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213 燃やす魔法じゃないの?

 レオさんがゆっくりと髪を整えてくれる。穏やかな優しい眼差しを湛える深い緑の猫目に癒される。こんなに近くで触れられていても緊張しないし、嫌悪感もない。嬉しい気持ちでいっぱいになる。


 ネロだけじゃなくて、レオさんも俺の中では家族の枠に入ってるんだなって思っちゃう。ネロは姉ちゃんに似ている雰囲気なんだよ。それだからかもだけど、最初から安心できる存在だった気がする。


 でも、レオさんは俺の家族の誰とも似てない。家族どころか、友達とか、親戚とか、知り合いの誰とも似てない。完全に初めて出会うタイプの人だ。それなのに、心から安心できる。


 この深く澄んだ緑の瞳が安心感の塊なのかもしれない。さっきは殺されるかもって思ったのに、それでも、この綺麗な緑の猫目を見ていたら受け入れる事ができたんだもん。ホント、綺麗な瞳、だな。


 手を伸ばしてレオさんの目元を撫でてみる。レオさんはくすぐったそうに目を細めたけど、止めてはこない。優しい眼差しで見守ってくれてる。ネロの眼差しと同じ種類の子供を見守る優しい瞳だ。


「そんな張り合わなくても、レオさんは凄いのに。」


「ネロはもっと凄いんだよ。」


 髪を整えてくれていた手が離れたタイミングで、レオさんを褒めてみる。そうしたら、ネロの名前は出してないのに、レオさんは即行で言い返してきた。ちょっとだけムキになって拗ねた感じなのが可愛い。


 しかも、自虐風を装って、何気にネロを褒めている。拗ねているのに褒めている、とか。惚気を聞かされているみたいでヤバい。ニマニマしちゃう展開だった。あ、帰り道のヤバいかもな想像を思い出しちゃった。


「じゃあ話してみようか、今直ぐに。」


 レオさんの目がキラキラッと輝いたと思ったら、直球で答えを求めてきた。相変わらず、思考は筒抜けなようで、大変悲しいです。素晴らしい『勘』ですね。まぁ、『勘』云々はもういい、今は気にするのはやめよう。


 うん、興味津々な猫ちゃんの顔は凄く可愛くて、頭を撫でたくなっちゃう程なんだよ。でもね、さっきまでのねちっこい拷問術はどこ行ったの。何気に、ネチネチ責められるのが癖になってきている俺はもう駄目なのかもしれない。


「レオさん、さっきまでの丁寧な仕事はどこに行っちゃったの。拷問ごっこの醍醐味で、レオさんの得意分野なのに放棄したらダメなんだよ。それ以前に、考えを読まないで頂きたい。」


「気になるんだから仕方ないだろ。次の質問で期待に応えてやるから。早く答えてみようか。」


 溜息交じりに苦情を言ってみたけど、聞き流されちゃった。そして、レオさんは尚も答えを求めてくる。いや、そんなに目をキラキラさせてるけどね、大した話じゃないし、ちょっとヤバい程度なんですよ。


「ん~、そこまでヤバくないよ?普通の話だけど平気?」


「前置きはいいんだよ。さっさと話せ。」


 一応牽制をしてみたら、強い視線と怖い物言いで脅されてしまった。超気になるのは分かるけど、そんな強い口調は怖い。だから、弱々しさを表現しつつ、涙目のフリで抗議行動をしてみちゃった。


 そうしたら、レオさんは視線を緩めて、目尻にキスをしてくれた。優しいキスだったから、ごめんねって謝る意味だと思った。凄く優しくて丁寧なキスが目尻を中心に頬や額に何度も繰り返される。


 謝る行動だと思ったから耐えていたんだよ。でもね、いい加減しつこいから。もうやめてって意味で軽く睨んじゃうと、レオさんはニコッと笑顔で離れてくれた。どうやら、フリは見破られていたらしく、揶揄われちゃったらしい。


 くそぉ、レオさんには勝てる気がしない。あの手この手で、技を封じられてしまう。でもね、いつか、俺はレオさんを手のひらの上で転がしてみせる。レオさんの弱点は我が手中に収まりつつあるからね。そのうち下克上ができる筈なんだよ。


 それはいいとして、レオさんはホントにヤバい程チャラいよな。目尻にキスをして宥めるとか、一体どこでやる機会があったんだよ。って、まぁ、機会なんて限られてきますよね。


