212 一応確認、的な?
ヤバいな。俺は猫耳には勝てない。イヤ、レオさんに勝てない、の方が正しいのかな。ん~、レオさんに勝てないのは確定で、猫耳にも勝てないのは決定事項だった。どっちにしても勝てない勝負だったらしい。
「『勘』も。俺にとって、『勘』は命綱みたいなもんなんだよね。それが無いと仕事の時とか怪我しちゃうかもだけど、それでもいい?」
レオさんには勝てない事を悟っていたら、レオさんが更に悲しそうな声で、さっきの禁止事項について言及してきた。ぷるぷるって震わせてる猫耳と、ちょっとだけ潤んだ緑の猫目がヤバいから。レオさんなのに超可愛い。ヤバい。猫耳がヤバいです。くそぉ、駄目だ。これは敵わない。
猫耳を不安そうにキュッと後ろに反らしている感じがメッチャ可愛い。レオさんの耳の感情表現は本気でヤバい。俺の心を鷲掴みにして離さない、一番えぐいトコロを突いてくるレオさんの卑怯さもヤバい。
「じゃあ、緊急時は発動してもいい。」
「緊急じゃない時も構えてないと大変な事になるかもだよ?」
また、俺はレオさんに屈してしまった。禁止を一部撤回してみたら、レオさんの猫耳がちょっとだけ立ち上がってくれた。そして、レオさんは不安そうな声で追撃を仕掛けてくる。
レオさんの目は潤んでいるけど真剣だし、耳は怯えを含んだ緊張状態を表している。そうだよね、『勘』が働く事で色々と回避できる、事もあるよね。護衛さんってお仕事の性質上、『勘』は重要になってくる、のかも。
「じゃあ、禁止発言を撤回、『勘』の発動を許可します。」
禁止の完全撤回をしてみると、レオさんの目が輝いた。でも、その直後に、何故か懐疑的な眼差しに変わってじっと見つめてくる。どしたの、って小首を傾げてみると、レオさんは顔をぐいっと寄せてきた。
「ホント?嘘じゃない?いきなり手のひらを返したりしない?何日かしたらやっぱダメって言わない?」
「しつこい。思う存分、『勘』を発動して下さい。」
何事って思った瞬間に、鼻の頭が触れ合う程の距離で、レオさんがすごい勢いで確認事項を連発してきた。超至近距離のレオさんの頬を両手で挟んで距離を取りながら、言い返す形で『勘』の発動を認めちゃう。その瞬間、レオさんの耳がぴんと立って、にっこり笑顔になったのが見える。
「お~、やった。嬉しい。」
勝利宣言をするレオさんは嬉しさを抑えきれないって感じで、目がキラキラしている。口調はのんびりと間延びして安堵を表しているっぽいけど、この表情の急変的に言い包められた感が否めない。
でもね、確かに、護衛の仕事をしているレオさんに『勘』の禁止は駄目だった。危険と隣り合わせになる事もあるかもなのに禁止されたら、大変な事になっちゃうかもだもん。って、あ。そっか、俺に限定すればいいんじゃね?
