214 何もしてねぇだろ
多分だけど、俺の拒否はレオさんに届いていると思うんだよ。それなのに、レオさんは早くこっちを向きなさいって感じで首にキスをしてくる。向くまではキスをやめないぞって脅迫にも取れる行動だ。
ってか、マジでレオさんの行動がチャラいんだけど。ベッドの上で抱き締めた状態で、髪にキスとか首にキスとかって、子供に対する行動であっているのかな。俺の常識だと、ちょっと過剰な気がするんだけど。
ん~、あ、でも。ネロも似た感じの事はしてた。って事は、ガトでは普通の事なのかもしれない。ネロはここまでべたべたしてこなかったけど、レオさんはまぁ普通にいつも過剰だし。ここで過剰だったとしてもおかしくはない。うん、普通にレオさんの存在が卑猥な感じだから、変な気がするだけだった。
「流石に正面から抱き締められるのは恥ずかしいもん。ヤダ。」
「なんでそこで恥じらうの。背中から抱っこと同じでしょ。」
首へのキスをやめてくれないから、言葉で拒否を伝えてみた。そうしたら、抱き締めているレオさんの腕にキュッと力が込められた気がする。少しして、首へのキスの合間にレオさんの声が聞こえてきた。冷静な物言いに、妙な説得力がある気がする。
「そうかな、変わらない?」
「うん、全く一緒。」
ちょっと考えてみて、なんとなくそうかもって思えてきた。一応、確認で聞いてみたけど、レオさんはサクッと断定してくる。成る程、後ろからも前からも一緒なんだ。ん~、でもね、一緒でも、ベッドの中で至近距離で顔を合わせると、恥ずかしい気もするんだよ。
「でもね、顔を見られると恥ずかしくない?後ろからなら顔が見えないもん。」
レオさんの腕をギュッと抱き締めて、小さな声でこそっと呟いてみる。首へのキスが止まったのと同時に、首に熱い息が吹きかかった。そして、レオさんの腕に力が込められてカチカチになっちゃった。どうしたんだろう。
「琥珀よ、それはもう。ヤバい。」
「やっぱり、ヤバいじゃん。」
疑問に思いつつ、カチカチのレオさんの腕をむにむにと揉んでいたら、抑えたような口調で呟くレオさんの声が聞こえた。ん、やっぱりヤバいんだ。むっとして、心の言葉がそのまま口に出ちゃった。
「ヤバいけど、ヤバくない。もう一つの質問は顔を見て聞きたい。あと、顔を見て言って欲しい。」
レオさんがはっとした様子で言い直してきた。真面目な口調だから、信用できそうな気がする。顔を見ながら話したい事か。ん~、どんな質問なんだろう、超気になる。でも、この至近距離で振り向くのは勇気がいる。
「そうなんだ。あ、じゃぁ、そっちを向いてる間は離れていいかな。だって、ベッドの中で近くで見られると超恥ずかしいんだもん。」
理解を示した上で、提案を持ちかけてみたら、レオさんが離したくないって感じでギュっで抱き締めてきた。俺の腕ごと抱き締めて引き寄せてくる力を感じる。って言っても、既にぴったりくっついているから、これ以上はくっつけないけどね。
「究極の選択とか、マジで迷う。ん~、終わったらこっちにくるよね。ちゃんと戻ってこられる?」
抱き締める腕にキュッと力を込めた状態で、レオさんが迷った感じで言葉を返してきた。でもね、全然究極の選択なんか突き付けてないでしょ。それに、その後の心配は何なの。こっちにくる、は俺が自発的に戻るかの確認だから、まぁ、いいよ。
でもね、戻ってこられるって、明らかに迷子になる可能性を示唆するニュアンスだったんだけど、おかしいでしょ。例え、ベッドの端から端まで離れたとしても迷子にはならないよね。
レオさんの中では、俺はちょっとでも距離を取ったら迷子になる子供、って事なのかな。ん~、まぁ、実績があるから仕方ないのか。実際に、レオさんの所でのお泊り初日に、ちょっと離れて迷子になったからね。