 きっと、ネロにしてあげたんだろうな。ドン引きのネロの目尻に可愛くチュッてして、甘えて誤魔化した系、ですよね。中々可愛い事をしてるじゃん。そりゃ、そんな可愛い事をしてたらネロもベタ惚れしちゃいますよね。


「ほら、レオさんが言ってたでしょ。誘導しといてドン引きとかネロかよって。」


 まぁ、前置きはこれくらいにして、そろそろ答えてあげようかな。という事で、レオさんが求めている答えの切っ掛けを話してみると、レオさんがコクっと頷いてくれた。興味津々らしく、聞く体勢はばっちりみたいだね。


 だってね、キラキラ輝く猫目と、ぴんと立った猫耳が早く先を話せって強要してくる感じがするんだもん。めっちゃ可愛い強要の仕方である。思わず頭を撫でてあげると、微妙な顔をされてしまった。


「えっとね、フギンとムニンのおかげで、レオさんの変態が確定したでしょ?だから、レオさんなら、普段は冷静なネロをドン引きさせる事も可能かなって思った。」


 レオさんの微妙な顔にニマっとなりながら、続きを話してみる。変態が確定ってトコロでレオさんの眉がぴくっと反応したのが見える。超可愛い。ついでに、ドン引きって単語でも反応してた。超楽しい。


「で、何気にネロも変態って確定されてたじゃん。って事は、実はドン引きのフリをして、焦ったレオさんで楽しむっていう特殊なアレなのかなって。どう?普通でしょ。そこまでヤバくなかったでしょ。」


 話している間も、レオさんの表情が晴れる事はなく、話し終わってもまだ微妙な顔のままだった。レオさんの求めていた回答が得られたっていうのに、なんでそんな顔なの。


 あ、分かった。冷静だと思っていたネロだったのに、実は変態系のアレだって気付いちゃったのか。そして、実は自分は翻弄されてたって分かって、照れと恥ずかしさから表情を変えられないんだ。


 って事はですよ。レオさんはこんな顔をしていても、内心動揺しているって事になりますよね。即ち、余裕綽々のレオさんの牙城を崩したって事だ。どうやら、俺は気が付かない所で、レオさんを手のひらの上で転がしていたらしい。


 レオさんに精神攻撃をできたっていう達成感があって満足です。そして、思い出せてすっきりとした達成感もあって更に満足です。晴れ晴れとした気持ちで、またレオさんの頭を撫でてあげる。


 そうしたら、レオさんの表情が微妙を通り越して、疲れた様子に変わっちゃった。あれ、もしかして、ドン引きされちゃったのかな。うん、そうだね、精神攻撃の成功を喜ぶとか、ドン引きされても仕方ない。


 でもね、この顔は超可愛い。ってか、マジ可愛い。猫耳がげんなりって感じで傾いちゃってる。どうやって動かしたのかな。それに、猫目のキラキラがなくなっちゃった。ドン引き顔のレオさん、ヤバ。


「お前はそれを想像して楽しそうって言ったのか?」


 ちょっとテンションが上ってレオさんを観察していたら、レオさんが疲れた声で反応してきた。やっぱり、めっちゃ引いてる。ドン引きなネロを見る前に、ドン引きなレオさんが見られるとか。大満足。


「その顔、超引いてるじゃん。結論、ドン引きのレオさんは超可愛い。ネロに見て貰いたかったな。そして、可愛さを共有して盛り上がりたかった。残念。」


 レオさんの頭をぽふぽふって撫でて、可愛さを伝えてみたら、レオさんがなんとも言えない目で見てくる。その戸惑った視線もドン引きの顔と合わせるとヤバいから。メッチャ可愛い。


 こんな可愛いレオさんは是非ともネロに見て貰うべきだと思うんだ。だって、惚れ直しちゃうのが確定のイベントだもん。まぁ、それは置いといて、記憶を引っ張り出していて、同時に思い出した事があるんです。


