勘』以外の何かが働いているのかもね。


 それか、普通に軽く観察されちゃっただけかも。禁止はしたけど、軽い観察ならまぁいいでしょう。だって、今回は甘えたかったんだもん。甘えに付き合ってくれて満足だから、何も問題はない。


「そっか。また顔に出てた?」


「勘、かな。」


 まぁ、レオさん並みの『勘』ではないって事なのかな。納得して聞き返してみると、ネロは一瞬視線を逸らした後で、歯切れ悪く答えてくれた。へぇ、勘、か。成る程ね。


「やっぱ勘なんじゃん。」


 ちょっとだけむっとしながら、拗ねた口調でボソッと呟いちゃう。ネロはごめんねって感じで、髪にキスをして下ろしてくれた。会話をしながらソファに辿り着いていたらしい。


 願ったらホントに抱っこで連れてきてくれるとか。ネロの勘は凄いですね。月並みな感想を心に抱きつつ、ネロを見上げて両手を伸ばすと、ネロが屈んでくれた。ネロの首に腕を絡めて、ありがとって思いを込めて頬にキスをしてみる。


 ネロが俺の背中に腕を回して閉じ込めてきた。そして、お返しって感じで頬にキスをしてくれる。優しいキスと、穏やかな眼差し、それに柔らかな微笑みで、心がホンワカ温かくなる。


 お礼を届けたから、ネロの腕から抜け出てソファに座ってみる。ソファでまったりの時間の始まり、って思ったのに、ネロは隣に座ってくれなかった。離れていくネロを目で追いかけちゃう。視線の先で、ネロが本棚の下の収納を開けているのが見えた。


 戸惑った感じで少し動きを止めた後で、ネロは静かに収納の扉を閉めて戻ってきた。着ぐるみは手に持ったままだから、仕舞わなかったらしい。レオさんが着替えの服を持ち込んでいたから、収納がいっぱいで入らなかったってトコロなのかも。


 俺の前を通り過ぎる時に、ネロがさらっと優しく俺の髪に触れてきた。いい香りがふわっと漂って癒される。猫ちゃんが通り際に擦り寄って、離れていくって感じだった。ネロの行動は時々猫ちゃんっぽいから微笑ましく感じちゃう。


 ソファの横のサイドテーブルに着ぐるみをポンと無造作に置いて、片付け完了っぽい。サイドテーブルの上がマントと着ぐるみパジャマでモコモコ、モフモフで、満員御礼状態になっている。


 なにはともあれ、片付けが終わったらしい。漸くネロが隣に座ってくれた。そして、直ぐに俺の肩に腕を回して髪を撫でてくれる。ネロ的にも俺の髪を撫でるとリラックスするっぽくて、ネロの表情も眼差しも、柔らかで優しいから幸せってなっちゃう。


 このまったりな感じがめっちゃ幸せ。自然にネロに寄り掛かってぼんやりしちゃう。暫くまったりぼんやりしていて、気が付いてしまった。そういえば、今日はネロの武器のお手入れを見てない。俺が寝ている間に終わらせちゃったのかな。


「武器のお手入れは終わったの?」


「黒漆の短刀だけで事は済んだ。手入れも終わっている。」


 ネロに寄り掛かったままで、何気なく聞いてみる。ネロはゆったりと俺の髪を撫でながら、静かに答えてくれた。どうやら、お手入れする武器が少なかったから、寝ている間に終わっちゃったらしい。


「そうなんだ。ネロの武器のお手入れは見ていて楽しいから、何気に楽しみだったんだよね。残念。」


「では、明日は琥珀が起きてからにする。」


 がっかりした気持ちを隠す事なく表に出して、ネロに頭を摺り寄せちゃう。そして、拗ねた口調で残念な気持ちを口に出してみた。ネロは俺の髪に優しくキスをして、穏やかな声で希望を叶える提案をしてくれる。


「いいの?」


 あっさりと願いが叶ってちょっとびっくりしちゃった。体を離して、ネロを見つめながら聞き返すと、ネロは嬉しそうに目を細めて頷いてくれた。ホントに、明日は武器のお手入れを見せてくれるらしい。見学が確定してメッチャ嬉しい。