「琥珀。二言はないよね。限定で区切ってくるとか、そういう卑怯な真似はしないよね。」
いい事を思いついて口を開こうとした瞬間に、レオさんがスッと目を細めたのが見えた。そして、低く迫力のある声で、ゆっくりとした口調で、優しく言い聞かせるように、確認を取られてしまった。
言葉に付随するレオさんのニッコリ笑顔にぞくっとなってしまう。うん、明らかに俺の思考を読み取って、先回りで言葉を出してきた、気がする。ってか、『勘』ってなんなの。固有特性ってそんなに凄いモノなの?全部筒抜けじゃん。ヤバいじゃん。
(固有特性は所有する事自体が極々稀な、非常に希少な特性です。極めて強力な効果を発揮する特性しか御座いません。勿論、固有特性《天運の勘》も例外ではなく、勘の的中率を驚異的に引き上げる効果となっています。)
やっぱ、言い包められてた。くそぉ。あ、でも、レオさんは極々稀で希少な凄い固有特性持ちだったんだ。凄いな。極々稀なって事はハイパーレア特性って事ですよね。レオさんは凄いな。
ただね、そんなに凄いのに。レオさんの事だから、希少な特性を色事関係にしか使ってなさそうな気がしてきた。ホント、レオさんは困った人だよね。それはそうとして、今は読まれた事を気付かないフリで誤魔化さなきゃだ。
「そ、そんな卑怯な真似をする訳ないじゃん。やだなぁ、レオさんは疑い深いんだから。」
「琥珀がそんな卑怯な事するとは思わないけど。一応確認、的な?」
へらっと誤魔化し笑いをしつつ、レオさんに同調してみた。レオさんは楽しそうな笑みを浮かべて、優しく言葉を返してくれる。超楽しそうなんですけど。
どう見ても、ドSな顔になっちゃってる。爽やかな笑顔なんだけど、弄んでる時の楽しさが浮き出てるもん。レオさんはこうやって手のひらで転がして遊ぶのが好きなタイプな人なんだよね。知ってるんだから。
「へ、へぇ。慎重派だね、凄いね。」
「そうなんだよ。俺は実は慎重なタイプだったりするんだよ。大味に見られる事が多いけどね。」
震える声を抑えながら何とか言葉を絞り出した先で、優しく見守ってくれている笑顔のレオさんが見える。爽やか風で、好青年風な、イケメン風なのに、なんでそんな迫力があるの。そして、返してくれた言葉の軽い口調の中に楽しさが溢れかえっているから。
「成る程~、人は見かけに寄らないって事ですね。流石レオさんですね。」
震える声でなんとか褒めて、会話は終了。俺なりに頑張った。打倒レオさんの道は険しい事を思い知ってしまった。だって、レオさんは異常に口が回る上に、特性に裏打ちされた『勘』まであるんだよ。ぎゃふんと言わせるなんて無理じゃん。悲し過ぎる。
レオさんが俺の髪を優しく撫でてくれる。優しい指使いは心を落ち着ける効果を齎して、深い緑の瞳は優しい眼差しで心を慰める効果を齎してくれる、気がする。ってか、自分で打ちのめした上で、自ら慰めてくれるとかなんなの。
こんな優し気風なレオさんにふらふらっと引き寄せられて、女の子達は惚れてしまうんだろうな。これぞ、真のチャラ男って感じがする。心の中で導き出した結論に納得して、うんうん、と頷いちゃったら、レオさんが微妙な顔で頭から手を離してしまった。
「じゃあ、始めちゃう?」
本題に入りますよって感じで、楽しそうに囁いてくるレオさんを見つめる。逃げるのは無理と悟って、コクっと頷き、そっとフードを被ってみた。これで耳元への攻撃は防げる。防御をしてしまえば怖くないのだよ、この服を用意した自分を恨みたまえ。ふふんと、どや顔で鉄壁の装備をアピールしてみる。
「ほぅ、可愛いね。それに、その挑発する目付き。可愛過ぎてヤバい。そんな可愛い顔なのに、俺に屈して涙目になる未来が見える。で、潤んだ瞳と上気した頬で必死に耐えるんだよ。想像だけでヤバい。な、琥珀そう思わん?」
レオさんがウットリとした顔になっちゃったんだけど。そして、甘い声で変な事を言い出した。もうね、レオさんの口から出る言葉は全部エロく聞こえてくる。他の人の口から出たらエロくない筈なのに、何でレオさんだと卑猥なんだろう。