「ってかね、一つ言っていい?」


 少しだけ低い声で改まった感じを表現したら、レオさんの表情が引き締まった。レオさんの首に腕を絡めて体を浮かし、話したいんですって意気込みを見せてみる。


 因みに、レオさんの首に腕を絡めたのと同時に、レオさんは俺の背中に自然に腕を回して動きを補助してくれた。驚きの反応速度と、驚きのチャラさ。


 というか、レオさんの腕の力で体が持ち上がってる感覚すらある。でも、レオさんの腕は背中に添えられてるだけ、な気もする。どうなってるんだろう、不思議だ。


 まぁいい、内緒話をするみたいに、レオさんの耳に口を寄せたら、目の前で猫耳がぴくっと動いた。息が吹きかかっちゃったらしい。ってか、間近で猫耳がぴくってなった。この光景はヤバい。耳の内側の毛を引っ張って、ヤメテって顔をさせたくなっちゃう。


「帰ったら教えてねって言ったでしょ?」


 猫耳の誘惑に耐えながら、ちょっとだけ甘えた感じで囁いてみる。レオさんの首から腕を離すと、レオさんが抱き留めていた腕を緩めてくれた。至近距離で目を合わせながら、教えてって意味でニコっとしてみる。


 レオさんは何の事だか分からなかったらしく、疑問の表情だ。レオさんのキョトンとした疑問の顔がメッチャ可愛い。さっきから、このお兄さんが可愛く見えちゃっている俺の目はおかしいのかな。いや、おかしくない。だって、猫ちゃんだもん、仕方がない。


「誘導しといてドン引きさせた案件について。」


「ああ、ネロがよくやるヤツね。ドン引きって言葉は生温かった、無表情で、お前は何をやってるんだ。って、無言の圧力をかけてくるんだよ。超怖いヤツ。」


 分からないんじゃしょうがないな。という事で、もうちょっとだけ情報を与えてみたら、レオさんは納得した感じで頷いて、答えてくれた。ただ、途中からどんどん嫌そうな顔になっていくのが気になる。


 そして、話し終わった時には心底怯えた表情になっていた。ん~、レオさんの表情と口調から伝わってくるのは、イチャラブとは程遠い、って事なんだけど、どういう事なんだろう。


「そんな事をよくされてるの?それは楽しい事なのかな。そういうプレイ的な何かなの?」


 疑問に思いながらも、質問を重ねてみると、レオさんの瞳が揺らいじゃった。なんでそんな恐怖を感じた顔になっちゃったの。要するに、イチャラブ要素のないプレイなんでしょうか。所謂、ハード系な何かなのかな。


 少しの間、レオさんは何かを思い出していたのか、怯えた表情をキープしていた。猫耳を伏せてぷるぷるって震わせているのが、可哀想だけど可愛い。相反する二つの感情を抱えながら、レオさんを見守ってみる。


「全く楽しくないし、普通に怖い。プレイとかプレイじゃないとか、そんな生易しいモノじゃない。真の恐怖体験。」


 怯えていたレオさんだったけど、急に目に力を込めた、と思ったら、きっぱりと否定してきた。しかも、楽しくないどころか、怖いって言い切っている。という事は、確実にイチャラブ的な話じゃな言って事か。


 まぁ、確かに、ネロはハード系な変態行為をするタイプには全く見えないよ。でも、レオさんに請われるままにしちゃっていたのかなって一瞬思っちゃったのに。違ったらしい。


 それと、恋人同士の変態的なイチャラブだと思ったのに。ネロが冷めた目で見据える先には、誘導されて変態行為をするレオさん。レオさんの恥じらう姿を楽しむネロ。背徳的で淫靡なアレかと思ったのに。違ったのか。


 想像の中ではイチャラブだった二人なのに、違うとか。悲しい。ネロがレオさんに冷たいのはプレイの一環だと思ったのに、違ったのも悲しい。


 更には、レオさんの口から出た言葉だから卑猥なイメージだったのに。誘導してドン引き、が蓋を開けたら想像と全く違ったのが悲しい。


 あ、そうだ。誘導がまだ残ってた。ドン引きはもういいよ。誘導が重要な項目な気がしてきた。だって、レオさんの口から出た言葉だし。ネロにえっちぃ誘導をされるって可能性もまだあるもん。


「誘導って、どんな事を誘導されるの?」


「ネロは自分ができる事は他人もできると思ってる節があるんだよ。で、上手く誘導されて、結果失敗してドン引きされる。怖いわ、思い出したら怖くなってきた。あの冷めた視線が恐ろしい。トラウマレベルの恐ろしさ。」


 次なる質問をしてみると、レオさんがギュッと抱き締めてきた。急にどうしたんだろう、って思っていたら、レオさんが恐怖を押し殺した感じの声でゆっくりと説明をしてくれる。こっちもイチャラブ要素がない上に、仕事系の全く色気がない話だった。