 嬉しくてニッコリ笑顔になっちゃったら、ネロも頬を緩めて嬉しそうな微笑みを返してくれた。喜びの気持ちが大き過ぎてニコニコしていたら、ネロが俺の頬に手を添えてきた。


 いい香りの手のひらに頬を摺り寄せちゃうと、ネロは親指で優しく頬を撫でてくれる。いい香りに包み込まれて落ち着くし、金色の瞳の眼差しが柔らかで心が安らぐ。ネロと一緒だとまったり感が半端ない。


 まったりしながらも、楽しみは抑えられない。だってね、武器のお手入れの見学は久しぶりな気がするんだもん。ここ数日はバタバタしてたから仕方なかったんだけどね。ってか、バタバタの主な要因が俺ってのがホントに申し訳ない。


 それにしても、武器のお手入れか。ネロの持っている武器は、武器自体が芸術品みたいに綺麗で見応えがあるんだよね。武器だから殺傷能力が高い危険な物って認識はあるけど、でも、見たくなっちゃう。


 それに、武器を丁寧に扱うネロの手が超綺麗。あと、武器に向けるネロの眼差しが、なんというか、愛が溢れている感じがする。ネロの愛情が武器に流れ込むのを見ているみたいで、心がホンワカしちゃう。


「夜は戦ってきたんだよね。怪我してない?」


 ネロが髪を撫でてくれる腕に誘われるように、またネロに凭れ掛かって会話を再開する。ネロは自分からは言ってくれないだろうからね。世間話風にネロの体調チェックは忘れない。家族として当然なんです。


 ホントはね、さっきの着替えの時にコッソリ確認しようと思ったんだよ。それなのに、怪我がないかチェックは猫耳に阻止されちゃったんだもん。猫耳の毛の逆立った感じに気を取られている間に、着替えを終わらせちゃうとか。


 巧妙なネロの罠に掛かっちゃった。でもね、あの罠は分かっていても掛かっちゃう罠だったから、仕方なかった。ただ、次回からは今回の反省を踏まえた上で絶対に罠を回避してみせる。


「問題無い。」


 心の中で反省会をしていたら、ネロが俺の髪を掻き上げておでこにキスをしてきた。ネロに意識が向いたら、穏やかな声がいつもの言葉を返してくれた。柔らかに微笑むネロはいつも通りで、ほっとしちゃう。ネロが強いのは知ってる。でも、言葉で聞いて安心できた。


「良かった。一晩中戦闘をしてたの?」


 安堵の気持ちが伝わったのか、ネロが優しく目を細めてくれた。優しい金色の猫目に癒されながら、質問を続けちゃう。ゆったりと撫でてくれるネロの指の感触が気持ちいい。ネロに凭れ掛かって、ぼんやりとネロが口を開くのを待つ。


 やっぱりレオさんとは全然違う。ネロは優しくて丁寧だよな。ネロと比べちゃうと、レオさんは強引でちょっと乱暴で雑だった。でも、レオさんの手は熱くて気持ちいいんだよね。


 待っている間に、レオさんの撫で方との違いを比べていたら、ネロの指が止まっちゃった。意図的に止めた気がしてネロを見上げると、金色の瞳が優しく見つめ返してくれる。


「一晩中、森の中を駆け巡って、時々戦闘。」


 視線を絡ませた状態で、ネロが穏やかに口を開いた。ネロの表情は優しくて柔らかで、戦いとは無縁な人って思っちゃう程に温和な感じがする。ホンワカ優しい雰囲気で、こんなんで戦闘とか平気かなって思っちゃう。


 思い返すと、家出前のネロは無表情な時も多かったし、喋り方も淡々としている事が多かった。というか、外では基本は無表情、且つ、言葉はほぼない。


 そして、冷めた雰囲気と全てに興味を示さないヤル気のなさだった。淡々としていたからこそ、戦いが身近にある人って思えたんだけどね。


 家にいる時は微笑んでくれたし、時々笑顔も見せてくれた。柔らかな眼差しと優しい口調ではあった。でも、今よりもっとあっさりしていたし、一歩引いている感じもした。接触も髪を撫でてくれるのと、抱き上げるくらいだった。