ん~、もしネロが同じセリフを言ったとしたらどうだろう。ちょっとだけ考えを巡らせてみる。でも、ネロはこんな事は言わない事実に気付いて愕然となっちゃった。比較対象が逃げ出しちゃった、悲しい。
ってかね、辱めの言葉に合わせて対象者に確認を取る、という手段。こんなトコロにレオさんのイヤらしさが凝縮されている気がする。コレは知っているよ。恥ずかしがる俺が見たいんだよね。
「なんで俺に聞くの。そして発言がアウトだから。」
冷めた見据えながら突っ込んであげると、レオさんが嬉しそうにイヤらしい笑みを浮かべた。いや、笑み自体はイヤらしくなくて嬉しそうな笑顔なんだよ。でもね、レオさんの雰囲気がイヤらしいんです。
「その威勢の良さも堪らない。そんな風に煽られると、抑えられなくなりそう。琥珀を虐めるのは本望じゃないんだけど、琥珀が望むなら頑張っちゃうよ。」
レオさんがズイっと顔を寄せて、額がくっつく程の距離で覗き込んできた。その状態で、ちょっとだけ甘さ含ませた低い声が響いてくる。内容は、うん。実にレオさんっぽい、卑猥さを含んでいる、気がする。煽ってない上に、望んでないし。頑張らなくてもいいんだよ。
それにしても、レオさんがマジでノリノリになっている気がする。それに、超楽しそうに見えちゃう。本当は、こんな風にネロときゃっきゃウフフで楽しみたいんだろうな。ネロとできないからこそ、俺を相手にした代償行動で気持ちを収めているんだと思う。
あ、でも、実際にネロとレオさんが拷問ごっこをしたら、ネロは冷静にレオさんを言い負かしちゃう気がする。ネロが冷たい目で見据えて淡々と論破していく。そして、レオさんが打つ手なしで涙目になっちゃう展開。ありだと思います。
「ん~、じゃぁ、まず手始めに。今思った事を口に出してみようか?」
ニッコリ笑顔のレオさんが拷問ごっこを始めてしまった。別に普通の事を考えていただけだし。そんな事なら。余裕ですよ。全然変な事は考えてないもん。
「レオさんがノリノリで楽しそう。ネロとイチャイチャしながら楽しめばいいのに。そして、ネロに言い負かされてレオさんが涙目になる展開。ありだと思います。」
淡々と棒読みで答えてあげると、レオさんが真顔になっていくのが見えた。俺も真顔で淡々と話しているから、同じ表情ですね。ネロ直伝のポーカーフェイスですよ。琥珀はポーカーフェイスを手に入れたぞっと。
希望通りに答えてあげたのに、レオさんは黙り込んじゃった。無言での見つめ合いが続いていく。少しの間、レオさんは目を合わせながら何かを考えていたっぽい。そして、ニッコリ笑顔で動き始めた。
レオさんが顔を寄せてくるけど、正直余裕しか感じない。だって、鉄壁のフードによって、耳元での囁き攻撃は封じてあるからね。
自身の弱点が耳だという事を、過去のレオさんとの数々の触れ合いの中で知る事ができた。だから、そこを防御しておけば、攻撃の8割は防げると考えていいでしょう。
自信満々で余裕な態度は直ぐに崩れ去る事になっちゃった。レオさんが片手を俺の背中から離して、フードの上から頭を撫でてくる。そして、自然な動作でそっとフードを外してしてしまった。
優しく髪の乱れを整えてくれるレオさんを、呆然と見つめちゃった。レオさんは優しく見つめ返して、優しい指使いで愛し気に髪を整えてくれている。俺の鉄壁の防御があっさりと、外された、だと?驚きから言葉が出てこない。
「じゃあ、次、いいよね。」
俺の髪から指を離して、レオさんがギュッと抱き寄せてきた。その状態で、耳に直接吹き込むように、甘い響きの低い声が囁いてくる。ゾクゾクっとなって、はっとなった。腕を突っぱねると、レオさんは腕を緩めてくれる。
「装備の解除は酷い。俺の防御力が大変な事になっちゃうもん。」
「成る程、防御の意味でフード被ったのか。てっきり、挑発する為だと思ってた。」