 そして、ぶるっと震えるレオさんの様子から、本気で恐ろしさが蘇っているらしい事が伝わってきた。そうだね、仕事中のネロは厳しそうだもん。なんとなくイメージできる気もする。


 レオさんは恐怖を軽減する為なのか、抱き締める腕を緩めてくれない。怖い時って誰かにしがみ付きたくなっちゃうよね。分かります。だから、レオさんの背中に腕を回して、可哀想にって思いを込めて撫でてあげる。


「ネロはストイックだからね。ある意味納得。でも残念。」


 レオさんの背中を撫でながら、納得できましたって思いを伝える。でも、ちょっとだけ本音も付け加えちゃった。レオさんが腕を緩めてくれたから体を離すと、緑の猫目が疑問を訴えてくる。


「色気のある展開かと思ったの。レオさんが相手だし、ねぇ。」


「ねぇってなんだよ。俺だって常時エロい事をしたり、考えたりしてる訳じゃない。特に仕事の時はそんなんだと死ぬ。討伐とか戦闘はまぁ何とかなるからそれでもいいけどね。族長にばれたら殺されるから、仕事中にはそんな事は考えてられないの。」


 残念な気持ちを言葉に乗せて訴えてみたら、レオさんは目を丸くしてしまった。そして、静かに反論をしてくる。真面目な口調だったし、前半は真面目な内容だった。うんうん、って頷きながら興味深く最後まで聞かせて貰ったんだよ。


 でもね、討伐とか戦闘は何とかなっちゃうモノなのかな。エロい事を考えていても、普通に戦えるって事だよね。エロイ事を考えながら討伐ができるとか、ヤバいじゃん。


 レオさんは実は凄い人な可能性が浮上してきた。いや、凄い人であってるか。族長アルさん専属の護衛さんだし、そりゃ、ただのエロいお兄さんじゃないよね。


 まぁ、それはこの際どうでもいいよ。だって、レオさんにとっては、エロは思考回路に標準搭載されている可能性しかないし。常時エロい事を考えながら何でもできちゃうでしょう。問題はそこじゃないんだよ。


「またまたぁ、アルさんがそんな事をする訳ないでしょ。今日もあんなに可愛い笑顔だったじゃん。俺が泣かせちゃう寸前までの事をしちゃったのに、怒ってなかったし。」


 アルさんに殺されるとか、死ぬとか。そんな風に言って欲しくない。冗談だって分かっているけど、死ぬって言葉で心がきゅってなっちゃうんだもん。内心は押し殺して、軽い口調でレオさんの言葉に異を唱えながら、アルさんの擁護をしてみた。


 レオさんが一瞬だけ辛そうな顔になった気がした。まさか、一瞬考えた事すらも読まれた、とかないよね。何かを言われるのが怖くて、身を硬くして身構えてしまう。


 でも、勘違いだったみたいだ。レオさんは何も言わずに、俺の髪に優しく指を絡めて撫でてくれた。優しい指使いで心が落ち着く。間近で見つめてくる緑の猫目が穏やかで、不安を取り去ってくれる気がした。


 レオさんが辛そうだったのは、アルさんの威圧感を思い出したから、だったのかな。うん、きっとそう。だって、あの時のアルさんは俺から見ても超怖かったし。あれが族長としてのアルさんなんだなって思ったもん。


「ホントにそれな。お前は俺とネロの命を握ってるって自覚しろ。あの声と顔で、言いたい事があるなら聞くって言葉を出された瞬間に、命がなくなったと思ったんだぞ。お前の破天荒な行動は可愛いけど、少しだけ考えて行動をしような。」


 レオさんは軽さを含ませた口調で、ゆっくりと優しく俺の行動を嗜めてくれた。優しく叱ってくれるレオさんの瞳は凄く優しくて、素直にコクっと頷いちゃう。乱暴な物言いだけど、アルさんを泣かせそうになっちゃった事実を非難して、叱ってくれる言葉だ。


 ネロは、多分だけど、こうやって叱る事はしてくれない。俺の行動を優しく肯定してくれると思う。慰めてくれるし、頭を撫でてくれるし、寄り添ってくれる。優しいネロの傍は居心地がいい。でも、同じくらい、ちゃんと叱ってくれるレオさんの傍も居心地がいい。