 家出の後でレオさんが一緒にいるようになってからは、家の中でのネロは基本的に笑顔になってる。それに、幸せいっぱいって感じがする。


 あとは、髪を撫でる以外にもスキンシップが増えた。レオさんに対しては、べたべたって感じがしないのが不思議だけど。その分俺にしているって感じかな。


 レオさんと一緒に過ごす時間が増えたから、ネロの中で色々と心境が変化したんだと思う。満たされて幸せだから笑顔が零れちゃうし、俺を子供として可愛がってくれる余裕もできた。


 レオさんがこの家で待っていてくれるから、ネロは頑張れるのかも。だって、一晩中、森の中を駆け巡るとか、相当キツイ筈だし。大変だけど、家で待っているレオさんを思って頑張ったんだよね。ネロは偉い。


 思いを巡らせながらネロの頭を撫でてあげる。そうしたら、ネロが俺の頬に手を添えてきた。思考を一時中断してネロに意識を向けると、ネロが顔を近付けてきていた。そのまま、ネロが俺の頬にキスをしてくれる。金色の瞳が煌めいて超綺麗。


 金色のキラキラに見惚れていたら、また頬に唇の感触が。どうやら、レオさんの真似っこで、ネロはキスを続ける気らしい。でも、レオさん程暑苦しくないし、いい香りだから心地いい。という事で、ネロが飽きるまで放置しておこうかな。


 それにしても、森の中を駆け巡る、か。アルさんも魔物を探すのは一苦労って言ってたし、探す方が倒すより大変って事なのかも。だから、あの日も、アルさんはこっそり抜け出して、ネロを手伝う為に森に行ったんだろうな。探し物は一人より二人の方が楽な筈だからね。


 そして、時々戦闘、か。戦闘って言葉で、ネロが倒した大きな虫のモンスターを思い出しちゃった。でっかくて、強そうな大きな虫だった。怖いって思ったけど、ネロにしがみ付いていたから平気だったんだよな。


「昨日のでっかい虫より強いんだよね?」


 ぽつりと呟いた声は、無事、ネロの耳に届いたらしい。頬や目尻、首や髪にキスを続けていたネロが顔を上げて、肩を抱き寄せてくれた。どうやら、不安になったと思われちゃったらしい。平気だよ、って伝えたくて、ネロをと目を合わせてコクっと頷いてみる。


「そうだな、少し。」


 ネロは心配そうに眉を寄せて静かに答えてくれた。ネロの少しは少しじゃないって知っている。って事は、あの虫より大分強いって事か。ん~、でも。あの虫は見た目的に相当強そうだったけど、ネロは瞬殺したんだよな。


「ネロが戦うのを昨日初めて見たけど、圧倒的だったね。あれを見ちゃうと平気って思えるんだけど、やっぱりちょっと心配になっちゃう。後、レオさんも超心配してた。多分だけど、確実だと思う。」


 ネロの圧倒的な強さを目で見て確認した今は、大丈夫って確信できる。でもやっぱり心配。そんな気持ちを言葉に乗せて話してみると、ネロが嬉しそうに頬を緩めて頷いてくれた。


 会話が終了して、ネロがゆったりと髪を撫でてくれるのに任せて、ネロに凭れてぼんやりしちゃう。ネロと二人だけの空間は穏やかでまったりする。賑やかで楽しいレオさんとの時間も好きだけど、ネロと二人の穏やかな時間も好き。


 まったりな時を楽しんでいたら、ネロの指が止まっちゃった。また撫でるのを再開するかなって、凭れ掛かったままで待ってみる。でも、ネロの手は肩の上に移動してそこで落ち着いちゃった。


 ちょっとだけ不満でネロを見上げちゃう。ネロは視線で俺を捉えてはいるんだけど、何かを思案しているっぽい。首を傾げて、どうしたのって探りを入れてみる。


「昨夜はレオと二人で問題無かったか?」


 ネロの表情が引き締まって真剣な顔になったのが見えた。そして、慎重に言葉を選ぶ感じで問い掛けてくる。あ、理解しました。恋人と子供を二人だけにしちゃったから、心配してくれた、って事ですね。