どしたのって感じで優しく覗き込んでくるレオさんを軽く睨んで、甘えた口調で文句を言っちゃう。レオさんはちょっとだけ驚いたらしく、目を丸くしている。そして、クスッと笑って、俺の髪を摘まんで弄りながら、レオさんが理解した解釈を教えてくれた。
あ、マジか。凄い事が分かっちゃった。俺の意図とレオさんの解釈は違った。って事はですよ。俺の考えている事が全部筒抜けではないって事だ。つまり、レオさんの『勘』の的中率は100%ではない、って事。この事実が分かっただけでも素晴らしい。フードはいい仕事してくれた。
という事で、再装着。そっとフードを被り直してみると、レオさんが考え込んでしまった。精神攻撃が通ったらしい。レオさんは動揺している。要するに、後ちょっとだけ耐える事ができれば、俺はフリーだ。そもそも、拷問ごっこで何を吐かせようとしているんだろ。
「聞きたい事は大きく二つ。琥珀の発言によっては増える事もある。」
レオさんが淡々とした静かな声で答えてくれた。俺は今、言葉に出して質問してない筈だったんだけど。えっと、出したっけ。いや、出してない、筈。ん~、100%の的中率じゃないにしても、レオさんの『勘』はやっぱりヤバい。スツィ曰く、驚異的な勘、だもん。ヤバくて当然か。
レオさんはもしかすると、ネロより勘が鋭いのかもしれない。そうだよね、レオさんの『勘』は特性に裏打ちされている勘だもん。ネロより鋭いって考えた方が正しそう。
ネロの場合は勘にプラスして、観察する能力や行動を予測する力が凄い。と、すると、特性ありのレオさんと同等レベルの勘を発揮するネロは凄い。ある意味レオさんより凄い。流石ネロだった。
「へ、へぇ。そう。別に俺は隠してる事はないし。うん、全然平気だよ?あ、あと、フードに手を出すのは禁止だからね。これは最重要な項目だからね。」
内心の動揺を隠しつつ、言葉の上では強がってみる。一応ね、フードは死守する方向で行こうかな。だって、耳に口を寄せて話されるとゾクゾクしちゃうんだもん。その瞬間、レオさんが楽しそうに目を細めちゃった。実にイヤらしい笑顔である。
「ほぉ、条件を付けてくるんだ。じゃぁ、手加減はしなくていいよね。」
レオさんが目を合わせて、優しい口調で、優しい眼差しで、ゆっくりと言い聞かせてくる。雰囲気に飲まれてコクっと頷いちゃった。だってね、優しいのに強制する迫力がヤバくて逆らえない感じだったんだもん。
レオさんの目が細められたと思ったら、静かな冷たい光が漏れ出した。ぞくっとする程、艶やかな色気を帯びている気がする。冷たい光なのにさっきは感じた怖さは全くない。それどころか、甘い感じがするのは気のせいなのかな。まぁ、ごっこ遊びって分かってるから怖く感じない、って事かも。
レオさんの眼差しを冷静に分析していたら、レオさんの顔から表情が消えていって真顔になっちゃった。そして、レオさんが静かに見据えてくる。やっぱり、レオさんのこの表情はヤバい。ドキドキしちゃう程、カッコいい、気がする。
普段のレオさんの雰囲気と全然違うからなんだろうな。鍛錬場で集中してた時と同じ、凛とした感じがヤバい。吸い込まれそうな程綺麗な冷たい光の緑の瞳に見入ってしまいそうで、スッと目を逸らしちゃった。
「目を逸らすのは許可しない。こっちを見ろ。」
冷たく低い声が静かに命令してきて、びくっとなっちゃう。恐る恐る、視線を戻すと、レオさんの唇が少しだけ動いて微かな笑みの形を作ったのが見えた。
真顔で冷めた表情、冷ややかな視線、冷たい口調、それなのに口元だけ笑み、とか。何故か色気がヤバいんですけど。迫力がヤバくて超怖いんですけど。えっと、これは何。俺達は今何をしている最中だっけ。
「いい子だ。」
レオさんが頬を撫でてくる。指が触れるか触れないかのソフトタッチで、ぞわっと鳥肌が立ってしまった。しかも、低い声がヤバい程セクシーなんだけど。全然違うじゃん、拷問ごっこじゃなくて、本気の拷問体験じゃん。怖いんですけど。