「レオさんは大袈裟だな。アルさんはそんな事はしません。じゃあ、膝から下りるね。熱くなってきた。」


 途中まで素直になって頷けたのに。ごめんなさいって言えそうな雰囲気だったのに。何故かそっぽを向いちゃった。目を逸らして、軽口で応戦しながら、膝から下りる宣言をしちゃう。なんで、素直になれないんだろう。素直になり過ぎて、甘え過ぎちゃうのに、こういう時だけ素直になれない自分が不思議だ。


 レオさんがクスッと笑って髪にキスをしてきたから、ちらっと目を戻してみた。悪戯っぽく笑うレオさんが見えて、また、プイっとそっぽを向いちゃう。


「駄目。」


 もう一度、優しく髪にキスをした後で、レオさんは拒否の言葉と共に腕を開放してくれた。そっぽを向いたままで、レオさんにギュッと抱き着いてみる。一度開放した腕を優しく締め直して、レオさんが抱き返してくれた。


 謝る時は素直になれなかったのに、甘える時は素直になれる。ホント、自分の心ながら不思議だ。少しの間、キュッと抱き着いていたけど、熱くなって腕を離しちゃった。それと同時に、レオさんも腕を開放してくれる。


「で、もう一つの質問は何だったの?」


「そうだな~、じゃあベッドで横になりながらまったり話す?琥珀はそろそろ眠くなるかもだし。」


 レオさんの膝から下りながら、もう1つの質問についても聞いてみる。レオさんは俺の背中を抱える形で、下りるのを補助してくれながら、優しい口調でベッドでの会話を提案してきた。


 凄く魅力的な提案だ。スイーツも食べ終わって、拷問ごっこの緊張からも解放された。まったりの時間が加速していきそうな気配が漂って、眠くなっちゃう可能性しかない。


「そうだね、それがいいかも。」


 レオさんの提案を二つ返事で了承して、即行でベッドに移動して横になる。レオさんは枕を運んできてくれて、ブランケットを丁寧に掛けてくれた。小さな子供のパパ感が満載だ。


 優しく見守ってくれる眼差しとか、枕に頭を乗せた後で髪を優しく整えてくれる行動とか、額にキスしてくれる仕草とか。確実にパパさんだ。自分が小さな子供になってしまった錯覚を抱いちゃう程に、完璧なパパさん。


 見守ってくれる優しい存在に安心していたのに、何故か離れていっちゃう。思わず手を伸ばしてレオさんのズボンを掴んじゃった。レオさんは移動を中断して、しゃがんで覗き込んできた。そして、頬と額と目尻と、色々なトコロに沢山キスをしてくれた後で、優しく髪を撫でてくれる。


 レオさんが離れていっちゃう事に不安を覚えたらしい。という事を、レオさんの安心させてくれる行動で自覚できた。俺の心の変化を俺より分かってくれるとか、レオさんの『勘』は凄い。


 レオさんがまた離れていくけど、今度は目で追いかけるに止めておく。レオさんはローテーブルに近付いた後でちらっとこっちを見て、優しく目を細めてくれた。どこにも行かないよって言ってくれてるっぽく見える。


 ぼんやりと眺める中で、レオさんはカップとお皿を持って流しに移動していく。そして、カップとお皿を軽く漱いで、詠唱を始めた。低くて少し掠れた声が響いてきて、耳に心地いい。何の魔法なんだろう。


 疑問に思った瞬間に、レオさんの手の上で大きな火柱が立ったのが見えた。一瞬だけど、ぼわって燃え上がって直ぐに消えちゃった。突然の火の魔法が見えた事で、じわじわとテンションが上ってくる。


 むくっと体を起こしてレオさんを見つめちゃった。レオさんはこっちに目を向ける事もなく、何事もなかったかのように、カップを棚に仕舞っているのが見える。更に、ローテーブルに移動してお皿をミニバスケットに詰め込んで、ミニバスケットのベルトを留めているのも見えた。


「今の火は何だったの。超カッコ良かった。」


「普通に〈焼却〉。前に見せただろ?」


 レオさんが戻ってくるのが見えて、勢いよく質問をしちゃうと、レオさんは楽しそうに目を細めて静かに答えてくれた。そっか、〈焼却〉か。そうだね、前に見せて貰った魔法で間違いない。あの時、ごみ箱の中身を燃やしてくれたのはテンションが上っちゃったよね。って、〈焼却〉?