 ん~、問題か。あったと言えばあった、かな。そう考えた瞬間に、ネロの眉が少しだけ寄ったのが見えた。あ、もしかして、読まれちゃった系かな。やっぱり、ネロの勘も相当ヤバいって事じゃん。


 あ、違うかも。表情を観察していて、違和感に気が付いた系か。ネロの勘と観察力はヤバいんだよな。だから、色々とばれる前に先手を打っておいた方がいい気がしてきた。


 新たな性癖問題は解決しているからね。全く何も問題がない筈。隠しておくより、サクッと話して問題ないアピールをしちゃった方が得策な筈。


「えっとね、レオさんが時々、仕事モードの顔付きになってカッコよく見えちゃった、かもしれない。でもね、一過性のモノだったから平気だった。普通にカッコいいなって思っただけで、何の問題もなかった。」


 ネロが変に思わないように心掛けて、一息に話し切って、ネロをじっと見つめちゃう。ネロが穏やかに微笑んで頷いてくれたのが見えてほっとしちゃう。全然平気そう。ってかね、そうだよ、変に思う訳がない。


 寧ろ、自分の恋人がカッコいいって思われていた訳だから、鼻高々かもしれない。ネロはポーカーフェイスだから見えないだけで、内心はニマニマしている筈。ネロの内心が読めちゃって、嬉しくてニッコリしちゃった。


 視線の先で、ネロが嫌そうに眉を寄せちゃったのが見えた。どうやら、照れちゃった模様。ネロは可愛いですね。ネロの頭をぽふぽふって撫でてあげると、嫌そうな顔が真顔に変化してしまった。


 鉄壁の真顔ポーカーフェイスで感情を隠す作戦らしい。まぁ、いいよ。俺の手腕で、その鉄壁の真顔ポーカーフェイスを崩してあげちゃうからね。


「あとは、レオさんが超絶チャラかったくらいで、何の問題もなかったし、凄く楽しかった。でも、ネロが心配なのを、必死に隠してるレオさんが可愛かった。だってね、メッチャくっついてくる感じだった。それに、メッチャキス魔になってた。多分だけどね、ネロを心配な気持ちを軽減したくて必死だったんだと思う。」


「そうか。」


 ニコニコ笑顔で、レオさんがどれだけネロの事を心配していたかを話してあげる。可愛いレオさんの行動を知ったら、ネロはデレるに決まっている。って思ったのに。ネロは真顔で興味なさそうに相槌を打ってきた。なんという手強さ。ネロはホント可愛い。


 ツーンとした態度のネロが可愛くて、ネロの頭を撫でちゃう。まぁ、なにはともあれ、これでレオさんに色々とばらされても、何も問題はない。俺の性癖っぽいのは幻だったから、平気な筈。


 あと問題っぽいのは。ん~、レオさんの浮気っぽいのは言えないから置いといて。一番問題なのは、レオさんを暗殺者として疑っちゃった事だよな。というか、俺が問題だった。ホント、レオさんには悪い事をしちゃった。


 ネロから体を離して、ネロに向かう形でソファの上で正座っぽい感じで座り直す。改まった態度が気になったらしく、ネロが不審そうな顔になってしまった。


「あとは、俺が問題だったかも。レオさんを疑っちゃった。それなのに、レオさんは気にしてないどころか優しかった。」


「疑う?」


 言い難い事だけど、ちゃんと言わなきゃダメだ。変な責任感に突き動かされて、おずおずと話してみる。ネロは話の途中で片眉を反応させて、話が終わると即行で聞き返してきた。


「うん、レオさんが実は暗殺専門の護衛の人だと思っちゃった。」


 まぁ、そこが気になりますよね。ってか、意図的にワンクッション置いただけなんです。ごめんなさい。心の中で謝りながら、更におずおずと話を続ける。じっと見つめてくる金色の瞳には何の感情も浮かんでないように見える。