「寒いんだから戻るに決まってるでしょ。そして、戻ってこられるってなんなの、迷子になんかなりません。この距離で戻ってこられないとかないでしょ。」
「了解。じゃぁ、いいよ。」
若干、レオさんの気持ちが理解できるような気分になりながら、冷静に突っ込んでみた。レオさんは心配そうな口調で渋々と了承して、腕を開放してくれる。
でもね、レオさんの腕が離れたら、ぽかぽかが薄れちゃった気がして、温かさが名残惜しくなっちゃう。冬場の暖かお布団と一緒の感覚なのかもしれない。
とはいえ、名残惜しんでいたらまた閉じ込められそうだから、サクッと抜け出る事にする。レオさんの腕の中から抜け出て、コロコロ転がって、ベッドの端っこの付近でうつ伏せになる。
距離的にはこれで大丈夫。位置が確定して、静かにレオさんを見つめると、レオさんは邪魔な枕を脇に追いやって、心配そうに見つめ返してきた。
「なんでそんなに遠くに行った。迷子になるから戻ってこい。」
意を決したって感じで、レオさんが心配そうに注意を促してくる。どんな心配性な親だよ。そんな遠くって距離じゃないし、迷子になんかならないでしょ。この感じを見ると、もしかしたら、レオさんはネロより重度な心配症になっちゃったのかもしれない。
「じゃあ、俺が近付くよ?いいの?そのまま、正面から抱き締めちゃうかもしれないし。イヤだって言っても、至近距離で琥珀の可愛い顔を凝視しちゃうかもしれないんだよ?」
軽く睨んで、無言でそのまま動かずにいたら、レオさんが優しい口調で言い聞かせてくる。普通に脅しである。心配するフリをした脅しだった。くそぉ、レオさんには口では敵わない。
「脅しとか、卑怯。」
「まぁ、そこならいいか。じゃあ、聞くよ?」
せめてもの抵抗で文句を言いながら、少しだけ転がって、ベッドの真ん中に寄ってみた。そうしたら、レオさんは一応納得したらしく、話しながら枕を渡してくれた。レオさんの心配症は落ち着いたらしく、穏やかな優しい眼差しになっている。
うつ伏せで枕を抱えて、レオさんと目を合わせながらコクっと頷いてみる。視線の先で、レオさんが幸せそうに目を細めたのが見えた。深い緑の目を見ていると、不満だった気持ちも霧散していく。
優しいモードのレオさんの瞳は、不思議な程のリラックス効果がある気がする。深い緑が優しく光を反射して、木洩れ日っぽくて穏やかな気持ちになれるのかもしれない。
「食事場に返しに行った時。調理場に入る前、何を考えてたの?」
深い緑の猫目に気を取られていると、静かに問い掛けてくるレオさんの声が聞こえた。質問の内容を色々と想定していたけど、流石にピンポイントで言いたくないトコロを突いてくるとは思わなかった。
「う、ソコをついてくるとか。レオさんはマニアックだね。」
怯みながら、何とか言葉を絞り出す事には成功した。けど、マジで答えたくない。だって、恥ずかしいもん。その途端に、レオさんがスッと目を細めたのが見えた。答えを強要する時によくする顔だ。
「言いたくない?」
「言いたく、ない。かもしれない。恥ずかしいから。」
レオさんが静かに聞いてくれたから、もじもじしながら、素直な気持ちを伝えてみる。それに、恥ずかしいから、って付け加えちゃった。レオさんなら分かってくれる筈。だって、こんなに恥ずかしいんだよ。
レオさんは心を読む達人なんだもん、きっと心は伝わる筈。という事で、恥ずかしいという思いの一点をのみを視線に乗せて、目で訴えてみる。
でも、返ってきたのは、綺麗な深い緑の猫目が示す、答えろ、という強い意志だった。どうやら、俺も目からの声が聞こえるようになってしまったらしい。
キラキラの猫目が眩しいんです。答えるまでいくらでも待ちますよって、緑の猫目が訴えかけてくる錯覚が怖い。余りにも綺麗な目に負けて、答えちゃいそうになる。この目は見続けると危険。そう判断して、そっと顔を背けちゃった。