「燃やす魔法じゃないの?」


「そう、燃やす魔法。琥珀のカップが壊れないように温度は弄ったけど、水気くらいは燃えて消えるでしょ。」


 首を傾げて疑問を伝えてみると、レオさんは平然と魔法の応用をした事実を教えてくれた。マジか。魔法は凄く難しい工程を踏むっぽいのに、簡単に応用をしちゃったって事だよね。


 魔法の発動は簡単じゃない事を知っているからこそ、さらっと応用をできちゃう事のヤバさが分かっちゃう。自分でも目を輝かせちゃっているのが分かるよ。


 だって、実際に凄いモノを目で見ちゃったんだもん。しかも、レオさんだよ。魔法が苦手っぽそうなレオさんがサラッと繊細な魔法のコントロールをしちゃったんだよ。ヤバい以外の言葉では語れないでしょ。


「レオさんは凄い事ができるんだね。凄いな、ネロみたいだね。ホント凄いね。」


「褒め言葉だよな?それは褒めてるんだよな。」


 もうね、感嘆の言葉が出ちゃうくらい凄い。褒めちぎってみたのに、レオさんは少しだけ不満そうな顔になっちゃった。そして、溜息交じりに卑屈な事を言い出したレオさんは可愛くない。褒めている以外の何に聞こえるって言うんだよ。


「うん、超褒めてる。そんな事より、今直ぐベッドで横になった方がいいと思うの。寒いでしょ、主に俺が。」


 コクっと頷いて、大いに肯定してあげた。ってかね、寒いの。早くベッドに来てよ。立ったままで腕を組んで見下ろしている威圧感満載のレオさんに、早く来てって促してみた。


「ふ~ん。って事は、くっついていたいって事なのかな。成る程ね~。いいぞ?さぁ来い。」


 レオさんは気乗りしない口調で面倒臭そうに答えて、ブランケットを捲って隣に座ってきた。なんでそんな口調なのって、むっと眉を寄せちゃったら、さぁ来いって言葉と共にがばっと抱き締められてしまった。


 そして、俺諸共、体を倒して横になり、枕とブランケットを整えた後で背中からギュッと包み込んでくれる。そんなレオさんには一切抵抗をせずに、レオさんのなすがままに従ってみた。


「って、抵抗しないのか。どした、琥珀。体調が悪いのか?寝室に行って寝るか?ここだと寒いよね、ごめんな。」


 後ろからレオさんの心配する声が聞こえる。耳の近くで直接届く、穏やかな声だ。言葉で答えるのが恥ずかしくて、首を小さく横に振っちゃう。体調は悪くないし、寝室には行きたくない。寒いのは事実だけど、謝られるのは違う。


 実は、気が付いちゃったんだもん。何故か、レオさんに抱き締められるとか、抱き着くとかに、全く抵抗がなくなっている。それに、キスをされるのも全く抵抗がないし、愛情が感じられてもっとして欲しいって思っちゃう。


 勿論、ネロに対しても全く同じ感情を抱いている。何故か、という言葉は正しくない。理由は良く分かっているから。まぁ、レオさんが相手だと、素直になれなくて拒否しちゃう時もあったけどね。でも、本心では全く拒否してなかった事に気が付いちゃった。


 レオさんにとっても、ネロにとっても、俺は子供なんだと思う。他所の子じゃなくて、家族としての子供。二人の眼差しや態度や仕草から、俺を愛すべき子供として見てくれているって分かる。抱き締めるのは子供に対する親の愛情。キスも抱っこも親の愛情を示す手段。


 俺にとっても、ネロは完全に親だ。優しくて安心できる優しい父親。レオさんは保護者は嫌だって事だから、ホントはそう見ちゃいけないって分かっている。


 でも、レオさんの愛情は子供に向けた親の愛情と錯覚してしまう程に、完全に親っぽい。だから、ネロと同じように父親のように感じちゃうんだよね。


 二人が俺を子供として見てくれるように、俺も二人を親として見ちゃう。だから、恥ずかしいとか嫌だって感情すらもなくなっちゃったらしい。


 そもそも、スキンシップが超過多なレオさんだからこそ、全く違和感がなくなっちゃったのかもしれない。だって、家の中限定にはなるけど、レオさんがキスしまくってきても、ハグや抱っこをしてきても、羞恥や嫌悪の感情が全く湧かなくなってるんだもん。