「成る程?」


「えっとね、レオさんは変な体術を使うじゃん?気付かない程静かに抱き上げてくるのはネロも同じだけど。それ以外にも、フワッてなって、気が付いたら膝の上に座ってるみたいなヤツ。それについて考えたら、色々なトコロがピッタリ付合して、何となく繋がっちゃった気になっちゃった。」


 静かに相槌を打って先を促してくるネロにコクっと頷いて、説明を始める。話している間に、ネロの表情は和らいで、穏やかな微笑みに変わってくれた。一旦言葉を止めたら、ネロは俺の頭を撫でて頷いてくれる。


「昨日もレオさんの体術がヤバかったのね。ちょっとだけ気になって、何でそんなにスゴイのかを聞いたんだけど、考えてみろって言われちゃった。で、色々考えた結果、実はレオさんは暗殺専門のヤバい人という結論になっちゃった。」


 ネロの手に頭を摺り寄せて、一息吐いてから、続きを話してみる。ネロは俺の頭から手を離して、静かに聞いてくれていたけど、結論を聞いて、クスッと笑ってくれた。


「でもね、それには理由があるんだよ。まず、レオさんが真面目な時もあるって言ってた。だから、エロいのは抜きで真面目な事で体術が向上したって判断した。あとは、レオさんが鋭い目付きになった時に、スゴク静かで冷たい感じで光ってた。で、ネロが集中した時も光る事もあるって言ってたじゃん?」


「言ったな。」


 更に説明を続けていくと、ネロが興味深そうな顔になった気がする。何に興味を惹かれたんだろうと思いながら、話し続けて、一旦確認を取ってみる。ネロは静かに肯定してくれて、続きを話してって感じで小首を傾げてきた。


「瞳の冷たい光は仕事に集中する時、変な体術はこっそり近付いて暗殺する為。そう考えたら全部が繋がった気がした。でも、俺の想像は全部間違いだった。実際は、エロい事をして磨いた技術だったらしい。」


 促されるままに続きを話してみたら、話の終わりでネロが苦笑しちゃった。まぁ、そうだよな、って感じの表情なのがちょっと面白い。レオさんなら、ある意味納得って感じなんだろうな。


「ネロは笑ってるけど、あの時は超怖かったんだよ。レオさんは怒り心頭、って思ってマジで色々考えちゃった。レオさんに甘えて我儘放題しちゃったし、色々我慢させちゃったから、怒りが収まるならレオさんに殺されてもいいって思った。覚悟もしたんだけど、全部誤解だったから、超恥ずかしかった。」


「殺す?」


 苦笑ながらもネロが笑ってくれたから、気が楽になって、あの時の切羽詰まった心境も続けて話しちゃう。その途端に、ネロが眉を顰めて不審そうに聞き返してきた。ネロの表情の急変と声色の真剣さから、マズいと思ってしまう。これはかなりの失言だった可能性しかない。


「でも、誤解だったし、何もなかったし、勿論、殺されてない。誤解してる間も、レオさんはずっと優しかった。俺が怯えてるって思って、話を合わせてくれただけなの。落ち着ける為に、途中まで俺に合わせて行動してくれて、最後はネタ晴らし。だから、何も問題はなかった。」


「話を合わせて、行動?」


 慌ててネロに向かって身を乗り出し、レオさんは悪くないって言い繕っちゃう。ネロは静かに聞いてくれているけど、眉を顰めて怖い顔になっちゃってる。そして、俺の説明が終わった瞬間に、怖い顔のままで説明を求める感じで聞き返してきた。


「レオさんが暗殺者だって思い込んでたし、怒りや不満を溜め込んで我慢の限界だって誤解してた。だから、もう我慢しなくていいよって言ってあげた。あと、やるなら一思いにってお願いしちゃった。そしたら、レオさんが本当にいいのか聞き返してくれた。最終確認だと思って、頷く事で了承の意思を伝えてみた。」