「じゃあ、聞かせて。帰って来る時に何を考えてたの?楽しい事、じゃなくて、ヤバい事を考えてたんでしょ?」
怯えが伝わったらしく、レオさんは少しだけ優しい眼差しになってくれた。そして、少しだけ優しい口調で疑問を投げかけてくる。質問を聞いて、怖さの感情が消え失せて戸惑いに変わっちゃった。
一応、聞かれた事には答える姿勢は作ってたんだよ。でもね、ん~、何の事だろう。思い浮かばなくて首を傾げちゃった。そんな、レオさんじゃあるまいし、ヤバい事なんて考える訳ないじゃん。うん、考えてない。これが正解。
レオさんは様子を窺っていたらしく、苦笑して頭を撫でてくれた。どうやら、俺の思考は今回も筒抜けだったみたいだ。でも、髪を撫でてくれた後は、また静かに見据えてくる。あくまで答えを要求してくる構えっぽい。でもな、マジで分かんないんだよ。
「その顔も可愛いけど、頑張って思い出そうね。」
困っていたら、レオさんが顔を近付けて甘い声で囁いてきた。そして、頬に触れるような優しいキスをしてくる。何回か繰り返すキスが凄くゾクゾクするのは何でなの。耳へのキスじゃなくてほっぺだよ。弱点攻撃は封じてあるのに何でなんだろう。
それに、レオさんの瞳は変わらず冷たい光を放っているんだよ。それなのに、何故か表情は何とも言えない色気を醸し出している、気がするんです。その表情で頬にキスをされるから、顔が近くてヤバい。
唐突なレオさんのモードチェンジにびっくりして固まってしまった。レオさんは頬に何度かキスをしてきた後で、顔を離して覗き込んできた。レオさんの瞳から冷たい光は取り除かれているんだけど、視線は答えを要求する姿勢を崩してなくて、困っちゃう。
えっと、マジで分かんないんです。困惑の気持ちを目で訴えてみると、レオさんが少しだけ優しく目を細めてくれた。優しい雰囲気だけど、終わらせてくれなさそう。
いつも通りに、レオさんは俺が口を開くまで、ゆっくりと待つスタイルらしい。優しい笑みと愛おしいモノを見る眼差しがゾワゾワってしちゃう。この感覚は何だろう、って考えていたら、レオさんが俺の頬に手を添えてきた。
レオさんの手に意識が集中しちゃうと、レオさんが優しく目を細めて、指で俺の頬を撫で始めた。いつも撫でてくれるのとは微妙に違う、そっと触れるような指の感触で考えに集中できない。
レオさんの手が頬から下にスライドしていく。首に手が置かれて、優しく撫でてくれた。と思ったら、その手を斜め上にスライドさせていく。どうやら、今回のレオさんは待つ間に、悪戯をして楽しむ事にしたらしい。
そして、レオさんの手がフードの中に潜り込んできて、耳の後ろの髪を撫でてきた。微かに振れる程度の刺激なのに、ゾクゾクが止まらない。鳥肌が立ちまくってヤバい。レオさんはこの技術をもっと他の事に役立てたらいいと思うんですよ。
「琥珀?他の事を考えないで。」
髪を撫でながら、レオさんが甘い声で囁いてくる。瞳がまた冷たい光を放ち始めて、甘い声と変な色気のせいで、レオさんがヤバい程色っぽく見えてしまう。
ってか、レオさんが色っぽいってなんだよ。ネロなら分かるよ。でも、レオさんに色気なんてない筈。あ、ん~。まぁ、レオさんは遊びまくってるんだよね。そう考えると無い訳ない、のかな。でも、無い筈。
「ふ~ん。もう一つ、聞きたい事ができちゃった。先に聞いちゃおうかな?」
レオさんが楽しそうな笑みを零して、甘く囁いてくる。至近距離で見つめてくる静かな光を放つ緑の猫目から目を離せない。優しい表情なんだけど、何故か変な迫力が増した気がする。
「俺の事を考えてたでしょ。何を考えてたのかな?口に出して言ってごらん?」
無言で見つめ合っていたら、同意したと判断されちゃったらしい。レオさんが優しい口調で質問という名の命令をしてきた。至近距離で見せてくれるニコっとした笑顔が凄い迫力でヤバい。