 無言でいたからか、レオさんが俺の体に回していた腕を離しそうになっちゃった。慌てて、体に回されていたレオさんの腕をギュッと抱き締めて、離れるのを阻止しちゃう。


 俺の行動に思う事でもあったのか、レオさんが髪に優しくキスをしてくれる。そして、もう一度、抱き締める腕に少しだけ力を込めてくれた。位置を変えて優しく繰り返されるキスは止まる事はないけど、イヤではないから放置しちゃう。


「このベッドは寒いからレオさんの腕をギュってしてあげる。レオさんもギュってしてもいいよ?」


「琥珀から求めてくるとか。どした、何かあったの?それとも、悪戯系の何かを企んでるとか?」


 レオさんの唇が触れるくすぐったさを感じながら、小さな声でこそっと呟いてみる。レオさんのキスがなくなった、と思ったら、疑惑満載のレオさんの声が聞こえてきた。レオさんに疑われる程に、俺は甘えた態度で接していたんだろうな。


 でも、こんな時でもレオさんの言い回しは微妙だよね。求めてないし、言い方が卑猥なんだよ。でも、今回は突っ込まない。だって、レオさんの本心が知りたいんだもん。ネロがいない状況で、ちゃんと確認を取っておきたい。


「やっぱり、俺は甘え過ぎかな。」


「どういう事?」


 ちょっとだけ不安になって、レオさんの腕をギュッと抱き締めて甘えた口調で呟いてしまう。レオさんの声が今度は心配な感じに変わって、俺が抱き締めている腕に力が込められた感じがした。


「レオさんと一緒にいると楽しいから、甘え過ぎて多くを望んじゃう。で、我儘いっぱいになっちゃうし、素直になれなかったりする時がある。子供っぽい行動で振り回しちゃうし、戯れ付いちゃうから、何かを企んでるって思われちゃう。」


 レオさんの腕を抱き締めながら、自分の手をレオさんの手に重ねてみる。直にレオさんの体温を感じながら、しょんぼりと胸の内を話してみた。話している最中に、レオさんが俺の手を握ってくれた。熱い温度で手のひらが包み込まれて、幸せ、って思っちゃう。


「企んでるは言い過ぎた。ごめん。琥珀の我儘に振り回されるのは楽しいし、素直じゃない琥珀は可愛いんだぞ?それに、振り回されるのも戯れ付かれるのも最高な癒しだから、なくなったら困る。」


 後頭部に熱い息が吹き掛かった。レオさんが息を吐き出したらしい。それから、穏やかなレオさんの声が響いてきた。謝ってくれて、俺を肯定してくれる優しい言葉だ。


 我儘でも楽しいって言ってくれた。可愛いはいつも言われてるけど、ちょっと嬉しい。それに、癒しだからなくなったら困る、って。ウルっと来ちゃう程に嬉しい。やっぱり、レオさんは親として俺を見てるのかなって思っちゃう程に、愛情の籠る言葉達だった。


「それに、もっと甘えて欲しいし、多くを望んで欲しい。まぁ、俺にできる事はたかが知れてる。でも、できる事までしかできないけど、琥珀が望んでる事は叶える努力は惜しまない。」


 優しくて穏やかなレオさんの声が俺を受け入れてくれた。多くを望んでいいって言ってくれた。ぎゅっと抱き締めてくれるレオさんの存在が傍に感じられて嬉しい。


 さっきは暗殺者だって疑ってごめんね。レオさんはこんなに優しいのに疑っちゃうとか、ホント、駄目だった。素直に声に出して謝れないから、心の中で謝っちゃう。レオさんの手をキュッと握ってみると、微かに握り返してくれた。


 レオさんの熱い程の温かい体温が嬉しい。着ぐるみの厚い生地越しなんだけど、レオさんの体温が温かくて心地いい。温かくてポカポカして、凄く幸せ。


 寒いベッドから、ぽかぽかな環境にシフトチェンジして寝心地が格段に良くなった。このままだと直ぐに寝ちゃいそう。って事で、眠くなる前にちゃんと心残りを処理しておきたい。


「じゃぁ、残り一つの聞きたかった事を教えて。」


「ん~、こっち見る?」


 握ったままだったレオさんの手を離して、本題に入ってみた。レオさんは髪にキスをしてくれて、嬉しそうな声で提案をしてきた。でもね、イヤです。そっちは見ません。レオさんの腕を抱き締めて、拒否の心を伝えちゃう。

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