視線を外した一瞬後で、隣が沈み込んだ感じがした。体が傾いて転がっちゃう。温かい体温を近くに感じて気が付いた。レオさんが超至近距離にいる。超至近距離というか、0距離ですよ。だって、ぴとってくっついてるもん。
ってか、一瞬で一気に距離を詰めるとか、凄いんだけど。ここは風と水のベッドの上だよ。動くと揺れた振動がもろ反映されるベッドなんですよ。それなのに、一瞬たりとも、揺れも振動もなかったんだけど、どうなってるの。
混乱の中でレオさんを見上げちゃうと、優しい眼差しが見つめ返してくれる。ちょっとの間、深い緑の目を見ていたら少し落ち着いてきた。という事で、視線を外して顔を体に向けてみる。
見たところ、レオさんはコロンと転がった俺の体を抱き留めてくれたらしい。俺の体を支えた状態で覗き込んでいるレオさんと、再度目を合わせて、ヤバさに気が付いちゃった。近いし、近い。そして、超近い。
転がって逃げようとしたけど、レオさんは腕を俺の腰に絡めて止めてくる。そして、俺の体の下に手のひらが差し入れてきた。それと同時に、レオさんの腕に少し力が込められた気がする。その直後に、ふわっと体が浮いた感覚があった。
気が付いたら、レオさんに向き合う形で寝かされていた。しかも、レオさんは自然に枕の下に腕を差し入れて腕枕をしてくるし、腰に腕を回して固定してくる。鮮やか過ぎて、びっくりした。
「うん。レオさんのテクニックは流石だね。驚いた。心底驚いて、驚き過ぎて眠くなっちゃった。」
驚きをそのまま表現しつつ、速やかに寝る方向に持っていこうと頑張ってみる。そうしたら、レオさんが楽しそうに口元を緩めて、悪戯っぽい表情になっちゃった。どうやら、何かを思いてしまったらしい。
レオさんは枕の下から腕を引き抜いて、むくっと体を起こした。と思ったら、俺の上に圧し掛かってくる。超近いし、重い・・・。あれ、重くない。ん~、あ、腕立ての要領で、腕とお腹の筋肉で自分の体重を支えてるのか。
こんな器用な真似ができるその筋肉が心の底から羨ましい。いや、それは今はどうでもいい。それより、近くてヤバいから。なんでこんな体勢になってるの。超ヤバいんですけど。
離れたいけど、レオさんの腕が俺の背中すれすれと顔の前にあって動けない。体も側面がレオさんに触れる勢いで密着していて、離れられない。くそぉ、どうあっても答えを強要するスタイルなのか。
「そう?でも、駄目だよ。まだ寝かせない。」
レオさんが顔を寄せてきた、と思ったら、耳元で甘く囁いてくる。ぞくっとする程にヤバい響きなんですけど。成る程ね、これがレオさんが培ってきた技術ってヤツなのか。所謂、エロい事で磨かれたテクニックですよね。ネロだけじゃなくて、あの綺麗なお姉さん方にもこんな風に迫るんだ。イヤらしいですね。
「レオさんは普段からこんな事ばっかりやってるの?」
「こんな事ってなんだよ。何もしてねぇだろ。」
溜息交じりに、レオさんの素行を軽く指摘してみたら、レオさんが顔を上げて、苦笑交じりで言い返してきた。ん、なにもしてない、か。いや、おかしいでしょ。どう考えたら、何もしてないなんて発想になるの。
瞬間移動の後で、普通に変な寝技を使ってきたじゃん。しかも、今の体勢はどこをどう見ても、イヤらしい事に発展する一歩手前ですよね。明らかにヤバい事になる前段階じゃん。
要するに、レオさんは自覚もなく、意識もせずに、息を吐くようにエロい事をするって事なのだろうか。恐ろしい。流石レオさんだ。ユリアさんに色事と筋肉って断定されるだけの事はありますね。怖いですね。
「お前な、脇道に逸れるなっての。迷子になって帰ってこられなくなるぞ?まぁ、迎えに行くけど。」
レオさんが溜息交じりに、優しく注意を促してきた。うん、どこをどう聞いても、優しく子供に言い聞かせる優しいパパさんですね。口調も、眼差しも、表情も優しさに溢れているし、いいパパさんなんだなって思うよ。