ってかね、レオさんは考えを読んでくる癖に、敢えて言わそうとしてくるのがイヤらしい。そうやって、恥ずかしがる姿を楽しむ趣向とか、ホント、いい趣味してるなって思っちゃう。どうせならネロとすればいいのに。
「レオさんは沢山遊んでるタイプの人だから、無い訳ない、と思うけど無い筈。」
「ん~、何が?」
レオさんの追求からは逃れられない、気しかしない。って事で、観念してサクッと答えてみた。レオさんがクスッと笑ったのが見える。獲物をいたぶる猫ちゃんの顔になってる。優しい口調でねっとりと聞いてくるレオさんは絶対分かってる、と思う。分かってるからこその、この反応だもん。
あ、分かってるって事は、ですよ。要するに、レオさんを色っぽいって思っちゃったのがばれてるって事じゃね?ヤバい、超恥ずかしくなってきた。こんな至近距離で、お膝の上で、レオさんを色っぽいと思っちゃうとか。マジで恥ずかしい。
「それは秘密です。」
顔を逸らして、最後の抵抗を振り絞って小さな声で答えてみる。例え、ばれていたとしても、口で言うのは恥ずかしい。絶対に言えない戦いですよ。ここだけは死守しなきゃなんです。
「そう?でも、顔が真っ赤になっちゃってるよ?赤くなった琥珀も可愛いけど、このままじゃ、恥ずかしい事を考えてたって思われちゃわないかな。凄ーく恥ずかしい妄想に俺を登場させたって思われちゃうんだよ。俺は別にいいけどね。だって、琥珀が俺でエロい妄想とか。ね。」
フードに潜り込んでいるレオさんの手が髪を撫でてくれる。優しい声が言い聞かせる感じで耳に響いてきた。顔を逸らして聞いていたけど、優しい声とは裏腹にヤバい誤解をしている事に気付いて、ぶわっとレオさんに目を向けちゃう。
視線の先で、レオさんが可愛く小首を傾げているのが見えた。顔が真っ赤は正しいかも。だって恥ずかしいし。でもね、恥ずかしい想像なんてしてないし、エロい妄想もしてない。恥ずかしい気持ちになっただけで、恥ずかしい想像じゃないもん。
「恥ずかしい想像じゃないの。レオさんが色っぽいって思っただけ。ネロなら分かるけど、レオさんは色気とかそんなの無い筈なのにって混乱したの。以上。」
「そっか、ありがと。」
勢いよく誤解ですって言い切って、ふーっと息を吐き出しちゃった。レオさんは嬉しそうに目を細めてお礼を言ってくる。えっと、なんでお礼を言ってきたんだろう。じっと見つめていたら、レオさんがフードの中の手を首の後ろに置いて、引き寄せてきた。
急な行動にびっくりして、顔を近付けてくるレオさんの胸に手を置いて突っ張って、イヤって意思表示をしちゃう。レオさんは片手でやんわりと俺の両手首を掴んで、あっさり外してきた。そして、頬にキスをしてくる。
何回か優しくキスを繰り返した後で、レオさんは手首からも首からも手を離してくれた。そして、俺の背中で手を組んで、ニコっとしてくれる。こっちも笑顔になっちゃう感じの、優しい笑顔だ。
なんとなくだけど、レオさんの笑顔の種類が変わった気がする。冷笑と呼びたくなる感じの、色気を伴う笑みじゃない。瞳の冷たい光ももうない。いつも通りのレオさんの優しくて穏やかな眼差しと優しい笑顔。
レオさんの雰囲気が変わった事から、レオさんの趣味の時間が終わったって分かった。でも、レオさんは穏やかに微笑んだままで、抱っこの腕を開放してくれない。
「拷問ごっこは終わり?」
「ん~、続けたい?」
ちょっとの間見つめ合っていたけど、意を決して聞いてみる事にした。レオさんは優しく目を細めて、質問を返してくる。どうやら、俺に権利を委ねてくれるらしい。
そうだな、拷問ごっこはもういいかなって感じはある。でもね、気になる事がまだ残ってるんだ。拷問ごっこの際中に、レオさんは2つ聞きたいって言ってた。聞きたい事が何だったのかが超気になるんだよ。
「二つの質問が知りたい。一つは聞いたけど、もう一つはなぁに。」
「成る程、ん~。」
「どしたの?」