 ネロの要望に応える形で、恐る恐る、こんな感じだったんですって話してみる。ネロが一瞬目を瞠ったのが見えた。そうだよね。そりゃ驚きますよね。なんでそんな誤解をしてるんだって思っちゃいますよね。今の俺も同じ心境です。


「で、覚悟を決めて目を閉じたら、レオさんが首にキスをしてくれた。びっくりしたけど、サヨナラのキスだって理解できて、殺す相手なのに気遣ってくれるとか、レオさんは優しいなって思っちゃった。今考えると、俺を落ち着ける為だったって分かる。」 


 レオさんが優しかったんだよってトコロを強調したのに、駄目だった。ネロは反応を全て放棄する感じで、只管静かに聞いている。険しい表情だけど、感情をそれ以上は漏らさないように耐えているようにも見える。


「その後は何をされた。殺すフリか?」


 話し終わったトコロで、ネロが静かに問い掛けてきた。冷静な声に聞こえるけど、険しい顔はキープしている。非常にマズい。ちゃんと話さないと、下手したらレオさんと喧嘩に発展しちゃうかもしれない。


 殺すフリってのは正しいかもだけど、実際は俺を落ち着かせる為の行動だった。だから、しっかり話せば分かってくれる筈。俺がダメだった話なのに、怒りの矛先がレオさんに向いちゃうとは思わなかった。


「えっと、殺す『フリ』だったの。あくまで『フリ』だよ。」


「成る程?」


 一応ね、フリだったんですって強調してみる。でも、ネロは険しい表情のままで表情を緩めてくれない。それに、説明を促す態度を崩さない。声もスゴク怖い感じになっちゃった。


「レオさんは優しかったんだよ。殺される覚悟を決めた俺に付き合って、演技を続けてくれたんだもん。」


 もう一度、レオさんを擁護してみたけど、ネロは静かに聞く姿勢を緩めないし、表情も険しいままだ。相槌すら打ってくれないから、話せって事なんだと思う。


「えっと、殺される覚悟を決めたら、レオさんが抱き上げてベッドに運んでくれたのね。だから、ベッドで殺すのかなって思った。ネロには秘密にするって約束してくれたのに、血で汚れたらネロにばれると思って汚れちゃうよって忠告しちゃった。そしたら、風のベッドだから大丈夫って言われてほっとした記憶がある。」


 思い出しながらゆっくりと話していくと、ネロの眼差しがどんどん険しくなっていっちゃう。話しながら、ネロの頬に手を添えて、指で目元を撫でてみた。ネロの視線は少しだけ和らいでくれたけど、表情は険しいままで変わらない。


「後は、レオさんが怖くなるのを見たくなくて、痛くしないでねってお願いしちゃった。そしたら、優しくするから俺に負担は無いって言ってくれた。その時は、レオさんは希望を酌んでくれる超優しい暗殺者なんだって思った。でも、ソレも俺を落ち着かせる為に、話を合わせてくれてたって分かる。」


 これ以上怖くならないように、ネロの目元を指で撫でながら話を続ける。あの時は、覚悟を決めたとはいえ緊張感でヤバかった。もしかすると、曖昧になっている部分もあるかもしれない。でも、記憶に残っているレオさんの優しい言動を思い出して一生懸命言葉を出してみた。


 ネロの表情が険しい顔から、辛そうな顔に変わっていくのが見えた。眉が顰められているのは同じなのに、全く別の表情に変わっていくのを間近で見続ける。


 ネロがこんな顔になっちゃう事をしでかしちゃったんだって分かって、我ながら、何をしているんだって思っちゃう。ネロの目元を撫でていた手を離して、自責の念から小さく溜息吐いてしまった。


「ベッドで横になった俺の上で、レオさんが馬乗りになって、拘束してきた。で、殺す『フリ』をする前に終わった。想像した事を洗い浚い白状させられて、その後で、ソファに移動してレオさんがネタ晴らしをしてくれた。実はエロい事で上達しましたって。だから、俺が考えた暗殺とかそういうのは全部間違ってるって。」