ただね、この体勢はヤバいんですよ。更には、今あなたが行っている行為は強要なんだよ。優しいパパさん要素は全然なかった。寧ろ、チャラさ全開のドSな遊び人の方の所業だから。
それにしても、また俺の考えを読んできたのか。的中率はどれくらいなんだろう。ヤバい程読んでくる時と、全然分かってない時との差が激しいんだよな。まぁ、今はレオさんの『勘』についてはいいか。
「脇道じゃないもん。自覚もなく、意識もせずに、息を吐くようにエロい事ができるレオさんはこわって思っただけ。それに、エロい寝技を使ってくるとか、エロい体勢とか、ヤバい。って思っただけです。」
ってかね、全く脇道には逸れてないし、本筋を突っ走っていますよ。どうせ思考が読まれているなら、と、一息に言葉に乗せて言い切って、どや顔をしちゃった。視線の先では、レオさんが目を丸くしているのが見える。どうやら、驚いた模様。そして、レオさんの表情が変化していく様子も確認できた。
驚き顔が、ニヤリ顔に変わっていく様を間近で拝見できるとか光栄です。しかも、ニヤリの後の攻撃を躱せないのが確定している状況で、それを見られるとか、凄く、ドキドキしてきちゃいますね。
最早、諦めの境地で心情を実況してみちゃう状況だよ。どうする事もできず、レオさんと目を合わせていたら、レオさんがゆっくりと顔を近付けてきた。
「そんな事を考えていたのか?エロい寝技、エロい体勢。それを琥珀の口から聞けるとか、ヤバいな。もっとしていいか?」
耳に唇が押し当てられて、ゾクッとなって逃げようとしたけど無理だった。くそぉ、拘束してこの攻撃は酷い。逃れようとジタバタと踠いて暴れていたら、耳に直接届くような、ウットリとした甘い囁きが響いてきた。
うん、レオさんはこういう演技が得意だよね。これも色々なアレで培ってきたって考えていいのかな。ネロともこんな風に色々としているって事か。こんな体勢でこんな風に戯れている、とか。イヤらしいですね。
ってか、今、そんな事を考えていたのか、って聞こえた気がするんだけど。もしかして、分かってなかったって事なのでしょうか。俺の考えを読んでいたんじゃないって事だったのかな。
今更ながら騙された事に気が付いてむっとなっちゃう。逃げようと頑張っていたけど、動きを止めてキッと睨んじゃうと、レオさんは楽しそうに目を細めてきた。ヤバ、なんというドS顔をするんだよ。
「嵌めるとか、ズルいと思います。誘導するのも良くないと思います。」
「嵌めてねぇし、誘導もしてねぇだろ。お前が勝手に話してくれただけ。」
静かに淡々とレオさんに苦言を呈してみると、レオさんもメチャクチャ冷静な声で反論をしてきた。ん、レオさんの言う通りだった。今回は俺の早合点だったのは否めない。でもね、そうなったのはレオさんのせいじゃん。
レオさんを睨みつけてた感情は意気消沈して、しょんぼりに置き換わっちゃった。涙目になっちゃうと、レオさんがちょっと慌てた感じで、目尻にキスをしてくれた。超優しいキスなんだけど、レオさんのせいだもん。
「そうだったかもしれない。でもね、レオさんがいつも意地悪するから、レオさんに逆らえない体になっちゃったんだもん。いつも無理遣り色々するから、そうなっちゃったの。」
悲しさを最大限言葉に埋め込んで、泣き言を言ってみると、レオさんがうんうん、って頷きながら優しく髪を撫でてくれる。優しい指使いだ。緑の瞳も慈愛の眼差しを湛えている。優しいパパさんが泣きそうな子供を慰めてる構図だ。ただ、惜しい事に、体勢だけがヤバいんだよ。
まぁ、体勢は兎も角として、穏やかな慈愛溢れる緑の瞳はメチャクチャ安心できる。優しいモードのレオさんに癒されてまったり気分になってくる。
「お前はやっぱり可愛いな。ごめんね、可愛いから、つい、遣り過ぎちゃった。無理遣りも、意地悪も、これからはなるべく我慢する。ただ、琥珀は可愛いから、抑えきれなくなっちゃうんだよ。」