笑顔でレオさんの質問を聞く姿勢を見せてみたら、レオさんは困った顔で言葉を濁してきた。なんでそんな顔になっちゃったんだろう。素直に聞いてみるとレオさんがキュッと抱き締めてくる。少しだけ強い力にびっくりして体を固くしちゃったら、抱き締める力が少しだけ弱まってくれた。
「フードを外して軽い拷問ごっこにしよっか。琥珀を怯えさせるのは嫌なんだよ。俺も琥珀も楽しめる方がいい。」
ちょっとの間、抱き締めたままでいたレオさんだったけど、体を離して、心底嫌そうな顔で答えてくれた。その表情と話し方が面白くて、ふふっとなっちゃった。レオさんはノリノリだと思ってた。
あ、もしかすると、暗殺者疑惑の時の怯えた俺を思い出しちゃったとかなのかな。あの時はホント怖かったけど、あれと比べたら、全然怖くなかったのに。だって、今回はごっこ遊びって分かってたし。全然平気だったんだけどな。
「怯えてはない、と思う。ちょっと怖かっただけだもん。」
「そう?」
レオさんの心情をちょっとだけ理解した上で、ちょっとだけ甘えた口調で気持ちを伝えておく。レオさんが確認する感じで聞き返してきたから、コクっと頷く。
まぁ、怖いと思ったのは事実なんだけど、怯えてたか、というと、そんな事はないと思う。ただ、レオさんと触れ合う上で、怖がるなって方が無理な話なんだよね。
だってね、レオさんは雰囲気が怖いんだもん。目付きも怖いし、顔も怖い。でもね、その怖さが心地いいんだよ。怖いモノ見たさ、みたいな心理が働く感じ。
怖いけど、もっと話したいって。怖いけど、触れあいたいって。怖いけど、傍にいたいって思っちゃう。そして、怖さの先にいる凄く優しいレオさんで安心したいって思っちゃうんですよ。
「でも、二人で楽しむ方向がいいかな。琥珀の可愛い笑顔を見ながら話したいし。」
納得はしてくれたっぽいけど、レオさんは意見を変えないらしい。ただ、二人で楽しみたいって言葉が嬉しい。それは完全に同意できる。楽しい方がいい。コクっと頷くと、レオさんが嬉しそうに笑ってくれた。緑の目が優しく細められて、穏やかな雰囲気が心地いい。
こんなに優しくて安心感の塊の瞳と、あんなに冷たくて惹かれる瞳が同じとか、ドキドキしてきちゃう。レオさん本体と同じで、この深い緑のキラキラな猫目すらもギャップを持ち合わせてる。しかも、色っぽくもなるとかヤバい。
「って事で、フードを外そうか。自分でできる?」
レオさんが防御の為の装備を外す指示をしてきた。子供に話し掛ける風の優しい口調だ。ニヤリ顔とかだったら警戒して意地でも外さないけど、このレオさんは優しいモードだから平気。小さく頷いてフードを外してみると、レオさんが髪の乱れを優しく整えてくれる。
髪を整えてくれるレオさんの指の動きは凄く丁寧。優しく滑らせてくる指には乱暴で雑な感じが全くない。最初は雑ってイメージしかなかったレオさんだけど、この家で一緒にいる間に変わった気がする。ネロと一緒に過ごしていたから、ネロをお手本にして、って感じかな。
髪を撫でてくれるのも、キスをするのも、抱き締めてくれるのも。基本的には凄く丁寧だ。時々意地悪をしてくるし、揶揄ってくる。でも、レオさんの眼差しは優しくて、愛おしいって感情が溢れ出ているのが分かる。ネロの子なのに、ここまで愛情を込めて扱ってくれるレオさんの心が嬉しい。
「レオさんもネロも髪を撫でるのが丁寧だよね。優しい感じがする。」
「ネロも付け加えるトコロにモノ申したくなるけど、まぁいい。可愛い琥珀の髪だし、丁寧にもなるよ。」
レオさんの優しい手のひらに顔を摺り寄せて、感想を漏らしちゃう。レオさんは苦笑しながら、ネロってトコロに反応してちょっとだけ不満そうになっちゃった。でも、その後で、幸せそうな笑みと一緒に、飛び切り優しい眼差しで答えてくれた。
俺の髪だから丁寧になる。俺込みのネロを好きって言葉通りの、優しい気持ちに溢れている言葉。俺をネロの子供として可愛がってくれるからこその言葉。ネロがいないこの状況でも、優しい気持ちを届けてくれた。メッチャ嬉しい。ニコニコが抑えられない。