 最後まで話し終えて、レオさんは悪くなかったでしょ。って意味でニコっとしてみる。次の瞬間、ネロに抱き締められていた。そして、深く息を吐き出す音が聞こえてきた。


 いつもとは比べものにならない程の強い締め付けだけど、ネロの思いが伝わってくる。だから、ネロの背中に腕を回してギュッとしがみ付いちゃった。心配させちゃったけど平気だったって伝えたくて、腕に力を込めてみる。


「俺の思い込みだったの。怯え切ってた俺を落ち着けようと、レオさんは話を合わせてくれただけ。それに、俺の雰囲気に飲まれて、そうした方がいいって判断したみたい。だから、俺が問題だっただけで、レオさんは何も悪くない。」


「何も無くて本当に良かった。」


 ネロにしがみ付いた状態で、改めてレオさんは悪くないんだよって強調しておく。レオさんがしてくれたのは、最善の行動だったって。俺が問題だったんだよって。ネロの腕に力が込められた感じがした、と同時に、絞り出すような声が聞こえた。


 息が止まる程の強い締め付けを感じる。でも、この力が心地いい。ネロの愛情が感じられる力。ネロが本当に心配してくれたからこその、この抱き締め。


 ネロを心配させて、ツライ思いをさせちゃったのに。ネロの力を感じられるのが嬉しいって思っちゃう。反省の気持ちより、嬉しさが勝っちゃうのはダメだよね。


「レオさんが最善の行動をしてくれたから、色々と納得できたんだよ。普通にネタ晴らしだったら、疑ったままだったかもだもん。それに、怯えたままの可能性もあった。レオさんが俺の考えに沿って行動してくれたから、すんなり納得できた感じがする。レオさんは心理戦が得意なんだね。」


「そうだな。」


 ちゃんとした状況を知って欲しくて、ネロの腕の中で話し続ける。レオさんがどれだけ頑張ってくれたのかを話していくと、ネロの腕の力が少しだけ緩んでくれた。そして、静かな相槌の声が聞こえた。


「ネロとレオさんが喧嘩するのはヤダって思ったのね。だから、ネロには内緒で秘密、って約束して貰った。そうしたら、レオさんは真剣な顔で了承してくれたんだよ。レオさんは演技がヤバい、超迫真の演技。暗殺者の怖い顔だった。そんな顔で約束してくれるんだもん。だから、信じちゃった。」


 ネロが落ち着くまではもう一息かな。って事で、言い訳を兼ねて、記憶に残る、勘違いに結び付いたピースを説明してみた。ネロの腕がギュッと絞まったのを感じて、藪蛇だった思っちゃう。いつも調子に乗って話し過ぎちゃう。


 もうね、ネロが落ち着くまで黙っている事にした。膝立ちの不安定な体勢だけど、ネロの抱き締め方のおかげか全くキツクない。寧ろ、ネロに抱っこされているふわっとした感覚で居心地がいい。


 少しして、ネロが腕を開放してくれたから、体を離して座り込みネロを見つめる。ネロの眉はもう顰められてなくて、表情は真顔に近い。でも、金色の瞳が悲しそうに揺らいでいる気がする。なんでそんなに悲しそうなんだろう。


「秘密、か。もし本当に殺されていたら。琥珀は神殿で復活した後。俺の元を去っていたか?」


 ネロが手を伸ばしてきた。両手で俺の顔を包み込んで顔を近付けてくる。じーっと見つめていたら、鼻が触れ合う程の距離でネロが問い掛けてきた。顔を逸らす事も目を逸らす事も許さない。目を見て答えろって事ですよね。


 真っ直ぐに見つめてくる金色の目が答えを求めている。ネロの想像は大当たりだ。当たっているんだよ。でもね、それを言っちゃったら、ネロがツライ顔をするのが分かる。


「あ。やっぱ、ばれちゃう?ネロはその場にいなくても俺の考えを読んじゃうんだね。凄いね。」


「本当に心臓に悪い。」


 ネロのツライ顔は見たくない。でも、嘘は言えない。だから、精一杯の軽口と明るい笑顔で答えてみる。ネロは一瞬目を丸くした後で、ふっと息を吐き出した。そして、親指で俺の頬を撫でながら、静かに噛み締めるように呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