癒しの効果を増幅するようなレオさんの優しい声が響いてきた。甘えさせてくれる優しい声だ。言葉の合間に頬や目尻にキスをしてくれるのも優しい。
「でもな、俺に逆らえない体とかヤバ過ぎだろ。俺が自由にできる琥珀の体、か。俺だけのモノにして、それをネロに見せつけたい。そして、ネロの前で琥珀の全てを奪ってやりたい。その時のネロの目を想像するだけで、ヤバい。お前はマジで最高。」
優しい口調で慰めてくれるレオさんを見上げて、ホンワカしていたけど、途中で気が付いた。途中から何かがおかしくなっている、と。口調だけは優しく慰める風を装った、イヤらしさ全開の何かだった。
何故、癒しオーラが全開の慈愛溢れる眼差しと、蕩ける様な優しい微笑みと、甘くて優しい声でそんな事が言えるのか。言っている内容が最早、ドン引き案件過ぎてヤバい。
ネロに見せつけたいって、どんな願望だよ。ネロの視線を想像したら、どうヤバいんだよ。レオさんの倒錯した愛が怖い。レオさんがいつか罪を犯す可能性しかなくて、ある意味心配になっちゃう。
「レオさんは脇道に入ったままで、迷子になって帰ってこなくなればいい。」
涙が引っ込んでジト目になっちゃった。棒読みで辛辣な言葉が口から飛び出ている自覚はあるけどこのままでいい。マジでレオさんの思考回路はどうなってるんだろう。
「悲しい事を言うなよ。でもまぁ、大丈夫。俺は『勘』だけはいいから、迷子とか無縁の男だし。」
レオさんが悲しそうに耳を伏せてぷるぷるって震わせてくる。そして、悲し気に呟くのを聞いて、一瞬謝らなきゃって感覚になっちゃった。それなのに、悲しさの表現はそこだけで、ニコっと爽やか笑顔で『勘』だけはいいとかぬかしてくる。
「ズルい。そうやって『勘』ばっかり使うのは酷いと思います。」
そうなんだよ、レオさんはいつも変な『勘』を悪用するのがいけないんだよ。唇を尖らせて文句を言っちゃったら、レオさんが楽しそうに目を輝かせた。なんでそこで楽しそうな顔になるんだよ。そして、すかさず優しい眼差しに変わるとか、レオさんの目は器用過ぎるから困る。
「そうだな、ズルいよな。俺は酷い事をしていた。琥珀はズルばっかりされて可哀想だったな。」
愛し気に俺の髪を掻き上げて額にキスをした後で、レオさんは優しく慰めてくれた。めっちゃ優しいじゃん。何を企んでるんだろう。怪し過ぎる。
「で、本題だ。何を考えてたのか教えて。」
不審な目を解かずにいたら、レオさんがスッと目を細めて、口調を変えてきた。やっぱり、そうくるか。諦める訳ないと思ってたんだよ。
あ、そうだ。沈黙って手があった。こればっかりはレオさんでも手が出せない筈。口を割らなくて済むし、更には、変に口を滑らす心配もない。変な性癖が増えたかもしれない可能性なんて、絶対に知られたくない。
「そう、話してくれないんだ。じゃぁ、今夜はこのままこうやって、可愛い琥珀の顔をずっと眺めてようかな。琥珀は寝ちゃってもいいよ、ちゃんと傍にいて、近くで見守っていてあげるからね。こうやって触れ合ってたら、温かいし、いい考えだと思わない?」
俺が無言を貫く選択をした事はばれちゃったらしい。レオさんが優しい口調で話し掛けてくる。優しい感じでやんわりと脅しをかけてくるレオさんを睨んじゃう。今回は頑張る。そんな脅しには屈しないからね。
レオさんの無表情な顔や、冷めた目とかにゾクってするとか。俺も二人に影響されて、変な性癖を身に付けちゃったかもしれない可能性、なんて知られたらヤバい。
レオさんに話す事は別にいいんだよ。超恥ずかしいけど、きっと、レオさんはテンションが上がるだけで何も問題はない筈。でも、ネロに知られたら、軽蔑されちゃいそうだもん。ネロの恋人なのに、なんでそんな目で見るのって思われちゃうじゃん。
「ネロに知られたくない?」
レオさんがクスッと笑って囁いた低い声にびくっとなっちゃう。駄目だ、動揺するんじゃない。レオさんはこうやって揺さぶってくる作戦が得意なんだよ。
だから、無言を貫いていればいい。俺だってやれる筈。決意を胸に秘めた瞬間に、レオさんがニコっとしてくれた。爽やかなイケメンスマイルだ。うん、やっぱりレオさんは間違いなくイケメンだった。
「あ、今日ね。琥珀を見ていて気が付いた事があるんだけど、言っていい?」
レオさんが明るく軽い口調で、唐突に話題を変えて世間話を始めた。爽やかな笑顔をキープしているレオさんに少しの違和感を覚えてしまう。何の意図があって世間話を始めたんだろ。
レオさんの作戦は分からない。でも、レオさんが脇道に逸れ捲って、俺が寝落ちすれば終わり。俺の体力的に眠りに落ちるのはそう時間はかからない筈。この勝負は勝った、かも。内心はニヤリとしながら、コクっと頷いてみる。
「冷めた視線とか、冷たい言葉で、琥珀が嬉しそうな顔になってたんだけど。あれは何だったのかな。」
温かい雰囲気を感じる爽やかな笑顔とは全く真逆の、低くて迫力のある冷たい響きの声が、俺の耳と心に突き刺さった。今、レオさんを表すとしたら、たった一言で事足りる。悪魔、かよ。
レオさんは知っていて言わそうとしてたんだ。理解したと同時に脱力しちゃった。俺が守っていたモノはなんだったんだ。今回こそは秘密を死守するつもりだったのに、駄目だった。
「レオさんはマジで意地悪。」
「お~、やっと可愛い声が聞けた。意地悪なんかしてないでしょ。可愛い琥珀にそんな事をする訳がない、悲しぃな。」
爽やかな笑顔で覗き込んでくるレオさんを睨んじゃう。そして、ぼそっと悪態が口から零れたら、レオさんはニコっと笑顔で悪態を受け流しちゃった。悲しいって顔は全然してないじゃん。寧ろ嬉しそうにニコニコじゃん。
「で?」
「ん?」
むぅっと睨み続けていたら、レオさんが疑問を提示してきた。その疑問は何だって首を傾げると、レオさんは嬉しそうに目を細めて、頬に優しく丁寧なキスをしてくれる。こんな悪辣な事をしているのに優しいとか、レオさんはマジでヤバい。
「だから、琥珀の口から言って欲しいって言ったでしょ?顔を見ながら、その可愛いお口で言って欲しいんですよ。」
穏やかな口調で、幸せそうな表情で、優しい眼差しで、レオさんが希望を口に出してきた。へぇ、敢えて、俺の口から言わそうとか。しかも、顔を見ながら、とか。どんなドSだよ。
「超キモイ。虐めるのが趣味とか、ヤバいからね。」
眉を寄せて悪態を混ぜ込みながら文句を言ってる間にも、レオさんが額や目尻や頬にキスをしてくる。メッチャ優しくて丁寧で愛情の籠ったキスなんだけど、ドSな人のキスなんだよ。ヤバいよね。こんなトコロにも変なギャップを出してくるとか、凄いよね。流石レオさんだ。
「心外だな。虐めてなんかないでしょ。答えは出してあげたんだから、後は琥珀の言葉で言ってくれればいいだけ。超優しくない?」
レオさんが溜息交じりに反論してくる。妙に説得力がある言い回しなのが凄い。まぁ、確かに答えは出てるよ。でもね、これ以上は恥ずかしくない、なんて事はないの。答えが出ていても、口に出すのは恥ずかしいんです。
「レオさんは基本的には優しい。でも、今は超意地悪。」
「へぇ?言ってくれないの?」
眉を寄せて、精一杯の抵抗をしてみたら、レオさんはクスッと笑いながら、また頬にキスをしてくれる。そして、顔を上げて静かに呟いた。視線の先で、冷たい光が緑の瞳から漏れ出したのが見える。
レオさんの顔からは優しい笑みが消えて無表情になっていき、優しかった眼差しは鋭く変化していく。冷たく光る深い緑の瞳に見据えられて、背筋がゾクっとなっちゃう。
こんなに自由自在にこの表情を作れるって事は、やっぱりばれてたんだ。くそぉ、全部分かっていて、敢えて、その表情を出してきていたんだ。今日はやけにこんな表情をするじゃんって思ってたけど、ワザとだったとか。
でも、落ち着いて考えたら、分かっちゃったかも。うん、レオさんのこの冷たい視線のおかげで、自分の気持ちも理解できてきちゃった気がする。
「俺はレオさんの無表情な顔とか、冷めた視線とかにゾクってなっちゃってた。それは間違いないし、二人に影響されて変な性癖を身に付けちゃった。って思ってた。でもね。」
できるだけ低い声で淡々と話してみる。俺の雰囲気が変わったのを理解したのか、レオさんが無言で頷いてきた。レオさんの表情も眼差しも、冷たい印象のままだけど、今はドキドキしない。この事からも、多分、俺の考えが正しそうだ。
「レオさんのソレは諸刃の剣だから。」
「どういう事?」
静かに結論を突き付けると、レオさんの表情が変わって疑問の顔になっていく。聞き返してくるレオさんの声を聞きながら、猫耳が心配そうに伏せられちゃったのを見て、思った。やっぱり、俺の性癖はコレ一本だと。イヤ、耳と尻尾の二本立てだ。
「確かに、レオさんのあの雰囲気はカッコ良くて、ドキドキする。でもね、そんな顔ばっかりされると、冷めちゃうんだよね。時々だとヤバいのは確かだけど、でも違った。どちらかというと、仕事の時のレオさんが好き。多分だけど、アルさんがいる時の緊張感がある顔っていうのかな。」
ぞくっとする感覚に翻弄されて見失ってた感があるけど、理解できたばっかりの俺の気持ちをそのまま話してみた。話の途中でレオさんの耳は立ってくれて、真剣な顔で頷きながら聞いてくれる。
レオさんのこの聞いてくれるスタイルがスゴイ好き。いつもこうやって、俺の言葉を全部逃がさないように耳を傾けてくれるんだもん。だから、レオさんと話をするのが楽しいんだよね。
緊張感を持って聞いていたらしく、話が終わるのと同時に、レオさんが溜息を吐いてしまった。そして、頬に優しくキスをしてくれる。よくできましたって感じかな。
「成る程。中々難しいな。あの緊張感は作ろうと思って作れるものじゃない。」
レオさんは顔を上げて、落ち着いた口調で納得をしてくれた。仕事中の緊張感、というか、アルさんを身近に感じる緊張感は特殊らしい。要するに、あのカッコいいレオさんを普段から作るのはかなり厳しいって事かな。
「そして、今日レオさんが多用して発動した為、効果が切れちゃいました。琥珀の性癖かと思われたモノは消失しました。以上。」
「マジかよ。」
ニッコリ笑顔で、性癖だったけど、性癖じゃなくなったんだよって締め括ると、レオさんが目を丸くしちゃった。そして、力なく呟いている。そんなに気落ちしなくてもいいのに。
レオさん的には、ネロの連れ子の俺と交流を図る意味で、俺の好きな表情を模索してくれたって事なんだろうな。折角掴めたと思ったのに、それが幻だったってのは悲しいよね。分かります。
「うん、マジです。これでネロにばれても怖くない。過去の一過性のモノだったし、軽蔑されない筈。耐性って凄いね。レオさん、ありがとう。」
ニコニコ笑顔でレオさんの腕に抱き着いて、その腕にキスをしちゃう。そして、レオさんのおかげで耐性が付いたお礼を伝えて、もう一度ギュッとしちゃう。
レオさんは溜息を吐きながら、俺を抱えてコロンと転がって寝る態勢になってくれた。すかさず、レオさんの腕を持ち上げてくるっと寝返りを打ち、背中をぴとっとレオさんにくっつけちゃう。
「じゃあ、就寝。レオさんは明日、朝からだもん。ちゃんと寝なきゃね。〈照明〉消せる?」
「了解。寒くないか?」
俺の疑問もレオさんの望みも両方解消したからお休みの時間です。就寝の宣言と、明かりを消すのをお願いしたら、レオさんの心配する言葉が返ってきた。やっぱり優しいな、ってクスッとなりながら頷いちゃう。




